満天の星空が見たい!

温泉旅がメインの生活。酒とグルメとミステリ小説、ごくたまに失恋の話。

変質者になるパターンが日常的!

2016-02-16 19:48:55 | ミステリ


マンションを出るのが9時少し前。最寄りの地下鉄駅まで5~6分の距離で、
少し急ぎ足で歩き、9時8分の電車に乗るのは、その電車がこの駅始発だか
ら。8時台の通勤ラッシュも終わって、ゆっくり座って勤め先に行けるの
だ。これは精神的にすごく大きい。


このルートを利用して約1年。駅まで行き交う人、電車に乗る人、自分が
座った席から見て前後左右に座っている人と、だいぶ顔の輪郭がはっきり
してきた。相手もこちらを覚えたのか、はっきりした意思表示はないもの
の、眉を上げたり、口を動かしたり、テレパシー的挨拶である。


その中で騒動が起こった。マンションを出て、信号を渡った後くらいにす
れ違う、45歳くらいの女性。いつもおしゃれで、髪もきちんと整えて、歩
く姿が魅力的だった。土、日以外は毎日すれちがうが、こちら方面には、
彼女が通勤するような会社はないはず。いったい、どこにお勤めなんだろ
う…と、考えたことはあるが、ボ~としていると電車に遅れるので、いつ
も深くは考えない。


それが、1か月前ぐらいから、彼女が笑顔で通り過ぎるようになった。顔
を合わせると、「ニコッ」と、笑ってくれる。だから、こちらも「ニコッ」
と通り過ぎる。


俺は男である。短絡的である。ひょっとして、彼女は俺に気があるのでは…
とふと思った。いや、本当に軽くそう思っただけで、確信ではない。本音を
言えば、彼女はタイプではない。そうなって欲しいという気持ちもなかった。
「男」という本能がそう思わせるのだ。


しかし、彼女から声を掛けられたのである。通り過ぎる時に、「あの…すみ
ません」と。「おお、やはり来たか!」と俺は思った。しかし、それは女性
に言わせることではない。俺が、「あなたのことが気になっていました…」
と言うべきだ。彼女に恥はかかせられない…今思えば、どこからそんな自信
が湧いてきたのか?本当に俺は俗物である。


でも、そんなわけはない。真実は極めて残酷だった。彼女の顔を見ると、恐
怖心さえ浮かんでいた。「わ、私のことをじろじろ見るのはやめてもらえま
せんか?遠くからあなたの目線を感じるんです」と、彼女は言い、まるで殺
人鬼から逃れるように駆けて行った。



あ然とした。おれはただ、いつも通り過ぎるであろう人物を確認していただ
けで、そんな気持ちは一切なかった。でも、果たしてそう言い切れるだろう
か?毎日黙視される彼女にとっては、耐えがたい苦痛だったのかも知れない。
おそらく、職場でも俺の話題が出ているだろう。



「あの人、絶対変質者ですよ。う~、今考えてもサブイボ(鳥肌)が出ます」と。

ここで激怒したらストーカーに、冷静に苦笑できたら普通の人間に。その分水嶺
は案外こんなものなのかも…。



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