温泉巡りをしていると、地元民の皆さんや、旅の皆さんと話をする機会がある。自分は早めに目的の旅館に入って、まずは温泉に浸かり、その周辺の景色や情緒にふれるのが好きである。だから、18時ごろ宿泊所に入って、朝の8時ごろ出掛けるツアーは敬遠している。あくまでも、フリーツアー、のんびりしたいのである。
大分の壁湯温泉・福元屋。ここは温泉好きとして話題づくりには避けては通れない関所であって、7年ぐらい前に、男の友人とともに出掛けた。この旅館の売りは、川べりの洞窟温泉。洞窟と言っても、わずか2メートルぐらいの洞穴で、その下から源泉が湧出している。源泉は36度くらいで湯温度は低い。今の時期にピッタリの温泉で、思わず長湯をしてしまう。
旅館に着いたのが15時20分くらいで、さっそく洞窟露天風呂へ行った。ここは混浴らしいが、女性には厳しい設定である。バスタオルをぐるぐる巻きにしてちょうどいいのだが、湯船が7,8人は入れば一杯であり、素っ裸の男性と一緒になってしまう。そういうことで、女性専用の露天風呂もあるらしいが、80%覆いがしてあり、こちらは内風呂と変わらず、まるで情緒がない。まあ,真の温泉好きなら他の人の裸なんてどういうことはないと思うから、バスタオルを巻いてこちらに入ればいいだけの話である。
話は戻る。この旅館に3時20分に着いて、4時前にはこの洞窟風呂(壁湯風呂)に入っていた。その時のお客さんはひとりだけ。60過ぎの貫禄がありそうな御仁だった。我々が入ると、さっそく声を掛けてきた。
「この宿、初めてですか?」、「私は近所に小さい別荘を持っているのですが、良かったら私の家の温泉に招待しますよ」と、笑顔で招待してくれた。その御好意には感激したが、「ありがとうございます。でも、この宿を満喫したいので、今夜はここで過ごします」と、丁重にお断りした。
しかし、その御仁の話が面白かった。自分の別荘の温泉もいいのだが、この洞窟風呂の温泉は格別で、こちらに来たら(福岡で商売しているらしい)、毎日この風呂に入りに来ると言う。あれは、2か月前のことだった~とその御仁は言った。
いつものように静養に来て、この露天風呂に来たら7、8名の老人が先に入浴していた。自分が戸惑っているとその中の数名が風呂から出て、川べりの道に座った。「どうぞ、どうぞ」と、入浴を薦めてくれる。7月の初めだったから、それも自然な形だった。それで湯船の中に入り、いろいろ話をしていたら、その旅館の川べりの露天に向かう入口付近の道から、「やっほー」という女性の声が聞こえてきたらしい。
見れば、素っ裸の女性が二人、小走りにこちらに向かってきたという。小さなタオルは持っているが、どこも隠そうとはしない。これを皆、ポカンと見ていた。そして、その女性たちは、なんの恥じらいもなく、風呂に入ってきたらしい。そして、「うわー、旅館の人が言っていた通り、爺いばっかりだわ」とまぶしい笑顔で言ったという。
「私たちは移動ストリッパーだけど、あまりに暑くて、ここで温泉に入りたいとスタッフにゴネたの」と、30過ぎの女性二人が快活に言ったらしい。そして、「ようし、きょうは特別無料サービスです」と、二人は、露天風呂の淵に立ち、ストリップの踊りから、あそこの御開帳まで披露したと言う。
ストリッパーの大胆な行動に老人たちは一瞬沈黙し、辺りを見渡したと言うが、これが本当のハプニングだと分かると「この世の天国だ!」、「あの世の土産ができた」と感激したらしい。そして、お金を払いたいと申し出たらしいが、その女性たちは、「私たちも凄く気分がいいの」と、取り合わなかったと言う。
「そんなことがあったのですか?。その劇団の方々はよく来られるんですか?」と聞くと、その御仁は笑いながら、「いや、それからそんな話は聞かないし、宿の人に聞くと、それ以前もなかったらしいですよ」と、こちらを慰めるように言った。それほど残念そうに聞いたつもりではなかったのだが…。