Halfmoon Bay
昨夜は真夜中まで、コラリアの部屋に缶詰。
やっと、自分の部屋に帰ったものの、妙に寝つきが悪くて、頭がボケ気味。
コラリアはまだ起きて来ないようです。
まだ冷たい朝の空気の中で芝生に水を撒いていると、バタバタバタとトムがやって来ました。
行動パターンが私と同じ朝型というのも嬉しいですねぇ、けど今日は一寸負け。
そう言えば、昨日別れ際に「明日は魚採りに行こう」と言ってましたね。
VW の後部座席に見た事もない大きな三角の網が乗っています。
まさかこれで魚をすくう?こんな網空中で振り回すのでも大変そうなのに、水中ではどうしようもないでしょう。
「Good day!」って元気ですねぇ。
とりあえず、キッチンでコーヒーを振舞っていると、寝不足の目をしてコラリアがデレ~ンと現われました。
「一緒に行かない?」
「Booh!」と手をヘロヘロッと振って引っ込みました。
彼女はどちらかと言えば夜型。
「お昼までには帰るからね!」
太平洋に面した Halfmoon Bay が目的地。
真西へ丘陵を横切ったところなので大して時間は掛かりません。
なるほど、名前どおりにきれいな弧を描いた砂浜です。
しかし、この波の高さはただ事では有りません。
沖ではそんなに大きなうねりでも無いのに、岸に近ずくとグワ~ッと盛り上がって、人間の背丈以上になって崩れるんです。
見ると似たような網を手にした人がパラパラ居ます。
沖の方を眺めて何かを探しているようなんですが、何も見えません。
「何をさがしてるの?」
「Sea Lions!」
「何?」
「Hair Seals, a kind of Seals!」
「???」
棒切れで砂に字を書いてくれました。
「?Seal ってオットセイ?」
「オットセイ?」
「What?」
エ~、オットセイって英語と違うのか?
カタカナの言葉は、そのまままアメリカでも通じると思ってたのに、ほとんど全滅です。
カリフォルニアって、オットセイがそこらの海に居るのかなぁ?
沖にオットセイが現われると、魚が岸の方に逃げてきて、波と一緒に運ばれてくるんですって。そこで、網を振りかざして海の中に入って、網を逆さまに砂に立てて頑張ってると、波が引くときに魚が入るんだそうです。
何と単純粗暴、能の無い採り方ですね。
待てど暮らせどオットセイの姿は無し。
痺れを切らしたのか、何人かが海に入りました。
膝ぐらいの深さのところで網を立てていると、ドォ~ッと波が来て一瞬全身が波の下に・・。
収穫無し。
これは体力要りますね、波と格闘です。
しかし、こんなので捕まる魚は相当アホですよ。
本気で捕まえようと大真面目でやっている人間は、もっともっとアホです。
あきれて見ていると、エッ?捕まった。
兄ちゃんが奇声を上げて浜に上がって来ました。
何と60センチを越える魚が網に入って暴れています。
ボラみたいな魚ですが、少し違うみたい。
本当に魚が採れるとなると、呑気に見ている訳には行きません。
裸になって、海に入ったら、タイミングを間違って、もう波が目の前に!
アッと言う間もなく、真正面からドバァ~と波に呑み込まれてしまった。
鼻に思いっきり海水が・・、脳味噌までギーンと痛い。
やっと、ひっくり返らずに耐えたけれど、これは思ったよりも凄いなぁ。
さすがにトムは無闇に入らずにタイミングを測って入ったらしい。
けど収穫は0。
第二回目は波が引くのと一緒に海に入っていって、浜の方に向いて、背中から波を受ける体勢。
網を立てて、脚を踏ん張って、サァ来い。
それはいいけど、波が小さくて腰の辺りまでしか来ない。
と思ったら、1ッ拍遅れてでかいのがドッカーン。
見事にひっくり返されて、ゲホゲホ、網を放さないのと、起き上がるのが精一杯、魚を採るどころの騒ぎでは有りません。
これはぼやぼやしていると沖へもっていかれて、オットセイに齧られかねません。
サメと違ってオットセイは人を襲わないのか?
それにしても、少々効率が悪いような気がするけど、意外に爽快です。
しかし、水が冷たい!
五、六回挑戦しても獲物は無し、あまり寒いから、一寸休憩。
さすがに地元の連中も寒いのか焚き火をしています。
トムとその辺りを捜して見つけた木切れを手土産に持って焚き火に参加。
馬鹿馬鹿しい事をしている者同士は、なんだか妙な親近感が湧くみたいで、暖かいココアをご馳走になったり、女の子が焼いたマシュマロをくれたり。
この焼いたマシュマロには意表を突かれました。
元々日本でも、マシュマロなんてあんまり食べた経験が無い。
トムに言わせると焚き火にはつき物だそうです。
枝にマシュマロを突刺して炙るんですね。
うっかりすると、マシュマロが熔けて火の中にドテッと落ちるので、常に注意して焼け具合を監視していなければなりません。
表面は煤けたみたいになって、カブリつくと熔けた熱々のマシュマロがドロッと出てきて、アッチチ。
一体これの何処が美味しいのか?
そのまま食べた方が、手間も掛からず、火傷の心配も無いのになぁ。
さっきデカイ魚を捕まえた兄ちゃんが唯一の成功者みたいです。
あの粗雑な方法で見事に魚を捕まえたのですから、確かに賞賛に値します
砂に突刺して立ててある、網に入ったままの魚を良く見たけど、ボラよりもスズキに似てるみたい。
名前を訊いてもどっちみち判らないだろうから、大きな魚で納得しとこう。
「食べるのか?」と訊いたら
「スープにすると旨い」とそばのオッサンが親指を立てました。
オットセイが居るとかなりの確率で魚が網に入るそうですが、本当かなぁ??
朝が早いから余計水が冷たいんでしょうか?
これなら、オットセイどころか、ペンギンでも住めそうです。
そう言えば、ラッコが居てたよなぁ・・。
ラッコなんて瀬戸内海や紀伊半島には居ませんよ。
確かずーっと北の方の海に居るはず?
熱帯に居るハチドリが飛んでて、椰子の街路樹が有るのに、海にはオットセイにラッコ?
住んでる人間は白黒黄色赤と色とりどり人種の展覧会。
カリフォルニアというのは不思議な所です。
Sea Lion はオットセイではなくてアシカでした。
寒流の影響で、いるんだそうですね。
霧が出易いのも、海水温度が低いからだそうです。
もう少しサンフランシスコ寄りには、アシカが群れている湾があるそうです。
カリフォルニア・アシカと言う名前がついた種類のも居ると言う事を、日本に帰って十年近く経ってから子供を連れて行った動物園で知りました。
2003/05/12:初出
2022/05/14:再録