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And This Is Not Elf Land

「ジャージー・ボーイズ」東京公演を楽しむために(3)

「ジャージー・ボーイズ」東京公演を楽しむために(1)
「ジャージー・ボーイズ」東京公演を楽しむために(2)


「ジャージー・ボーイズ」来日公演まで2週間を切りました!初めてご覧になる方も、「シェリー」や「君の瞳に恋してる」などの名曲の数々を舞台ミュージカルの中で聴くことを楽しみにしていらっしゃることでしょう。私も楽しみで仕方がありません。I'm ready to go WILD!!

さて、この「予習シリーズ」3回目は

「サントラCDには入っていない『音の楽しみ』!」


舞台の「ジャージー・ボーイズ」は、歌われる魅力的な曲の数々だけでなく、劇中には常に音楽が流れていると言っていい。舞台の「ジャージー・ボーイズ」は(映画版よりは)ミュージカル作品としてきちっと「様式化」されていて、音を含めたすべての要素が緻密な計算のもと、美しく融合された世界でもあります。

で、今回は「CDにはあらわれていない音楽の楽しみ」について書きたいと思います。


(以下、事前情報を入れずに来日公演を楽しみたいと思われる方にはスルーをお奨めします)












「ジャージー・ボーイズ」も他のミュージカル作品と同様、歌が重要な表現手段になっていますが、ミュージカルというのは、音楽が常に「前面に」出るだけでなく、ステージ上のちょっとした風景のように扱われたり、または、うっかりしていると気づかないような所でひっそりと流れていることもあります。とにかく、このように手を変え品を変えながら私たちの感覚に入り込んでくる音楽に身を任せて楽しむのがミュージカルなのではないでしょうか?そして、「ジャージー・ボーイズ」という作品はこのあたりの演出も非常に優れているのです。

まず、16歳のフランキーはトミーに呼ばれて舞台に上げられ、ぎこちなく歌うのがI Can’t Give you anything but love(君に捧げることができるのは愛だけ)という曲です。この曲について、ちょっとこだわてみたいと思います。

映画版では、この曲はこの最初のシーンのみに登場するのですが、舞台では、この曲は「さまざまに形を変えて」何度も登場します。全体を通してみると、この曲はフランキーの家族への愛を象徴する曲として使われているような印象を受けます。

まず、16歳のフランキー少年が初々しくこの曲を歌ったあと、次にこの曲が登場するのは最初の奥さんとなるメアリ・デルガードと恋に落ちて初デートをするシーンです。ここでは、メロディーだけがBGMとして演奏されるのですが、最後のフレーズは映画と同じようなイタリアン・レストランのウエイターが引き継いで歌い終わります。

ここの演出、つまり、音楽がバックグラウンドから舞台上にやってくる描写が巧み。ウエイターの歌が情感豊かで、胸を打ちます。その次に同じウエイターがマンドリンでイタリアの曲を演奏します。ここで、マンドリンの音楽をつ会うというのは映画でも採用されていました。

しかし、メアリとの結婚はうまくいきませんでした。

次にこのI Can’t Give you anything but loveの曲が出てくるのは、デトロイトで、ロレインと恋に落ちるシーンです。

ここの二人の会話は、映画では前半のみになっていましたが、舞台ではこのような台詞が続きます…
「僕のことで他に知りたいことある?」
「お子さんは?」
「娘が3人いるよ」
「でも、母親のところで暮らしているんだ」(ここで、ロレインの表情が明るくなる)
「一番末っ子のフランシーンは4歳で、歌が上手。コーヒーテーブルの上でI Can’t Give you anything but love、DAD!と歌うんだ。」と離れて暮らす愛娘を愛おしむように話します。

ここでは曲名だけが登場して、曲そのものが演奏されるわけではないのですが、ここは「観る側が頭の中で曲を思い浮かべなさい」という作り手のメッセージが込められているのであろうと思っています。

その次に、この曲はフランシーンさんの非常に重要なシーンで出てきます。これも、メロディーが演奏されるだけなのですが、ぜひぜひ、これまでこの曲が出てきた場面を思い出してください。心の中で、メロディーに歌詞を乗せながら・・・



こういう風に、舞台のジャージー・ボーイズは非常に緻密な計算のもとで音楽が使われているのですが、一か所だけ「ちょっと遊んでいるかな?」と思える箇所があります。

「ロレインと恋に落ちるシーン」でBGMとしてフォー・シーズンズは曲が流れるのですが、ここは、何パターンかありまして…私が知っているだけでも4通りあります。おそらく、音楽監督に選曲が任されているのではないかと想像するのですが…とにかく、フォー・シーズンズの有名曲でありながら、劇中では使われない曲が流れることもありますので、ぜひお楽しみに!



