又七の不定記

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獣医学部問題の本質って何なんよ?

2017-05-31 23:29:13 | etc.

 獣医の役割は畜産だけでなく水産にも及ぶ。
 世の中では「獣医は十分足りている」と言われているが、本当なのだろうか?
 何のために獣医学部の新設と定員数が規制されてきたのだろう?

 我が国の水産分野における獣医に相当する人材に「魚類防疫士」と呼ばれる人たちがいる。これは公益社団法人日本水産資源保護協会が国の委託事業によって研修と技術認定試験を行い、そこで一定以上の知識と技術があると認められて合格した者が認定されるのだが、いわゆる民間認定資格に過ぎず、獣医のような国家資格ではない。
 なお、持続的養殖生産確保法第13条で、都道府県知事は魚類防疫員という身分を任命できることになっており、たいてい魚類防疫員には魚類防疫士の技術認定を受けた都道府県職員が任命される。つまり魚類防疫員に任命されることで法的な後ろ盾のある身分になるのだが、実は魚類防疫員の役割は「養殖水産動植物の伝染性疾病の予防の事務に従事」することであり、獣医のように実際の疾病発生現場で防疫対策を講じるための身分ではない。

 話を魚類防疫士に戻すが、魚類防疫士が担う大切な業務の一つに水産用医薬品適正使用指導というものがある。
 水産用医薬品は、製薬会社が効能と安全性を確認し、そのデータに基づいて国が使用基準を定めたものについてのみ使用できる。基本的には魚類防疫士が診断に基づいて投薬指導を行い、養殖業者は指示された水産用医薬品の用量用法を守って投薬治療を行うのであるが、緊急時には診断を省いた見込み投薬も可能な制度となっている。また使用基準が定められていない魚種、医薬品であっても、獣医による指導によって特例的に使用基準を超えた投薬が可能となっている。
 これが冒頭に「獣医の役割が水産にも及ぶ」と記した所以である。

 日本国内では水産物の消費は年々減少の一途をたどっている。一方で世界に目を向けると水産物の需要は増え続けておりその大半は養殖魚によって賄われている。
 我が国は国家戦略として輸出拡大を掲げている。これに沿おうと思えば水産業界は水産養殖生産を拡大して輸出の増大を図ることを使命としなければならない。
 しかしこの取り組みを成功に導くためには、水産養殖生産を拡大するだけでなく、その食品安全性を担保することが重要となる。加えて、環境中に存在する人の健康に害を及ぼす可能性のある微生物の薬剤耐性化にも目を向けて対策を講じる必要がある。つまり現在の使用基準に基づく見込み投薬から脱却して、専門的な知識を有した獣医の診断に基づいた投薬に転換してゆかなければならなくなるだろう。

 現在の日本の水産業界における医薬品使用規制の仕組みは国際的な基準からみると大きく遅れを取っているのだ。世界に打って出ようとした場合、間違いなく弊害となる。
 この遅れを取り戻し弊害を取り除くには、国家資格者である獣医の力を水産分野で発揮させ、現在魚類防疫士が担っている役割を段階的に獣医に移してゆく必要があるだろう。
 しかしながら水産分野で活躍できる獣医を新たに育てようにも、獣医学部が新たに設置できないとか獣医学部生の募集人数に制限がかけられているとか、法律でいろいろな制約があり、現状では水産分野で活躍できる獣医を育てる環境を新たに作ることができない。
 逆に水産分野で活躍できる獣医を日本各地でコンスタントに育て輩出できるよう制度が整えば、水産王国ニッポンの復活は絵空事ではなく現実の話となる。

 ネット上の情報を漁ると加計学園問題に関連して「獣医は十分足りている」との記載が目につくが、獣医学部を卒業したからと言って必ずしも獣医になる必要はない。教育学部を卒業した人が全て教員になっているわけではないのと一緒だ。獣医学部を卒業して製薬会社の研究員になったり販売店で畜産や水産の現場に密着して助言を行う仕事もある。自身の興味と知識欲を満たす目的で獣医学を学ぶケースもあるだろう。獣医の需給だけから論じられた「獣医は十分足りている」論は獣医学部の新設や学生の定員を制限する理由としてはあまりにもお粗末である。獣疫研究は国内で行う必要はなく海外に任せておけばいいとでもお考えなのだろうか?
 水産業界で働く一人として言わせてもらえば「獣医は十分足りている」のであれば、是非水産分野で活躍していただきたい。水産分野で活躍してくれる獣医がいないから都道府県職員が魚類防疫士にならざるを得ないのだ。
 蛇足ではあるが「獣医は十分足りている」という意見は国内を向いた話であり海外で活躍する人材を輩出するという発想を欠いている。海外へ出て行く選択肢を持てないとは時代遅れも甚だしい。

 過去50年にわたって獣医学部の新設が行われず定員も制限されてきたことが本当に正しかったのか?
 新たな技術の創造の場を増やすこともせず、獣疫研究を担う若者の数も頭打ちとされたことで、我が国の獣疫研究は国際的に大きく後れを取った。底辺を広げなければ山は高くできない。獣医学部を増やし、そこで学ぶ学生が増えなければ獣疫に係る技術力の向上も果たせない。日本の獣医界は優秀な研究者を輩出する機会を50年にわたって自ら捨て続けてきたとも言える。
 いったい誰のための規制だったのか?

 こういった状況を鑑みてゆくと、魚類養殖の盛んな愛媛県に国家戦略特区として獣医学部を設置することは歓迎すべき流れである。しかも加計学園と言えば海水魚と淡水魚が同じ水で飼育できる魔法の水「好適環境水」で有名な岡山理科大の母体であることから、水産分野で活躍できる若者を育てる基盤はできているだろう。
 まあ、加計学院が水産分野に目を向けていたかどうかは定かではないが・・・(笑)。

 首相と理事長が仲がいいとか意思決定の経緯が云々はこの際どうでもいい。
 国内外を問わず世界中の水産業界で活躍できる獣医を持続的に輩出できる制度と教育の場を1年でも早く実現してほしいというのが私の願いだ。


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2 コメント

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Unknown (P-20)
2017-06-01 12:20:52
人間相手の医師もそうだけど、国内需要+αを養成して、余った分は輸出(国外で活動)して、外貨稼げばいいんよ。
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Unknown (又七)
2017-06-01 22:02:11
海外で活躍する人が出て来れば、それに続こうとする若者も増えるし。
スポーツ選手なんてまさにそうじゃもんね。
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