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And This Is Not Elf Land

「ジャージー・ボーイズ」東京公演を楽しむために(2)

「ジャージー・ボーイズ」東京公演を楽しむために(1)


(1)では、とにかく映画のDVDを繰り返し見て、台詞を頭に入れておいて、なるだけ字幕を見ないで済むようにしたほうがいいよ~なんて書きました。舞台の隅々にまで目をやれば、なお一層面白いのが舞台ミュージカルの「ジャージー・ボーイズ」です。

だいたい、映画というのは、ある意味、とても観やすい。作り手のメッセージがカメラワークとなって、アングルを変えながら見せてくれるのだから…観客はただただスクリーンを見つめていればいいわけです。一方、舞台を見慣れていないうちの同居人などは「舞台はどこを見ればいいのかわからないから難しい」とか「常に自分で考えながら視点を変えていかなければいけないのが面倒くさい」とかいつも言っていますよ(笑)まぁ、確かにその通りでしょう。

とりあえず、スポットライトが当たって台詞を言ったり歌ったりしている人を注視していれば間違いないかもです。

しかし、この「ジャージー・ボーイズ」、それだけでは勿体ない。スポットライトの当たっていない部分にも、たくさんのドラマが「仕込まれて」いるのです。


2回目はドラマは舞台の隅で起きてる!



(この後は、前知識なしで舞台を楽しみたいと思われる方にはスルーをお奨めします)



予告動画や写真などに見られるとおり、「ジャージー・ボーイズ」の舞台はとてもシンプルで、裸舞台に近いものです。「ブロードウェイの大ヒットミュージカル」と言われるくらいだから、さぞかし大がかりなセットで魅せるのでは?」と思われる方には、ちょっと肩すかしかもしれません。(もっとも、ブロードウェイでも、その手の「メガ・ミュージカル」がもてはやされたのは前世紀の話ですよ。)上方にはキャットウォークと呼ばれる通路があり、それが両脇の階段と結ばれていて、ここを最大限に生かして立体的な舞台に見せています。いい形で観る者の「想像力」を掻き立ててくれる、理想的なセットです。これは演出としても非常に優れているので、演劇に興味のある方にもぜひ観てほしい舞台です。

さて、舞台の「ジャージー・ボーイズ」は、プロローグが終われば、トミー、ニック、トミーの兄弟のニックの3人のバラエティー・トリオの軽快な演奏が始まります。クラブの客たちのユーモラスな会話もありますが、向かって右端の階段に目をやれば、フランキー少年がちょこんと座って3人の演奏を見ています。(舞台のここのシーンでは、まだ「悪さをしていない」ので、フランキーの表情は無邪気そのもの。映画では、その前にヤバいことをやってることもあって、演奏を見つめる表情も曇っていますがね。)フランキーがどんな表情で彼らの演奏を聴いているか、よく見てください。このときのフランキーにとって、3人の中で「一番の憧れ」は誰だったのか、はっきりとわかります。…そして、その後の確執を思うと切ない。

話は飛びますが…ボブを加入させるシーンでの、登場人物たちの複数の行動の同時展開も見どころです。ここも映画の台詞が頭に入っていれば、字幕を読む必要はありません。向かって右にはピアノがあり、ボブは歌い始めようとしています。左にはテーブルとイスがあって、ウェイトレスや客達が談笑していて、なんとも軽薄な笑い声も聞こえてきます。この「一瞬の笑い声」は、高みに向かおうとするボブのひたむきな表情とは対照をなすような、「俗にまみれた」世界の象徴なのだろうと思います。そして、ボブの弾く短いイントロ、「ポロロ~ン♪」が、それをかき消してしまいます。ここも「上手いな~」といつも感心。こういうシーンが何気なく仕込まれていることで、Cry For Meがいっそうの輝きを増すのです。

さて、やがて彼らは次々とヒット曲を飛ばして成功を手に入れますが、4人のメンバーの動きにも注目です。ドラマはキャットウォークで起きてますよ(笑)あんまりネタバレするのもアレなんで、それだけ申し上げておきます。

トップの写真は、第2幕の初め、映画にもあったオハイオで拘束されるシーン。保安官と「交渉」しようとしているトミーですが、このシーンでも、台詞を発していない他の3人の動きのほうにも注目。相変わらず強い力を揮うトミーですが、もう他のメンバーの心は離れてしまっているようです。こういう表現も巧みですよ…

最大の見せ場である「君の瞳に恋してる」のシーンも完璧な演出で魅せるのですが、これについては、別記事にします。

とにかく、複数の動きを同時進行で見る面白さというのは舞台鑑賞ならでは。「ジャージー・ボーイズ」では、まさにその醍醐味が味わえます。


世の中には、まだまだ、「ミュージカル」と聞いただけで「上辺だけで中身がないもの」と思われる人が多い。また、ミュージカルを好む人たちの中でさえも「ジャージー・ボーイズ」のように既成の音楽を使っているもの(いわゆる「ジュークボックス・ミュージカル」)は最初から色眼鏡で見てしまって、正当に評価しようとしない人もいる。そんな中で、最終的に、人々に「ジャージー・ボーイズは良くできた舞台作品!」と言わしめたのは、こういう演出の上手さなのです。

DVDでしっかり予習して、できるだけ字幕を読むエネルギーを減らして、ステージの面白さを味わってください。
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