次に、サントラのTR.16のメドレーについてお話したいと思います。
ここのStay 、Let’s Hang On、Opus17、 Bye Bye Baby。非常に洗練された良質のポップスが並んでいます。でも、これはCDの上だけの編集で、舞台ではこのまま歌われるわけではありません。

ジャージー・ボーイズというのは、第一幕は映画のような「ドキュメンタリードラマ風」に物語が進んでいきますが、第二幕になると、通常のミュージカルのように、心の情景を歌で表現するシーンを、ところどころスケッチのように差し挟んだりします。舞台というのは、観客は2時間以上も同じ空間を見続けることになりますので、こういう風に少し手法を変えて観客を揺さぶるというのは普通に使われるやり方だと思います。ここのシークエンスもとてもよくできています。

とにかく~「ジャージー・ボーイズ」は実在のミュージシャンを主人公にしているドキュメンタリー風の作品だから、突然歌い出すようなミュージカルじゃない…と「思い込んでいる方」はご注意ですぞ(笑)

これらの曲が使われるのはジップの家で4人が胸のうちにある思いをぶつけ合い、メンバーが脱退し、再出発するも、フランキーがプライベートで次々と難題が生じるところまで、時々これらの曲が差し挟まれていくわけです。物語が歌詞の意味と少し繋がっているのも面白いところでもあります。Opus17はレコーディングのシーンで歌われるので、歌詞の意味はストリーに直接の関連性はありませんが、あとの3曲はストリーと曲の内容の繋がりが面白い。

さて、映画が封切られたとき、鳩サブロー様から「オリジナルメンバーが脱退した後、彼らの活動が停滞してしまったような描写になっているのが残念」というご指摘がありましたが、私は舞台の印象が強いので、あまりそういう印象はありませんでした。

で、改めて映画を観たのですが、映画では確かにそういうふうに受け止められても仕方がない描かれ方をしていますよね。…私は舞台と映画版、さらに鳩サブロー様のご指摘から、改めて、舞台ミュージカルの中で、この部分にこのような完成度の高い楽曲の数々を持ってきた意味を考えてしまいました。

舞台のほうでは、グループがさまざまな問題を抱えて苦難に直面しているにもかかわらず、このように良質の曲の数々を随所に挟んで、たたみかけるように音楽を観客に送り続けます。ですから、舞台を観ていると、「音楽活動が停滞してしまった」という印象はないのです。そしてそれが、やがては名曲誕生へと繋がっていくわけで、そこの流れも十分に観客を納得させるものです。改めて舞台版の作りの良さを感じないではいられません。

とにかくですね…演劇・ミュージカルの紹介サイトなどでも「ジャージー・ボーイズは歌う必然性のある場所でしか歌わないミュージカル」などと書かれていますが、あれは真っ赤なウソです(笑)「今は歌ってる場合じゃないだろ!」ってシーンでも歌うような、しっかりしたミュージカルなのでお楽しみに~!


映画では、ロックの殿堂入りからエンドクレジットまでの流れが非常に感動的だったと絶賛されていますが、舞台を何度も観ているものから見れば、あの辺りはまるで舞台のダイジェスト版を見せられているようで、あんまり良い印象はありません。「ダイジェスト版」はあくまでも「ダイジェスト版」でして、本当は最後の4人の独白は舞台ではあの倍の長さです。映画では、「ラスベガスで12秒」とか「4人の中のリンゴ」とか、非常に面白い台詞のみが断片的に印象に残るような感じで、映画だけをご覧になった方はそれはそれで面白いと感じられたかもしれませんが、その言葉に至るまでの言葉の多くは割愛されています。とにかく、映画版は、序盤は非常に丁寧に作られていて好感が持てましたが、後半になると流してしまった感は否めません。

とにかく、ここのシーンは字幕をよくお読みになることをお薦めします。

また、映画での個々のシーンは4人による「悲しきラグドール」の歌の披露に続いて、それぞれの独白に入るわけですが、その際はBGMとしてもこの曲が流れ続けます。しかし、舞台では、4人それぞれ違った曲が流れるのです。オリジナルメンバー4人を象徴する4つの曲が示されるわけです。ここのシーンになると、もう胸がいっぱいになると思いますが、少しばかりの余裕が残っている方は、バックに流れている音楽にも耳を傾けてくださいね。どれも劇中に使われている曲ですので、それぞれの曲が使われたシーンなどを思い起こしながら4人の独白を聞くと、また感動もひとしおになります。



舞台では、フランキー以外の3人は独白の後、舞台を一旦去ります。そして、Who Loves Youで3人は再びフランキーのところに集まってきます。このあたりは2006年トニー賞でのパフォーマンスで再現されていまして、Youtubeでもご覧になった方もいらっしゃるでしょう。感動的なシーンです。

ただ、実際の舞台とトニー賞のパフォーマンスが異なる箇所があります。トニー賞のパフォーマンスでは、3人とも舞台のそでから再登場していますが、実際の舞台ではニックだけが「別の場所から」フランキーのもとへ戻ってきます。舞台では、ニックがすでに故人となっていることを知らせますから…これが「ヒント」かな?(笑)映画でもニックのファンになった人は少なくなかったと思いますが、舞台では、もっともっと心を揺さぶられますよ。

(続)
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