『ありがち日記』

アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』

殺人事件の起こらないサスペンス?


ストーリー
優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦への愛情に疑問を抱きはじめる……女の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。 解説:栗本薫 

殺人も起きずミステリーではないのに、とても怖かったよ…特に一番最後ね。やっぱりクリスティーってすごいんだな…達観してる。

娘の病気見舞いを終えて、バグダッドからイギリスへの長い長い旅の帰路で足止めされるジョーン。砂漠のど真ん中で周りには何もないし、ジョーン以外に宿泊している客もおらず、スタッフたちも料理もただただ退屈。

そうなると、自分の内面や周囲の人々との関係について考え始めてしまう。

…嫌な予感しかしない。

自分が完璧だと思っていた夫婦関係や親子関係について、面倒なことは見ないようにして、ただ自分にとって(家族のためと言いながら)都合の良いように振舞ってきたこと、夫・ロドニーや子供たちが本当に自分のことを愛してくれているのか?という疑問、そんなものが次から次へと頭の中に浮かんできて、ひたすらに自分と向き合う時間。気が狂いそう…!

で、これからは新しい自分になる!で終わるかと思いきや、最後の最後でそうきましたか。彼女は覚悟したのか?

ロドニー視点の話もまた衝撃。ジョーンもジョーンだけど、ロドニー、あなたもひどい。ジョーンだけの問題じゃなく、周囲の人たちも多少なりとも責任があるのではと思うよ。

読んでいて気持ちのいい話ではないけれど名作です。
こんな本を書けてしまうクリスティーの凄さが身に染みてわかる本。

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