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山本周五郎の世界。

2013年07月03日 | Weblog
山の案内 歩き日記 今日の猫たち
  私は、20年くらい前に、山本周五郎作品に夢中になり、古本を買い、読みふけっていた。沢山の単行本が書棚に並んでいる。

 今、再度、読み返しているが、歳のせいか、重たい話しに、疲れを感じる。やはり、ハッピーエンドで終わる人情話がよい。人情話を読み、登場人物の言葉に涙すると、不思議に心が安らぐ。
◆作風
 山本周五郎作品は、心の奥深くまで、突き詰めて行く、表現で物語を展開する、重たく暗い、作品がおおい。市井に生きる庶民や流れ者、浪人者、武家社会のヒューマニズムを描いた作品である。

 人生のつらい思いや、苦しさを知り尽くした、登場人物の言葉ひとつひとつに、人間が生きる上での重要な意味が含まれる。

 かといって、重たい作品だけではない、笑いと涙の人情話も、傑作がおおい。物語の展開のうまさ、ラストシーンでの、登場人物の言葉に涙する演出、周五郎の卓越した、技量を感じる。 
◆日々平安
 今、「日々平安」を読んでいる。この本は、11編の短編集で、重たい作品と、人情味のある作品が混在している。その中で、重たい作品は「ほたる放生」と「しじみ河岸」で、昨夜読んで、暗く心が沈み、疲れた。

 ほたる放生の登場人物は、娼婦(主人公)と、その”紐”、娼婦を一途に愛する男、”紐”が連れてきた少女(紐の新しい娼婦)、娼婦宿の女主人である。娼婦は”紐”に騙され(騙された振りをして)、あちこちの娼婦宿に売られる。

 話しは、此処まで娼婦は”紐”に尽くすのか、此処まで”紐”は冷酷に娼婦をだませるのか、此処まで男は、娼婦を愛せるのかに尽きる。

 ラストシーンは、娼婦が”紐”の裏切りに気づき”紐”を殺害しようとする直前に、男が、愛する娼婦の幸せを願い”紐”を殺害する。そこで娼婦は・・・・・・

 それぞれの登場人物の心の葛藤を、見事に描いた、作品だが、重く心が沈んでしまう作品でもある。「娼婦と男を幸せにしてやれよ」と、山本周五郎に言いたくなる作品である。

 しじみ河岸は、殺しの嘘の自白をする娘、自白に疑念を抱き、真相解明する、与力の話しである。娘は、病気の父親と、魯鈍な弟(直)との生活に疲れ、家族の面倒を一生みる約束で、権力者の息子の身代わりとなって、殺しを自白するのである。

 最後の娘の言葉、暗く、切なく、何とも云えない、陰鬱感が残る。

 「それで清太郎の身代わりになったのか」
 「あたしは疲れてました、しんそこ疲れてきってました」・・・・・「お父つぁんや直が、安楽に暮らしてゆけるなら、自分はどうなってもいい、・・・・・・もう躯も続かない、なんでもいいから休みたい、手足を伸ばして、ゆっくり休めたら、それで死んでもいいと思ったんです」

 日々平安には、表題の「日々平安」や「水戸梅譜」など、藩の騒動をユーモラスに解決する話しや、人情味溢れる話しの短編もある。

 水戸梅譜は、人情味溢れる、ハッピーエンドの作品で、涙もろい私は、不覚にも泣いてしまった。ラストシーンは、万感胸に迫る。

  「そのほうの父を死なせたのは余の不明であった、ゆるせ・・・・」ゆるせと云いながら、はじめて光國の眼から涙があふれ落ちた。・・・・・・・・・・

 光國の心にはかって覚えたことのない感動が去来した。今日見いだした野の梅は二本だったが、ほかにたぐいまれな名木をたずね当てたのである。

 日々平安は、読みかけで、ぼちぼち、完読したいと思っている。その他、沢山の単行本も、ぼちぼち、完読したいと思っているが、どうなることやら。
◆小説の不思議さ
 山本作品を読むのは、20年ぶりくらいで、小説の内容は、殆ど忘れている。ところが、読み進むと、あらすじが脳裏に浮かび、記憶が蘇ってくるのである。不思議な現象だ。

 脳のどこかの引き出しに、読んだ本の記憶がしまわれいるのだろう。脳の神秘である。

◆山本周五郎作品・・・数ある作品のほんの一部を紹介。詳しくは新潮社山本周五郎を見て下さい。 

 日本婦道記(にほんふどうき)・・・山本が直木賞を辞退した作品。
     厳しい武家社会で、夫のため、子のために生き抜いた、妻や母の、慄然とした愛情、哀しさがあふれる感動的な作品集。(短編11編収録)
 樅の木は残った(長編)・・・山本が日本出版文化賞を辞退した作品。
   主人公は、悪人とされてきた原田甲斐・主人公が、幕府による取り潰しから、藩を守るため尽力した話しで、原田甲斐を新しい観点で捉えている。
 正雪記(長編)
   世を覆う巨大な権力。増える浪人たち、迫害されるその生活。驕れる幕府に正雪が物申と、由井正雪の乱(慶安変)を起こし、駿府で自殺した由井正雪を主人公にした物語。
 さぶ
   のろまな「さぶ」と、仕事ができて男前の「栄二」。盗みの罪を着せられ、人足寄場に送られた「栄二」、自分を犠牲にして尽くす「さぶ」に励まされ、多くの苦しみや苦難を乗り越え、人生の真実に気づくまでを描く感動作。
 赤ひげ診療譚
   医は仁術を実践した、医師、「赤ひげ」に、幕府の御番医の道を約束された、青年医師は、反抗するが、次第に赤ひげの強い精神力、医に関する考えに惹かれてゆく。赤ひげと青年医師の心の葛藤を描く傑作。
 寝ぼけ署長(唯一の探偵小説)
   署でも官舎でもぐうぐう寝てばかりの“寝ぼけ署長”が、庶民への思いやり、慈しみあふれる、方法で、難事件を解決する。
 人情裏長屋
  人情味あふれる短編11編を収録。私の好きな短編集。涙、笑い、読後感が爽やかで、人に優しくなる作品がおおい。
 町奉行日記
   奉行所に任命された、主人公は、一度も奉行所に出仕せずに、思いもよらない方法で、難事件を解決してゆく、町奉行の痛快な活躍を描く。他、短編10編を収録。

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