And This Is Not Elf Land

ジャージー・ボーイズ@シアター・クリエ(5)終




日本独自のニックの描き方がとても面白かった。



「ジャージー・ボーイズ」をBWで観たときから、ニック・マッシというキャラクターがとても気になって、「この人物というのは、もしかしたら日本人がもっとも共感できるキャラクターではないか?」とずっと思い続けていまして、このブログでもニックについて何度も取り上げてきています。

日本で一躍「ジャージー・ボーイズ」の名を広めてくれた映画版でも、やはり日本の人たちは「ニックに同情した」という声が多かったように思えます。

ところが、OBCのボビー・スペンサーはダークで謎めいた人物を好演していたのですが、その後リプレイスメントとしてこの役を引き継いだマット・ボガートが完全に「笑いを取る役」にしてしまっていて、その後、マットのキャラクター解釈が、ファンの間でも、ツアーなど他のプロダクションでも、ひとつのスタンダードになってしまっているようで、もう溜息しかないのでありました。

はっきり言っちゃうと…「アメリカ人にこの役を深めるのは無理」と、もう見放して(?)しまっていたのでした。

しかし、日本版では、この役にジャン・バルジャン役の経験者という、海外のプロダクションにも例をみないほど重厚な雰囲気の役者をキャスティングしており、否が応でも期待は高まりました。


ニックという人物は、ハーモニーの天才と言われ、音楽の才能も豊かでした。(このあたりは、映画では、ちょっと分かりにくかったと思う)しかし、ボブがその才能と抜け目なさでグループを引っ張っていくようになると、ニックの出番は少なくなります。結局は、才能を持ちながらも、残念な結果に終わってしまった人で終わります…

その「残念具合」なんですけどね(笑)

ニックは音楽の才能を持っている一方、女性と酒が好きな享楽的な人物で、BW版演出でも、そこはよく表れています。

(映画版は、さわやかイケメンなマイケル・ロメンダが演じていたこともあって、ニックとしては、ちょっと薄味だったと思います)

おそらく、向こうの観客は、「あれだけ享楽的な生活を送っていれば、どんなに才能があったところで、成功者にはなれないさ」と納得しているんだろうと思います。それでも、日本の人には「それでも…それでも、ちょっと気の毒じゃない?」と感じるものがあるのですよね。

例えば「俺は10年間、トミーのお守りをしてきた。フランキーやボブはやらないで済んだのに、俺がさせられたんだ!」と激しく怒りをぶちまけます。そういう面倒なことで気持ちを煩わされるようなことは、成功へ続く輝かしい道を歩む人(つまりフランキーとボブ)には「免除」されているのでしたが、ニックはずっと抱えなくてはいけませんでした。こういう無念さというのは、理解できないものではありません。


さて、日本版独特のニックの描き方で、とても印象に残った箇所が2つありました。

まず、シェリーでブレイクする前、ドサ周りをやっているときに、ニューメキシコの田舎へ行ってI GO APEを歌うコミカルな場面ですが、日本版では、お客さんの中に、体の不自由な男性がいました。この場面では、彼らのパフォーマンスは失敗に終わり、フランキーとボブは落胆…ハンクとトミーは喧嘩。でも、ニックは、メンバーが誰も気に留めない客席のその男性を気遣い、移動に手を貸すのでした。

もうひとつは、第一幕の終わり、トミーの巨額の借金が発覚する場面ですが、BW版では、ニックは女性といちゃついていて、グループの危機にも気づいていないようなのに、日本版では、ニックは自らハンクを呼んで来るなど「なんとかしなければ!」と思っている様子が描かれます。グループ内では、自分がトミーに近いところにいたので、責任の一端を感じている様子でもありました。


つまり、日本版のニックは、世の中の困っている人、多くの人が見逃してしまうような弱い立場の人たちにも心を寄せる人として描かれており、グループの危機を救いたいと願った人でもありました。

私はこれらのシーンを見て、非常にすっきりしました。私は、BW版を観いてもずっと…ニックが成功を手にできなかったのは、その享楽的な生活に原因があったのかも知れないけれど…でも、きっと、人としての優しい面もあって、根はとても良い人だったんだよ。そんな人がああいう結果になるなんて、切なすぎるなぁ…という思いが残りました。

でも、それはあくまでも、ニックのキャラクターを贔屓する私の「希望的観測」に過ぎなかったのかもしれません(笑)

日本版は、私の単なる「希望的観測」を「真実」として見せてくれました…。「ありがとう!」と言いたい気持ちです。


(日本版初演に関する記事はこれで一区切りとします。読んでくださってありがとうございます)
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