黒い礼服にノーネクタイ
ポケットから黒いネクタイの一部がはみ出ている
通夜が終わり同僚と立ち寄った私の店
寺から出てネクタイを外し、真っ直ぐ私の店に来店
蒸し暑い夜
『いらっしゃいませ~♪』
店内の美人スタッフに迎えられ差し出された冷えたオシボリで顔を拭きながら
『ママ、ギンギンに冷えたビールね』
月に2~3度足を運んでくれる常連様
『誰かの通夜だったの?』
『うん・・・同僚の通夜』
『何で亡くなったの?』
『心臓麻痺だって』
『何歳だったの?』
『まだ46歳だったよ』
同僚仲間と6人での来店
不動産業の仕事をしてる彼ら
当時、店にはバーテンダーが居た
男性を使う事で違う楽しみがある
男ならではの気配りがある
『良ちゃん、こっちに来て一緒に飲もうや』
人懐こい人柄が買われ常連客に名指しで呼ばれる
"声が掛かると嬉しそうに飛んでくるバーテンダーの良君"
私は密かに 【ザ・底なし君】 と呼んでいる
半端なく彼は酒が強い
お客様も、それは知っている
あっと言う間にボトルを空けられるのを覚悟で底なしの良君を呼んだ常連客
『全員、黒服ってのも迫力ありますね』
良君の言う通り、礼服の黒は普通の黒いスーツとは違う
『男の人って便利よね、ネクタイの色を変えるだけで冠婚葬祭出来るから』
『まあね』
同僚の通夜
空気が重い
『しかし、やっぱり事故物件は怖いな』
飲んでも酔えない雰囲気の通夜帰り常連客の1人が口を開いた
『事故物件って何?』
良君の問いに
『自殺者が出た売り中古住宅物件の事だよ』
『怖いって事はでるんですか?幽霊が』
『アハハハッ~』
『自殺者が出た家は買いたくないだろ?』
『そうですね・・・。』
突っ込みが難しい会話
『あいつ、あの家の担当になってから様子が変わったもんな』
『まさか、通夜の場でそんな事は言えないしさ』
資産税を払えない身内が手放した競売物件だったと言う
『担当を任されたら会社を辞めようかと思ってたよ』
そうとうヤバイ物件だったのか?
売買される物件は個々に担当者が居る
いわくつきの物件は昼でも中に入れば不気味
『気の持ちようなんだけどな』
『あいつは一日でも早く買い手が見つかるように熱心に掃除しに行ってたっけ』
故人の仕事ぶりを賛美する同僚達
『あいつって誰?』
空気読めない底無し君
『心臓発作で亡くなった俺らの同僚の今日の通夜の主役だよ』
『その家の幽霊を見て心臓発作起こして亡くなったとか?』
『良ちゃん、そんな事を言っちゃ駄目よ』
言葉も選ばない底無し君
『いいんだよママ、俺達も、もしかしたらって思ってるから』
『えっ?』
少しでも安く買い、安く売る為に担当者と専門業者が掃除して現状引渡し
『だけど事故物件は、そうは簡単に売れないものさ』
一気に店のテンションが下がった
『連絡が取れなくなり身内が心配して家に入り遺体を見つけたのは2ケ月後』
『2ケ月間も遺体がそのままだったって事なのね』
『人型の染みが取れなくて大変だって言いながら、あいつは掃除してたよ』
【リアルに意地悪再現してみました、本物ではありません】
『臭いも残ってるし、あの事故物件は誰も担当したがらなかった』
『不動産業も大変ですね』
『亡くなる1週間前に、あいつは妙な事を言ってたんだ』
"俺、あの家の臭いが染み付いちゃったみたいだよ"
『うん、奥さんから言われたらしいな』
『何て言われたの?』
『腐った臭いがする・・・だと』
『俺、冗談で言っちゃったんだ』
『自殺した人が憑いているんじゃねぇの?ってね』
『・・・。』
『本気にしたのか、あいつ・・・顔色を変えてさ』
『その家は売れたの?』
『だからさ、そう簡単には売れないの』
『じゃあ、誰か違う人が担当するの?』
『俺だよ』
一番端っこに座って飲んでた最年長が口を開いた
『事故物件の家で心臓発作を起こし亡くなった同僚の為に俺が担当するのさ』
『亡くなった同僚は、事故物件の家で亡くなったの?』
『偶然さ、明日はあの家の写真を撮りに行くんだ、チラシを作るために』
『何か写るかもな?』
事故物件は俺が、あいつの代わりに売る
『弔いだ』
『その家を見たいな?自分も一緒に行っちゃ駄目ですか?』
底無しの良君の言葉に
『見たいか?興味があるなら連れてってやるよ』
彼らを待ち受ける恐怖
『良君、その家に行って憑かれちゃ駄目よ』
『大丈夫っすよ、自分は霊感がないんで』
BUT
大丈夫じゃなかった
*:・'゜☆。.:*:・'゜★続く★゜'・:*:.。.:*:・'゜:*