急げ、並べ

　25種類1000個。
　なくなり次第終了。
　ドーナツの店。
　奥行きが狭く、1人が店に入ると次の人は外で待たなくてはなりません。
　あっという間に行列になり、遠くから見ると何か面白いことが行われているかのように感じられます。
　色鮮やかな数多くのドーナツは、確かにお祭りのようです。

焦るとき

　電車の扉が開き、中から人が降りてきます。
　脇に避けて人が途切れるのを待っていると、後ろに並んでいた人がぼくの前にスッと出ました。
　なんだ！　割り込みか！
　するとぼくの視線を感じたのか、その男性はこっちを振り返って「どうぞ」と一言。
　ああ、ありがとう。
　いや、礼を言うことではない。

葬儀の日

　今年の夏に一度も着なかった半袖の白いシャツ。
　シーズンの始めにアイロンをかけたのに、クローゼットの中で吊るされたまま一夏を過ごしてしまいました。
　仕舞う前に着ておこう。
　合わせるパンツは黒になり、鏡に写すと学生みたいです。
　あるいはこれから献花に向かう人のよう。
　昼に会う友人に「行くの？　武道館？」と言われそうです。

いまどんな状態

　歯科医院で歯の掃除をしてもらった帰り道、口の中に血の味がしました。
　味とはいっても、美味しいとか不味いとかとは別のもの。
　これから昼食をとろうというのに、この味は何の参考になりません。
　定食屋の前で見かけたメニューに刺激され、トンカツの口になった、鯖味噌の口になったというのはよくあることですが、血では何の口にもなりません。

仕掛けられた流行ではなくて

　最近、同じ店のパンばかりを食べています。
　バゲットとパンドミを買ってきて、冷凍庫に保存しておきます。
　それを毎日少しずつ解凍して焼いて食べます。
　なくなる前に、また同じものを買ってきます。
　これをブームと呼ぶのでしょう。
　あるいは、はまっていると。
　その店のパンを最初に食べたのは何年も前のことです。
　でもその時はハマりませんでした。
　好みが変化したのでしょうか。
　きっといつの日かブームは去ります。
　流行り廃りを決定するのは、この場合ぼく自身です。