【花植え作業でリーダーシップをとりたいおばさん】
●土づくりを終えて一か月後
10月はじめは土づくりだった。昨年の花壇の枯れた花を取り除き、根っこ
を抜いたり切ったりして、次の花の植え付けに備えた。
スコップや鍬でかたくなった土を掘り起こしやわらかくした。カのいる作業だ
ったので参加していた数人のお父さんたちが活躍してくれた。「は一い、それじ
ゃ花壇ごとに腐葉土をまいてくださ一い」と、リーダーさんから声がかかり、
大きな袋にはいった腐葉土をばらばらと土の上にまいていく。枯れ葉などのく
さった臭いがして、小さいころ育った田舎の田んぼを思い出した。腐葉土と土
がよく混ぜ合わさるようにスコップでなんどもかきまぜ、その上にパラパラと
白い丸い肥料をまいて花壇の土づくりは終わった。
(花 1)
あれからひと月、自治会の花壇担当者から緊急のチラシがポストに入ってい
た。「花の植え付け作業、ご協力のお願い。急な日程となりよろしくお願いしま
す」。「え一、11月の終わりって聞いてたのに、今週の土曜日だなんて!しか
し何とかしよう。共同作業は大事なことだから」と、私はスケジュールをあけ
て参加した。
(花 2)
●根切り虫の幼虫って土にいいのよ
平坦になった花壇にスコップを入れると土がやわらかい。「いや一、こんなに
掘りやすいと思わなかったわ」と、声が聞こえる。「そうなんや、やっぱり腐葉
土や肥料を入れて手間ひまかけて準備したからやな」と、私も思いながら土掘
りをしていった。「チューリップの球根はまあるくなった方を外側にむけて入れ
てください。土は深く掘ってね。お願いしま一す」と指示がでる。穴掘りが浅
いと水やりをしたとき球根が土の上にでてしまい、赤くなって芽を出さなくな
ってしまう恐れがあるとのこと。
「今年は根切り虫が多いわね」と、年配のおばさんが言った。土を掘りおこ
すと2cmくらいの白い幼虫がま一るくなって眠っている。「あ、これ根切り虫
の幼虫なんですか」。私はこんな形の幼虫が小さい頃から大きらいで、ポンポン
と土の上にほりだしていた。「土にはいいんだって、こんな虫って息もするでし
ょう」「あ、そうなんですか。しらなかった。じゃ戻しといてあげようか」と、
私は掘り出した根切り虫の幼虫をまた土の中に戻しておいた。土にはいいけど、
成虫になったら根を切るんだから悪い虫になるんじゃないかと、思ったけど「ま、
いいか。冬さむいもんね。土のなかで眠ってるんだから」と、そのままにして
おいた。
(がんじきと紅葉したもみじの、 桜の葉っぱをかき集めました。)
●リーダーシップをとりたいおばさん
こんな小さなグループ作業のなかでもリーダーシップをとりたい人がいるん
だな。けっこうそんな人の言い方ってきついのよね。
「ほら、そこの花、もっと間隔あけないとダメじゃないの。しっかりしてよ」
と、パンジーを指してえらそうな口調で言ってきた。
「せっかく私が穴掘りして植えたんだから、そんなことあんたに言われる筋
合いないわ」と言いたいところだが、そこはじっと我慢。
「あ、そうですか。狭いですか?もう10cmほどこちら側にうつしましょう
か?」と従う返事で対応する。
「そうそう、パンジーはこれからいっぱい葉っぱ広げて花咲かすからね」と、
急にやさしい声で説明してくれる。
「なるほど、パンジーはそうなんですか」と、納得しながら私は植えかえた。
「初めっからやさしく言ってくれればいいのに」と思ったけど、すぐに気が
ついた。
(パンジーの花苗を皆で植え付け作業)
女の人は「このグループでは私が上に立ちたいわ」と思ったら、まずは上か
ら目線の言い方をしてそれが通じる相手か見定める。素直に従う相手とみたら、
「うん、これはくみしやすいぞ。じゃやさしく出てもだいじょうぶ」と思うの
か急にやさしくなる。「私が上で、あんたは下よ」という序列が定着すると満足
げな笑みが浮かんでくる。自治会でいろんな行事のお手伝いをしているうちに、
私はだんだんとわかってきた。多分女性には社会的にきちんとした立場や役職
がないことが多いから、リーダーシップを取りたい人は自分の勢いで取るしか
なくて、こういう言い方になるんだろうな。はじめは「なんでこんなえらそう
な言い方するんだろう」と、ムカついていた。しかしその心理がわかってから
は、腹がたたなくなった。私は行事の手順や花の植え付け作業がわからないの
で、素直に従う立場にまわることにしている。
●見渡すと色とりどりのパンジーの花
花の植え付け作業は終わった。花壇を見渡すとそれぞれ担当者の性格がでて
いておもしろい。整然とならべて植えてある花壇、チューリップの上には黒い
さん箱がかぶせてある。チューリップを真ん中にパンジーがまあるく植えてあ
る花壇もある。私の植えた所はどうかなと遠くから見てみると「あれ、なんか
バラバラやな。それに黒いさん箱かぶせるの忘れてるし。いつも必死でやるん
だけど、どこか抜けてるからいつもドジ美ちゃんっていわれるんやな。無理も
ないな一、でも、まっいいか」と、いつものように受け流す。
来年の春がきてこれだけの色とりどりのパンジーが咲き乱れ、そのあいだに
チューリップがすらっとした茎をのばして花を咲かせると見事だろうな。「一月
ほどしたら芽摘みの作業があります。みなさんご協力よろしくね」と、リーダ
ーさんの声が聞こえた。パンジーは茎や花がいっぱい増えて、ま引きしないと
大きなきれいな花が咲かないのだそうだ。それを芽摘みというらしい。
(花壇のコーナー、 パンジーの花苗、 黒いさん箱の下にはチューリップの球根が植えてあります。)
水やりとか草取りとかこれからもまだまだ役目はまわってくるだろうけど、
自分で植えた花だからそれも楽しみになりそうだ。