満天の星空が見たい!

温泉旅がメインの生活。酒とグルメとミステリ小説、ごくたまに失恋の話。

大阪は面白いが、現代の迷宮である…その①

2016-09-23 23:24:24 | 人間

25年前の話である。その刑事Aさんは四課だった。今は、四課(マル暴)は組織
犯罪対策部へ移設したらしいが、四課と言えば、知る人ぞ知る腐敗の課だった。そ
のAさんとは、俺が尊敬する漫才師がやっていたミナミのスナックで知り合った。

Aさんは柔道4段で体が大きく、眼光鋭い。やくざ屋さんより貫禄があり、体全体が
パワフルで、迫力のある男だった。なるほど、大阪のやくざ屋さんを相手にするなら、
これくらいでないと務まらんわな…と、妙に納得したのを覚えている。

ある日の4時半ごろ、電話が掛かってきた。「Mちゃん、飲みに行こう!」である。断
る理由もなく、「いいですよ」と言うと、「実は今、会社の前でタクシーで待ってん
ねん」と言う。退社時間には30分ほど早かったが、一応課長だったので、仕事は後輩に
任せて社を出た。

車に乗ると、「運ちゃん、大正のSという焼き肉屋を知ってるやろ。そこへ行ってくれ」
と、指図。「え~、わざわざ大正まで焼き肉を食べに行くんですか」と言うと、「あそ
こは旨いねん。本当に肉が違うから、まあ、試しに食べてみてや」と、笑う。なんで今日、
誘いに来たんですか?と聞くと、「いや、Мちゃんと一回ふたりで飲みたかってん」と、
ウィンクする。

なんか怪しいな…と考えていると、こちらの心配を見透かしたように、「いや、ほんまやね
ん。今日はMちゃんと飲みたかったんや」と、真面目な顔をする。「そうですか…」と、一
応、納得したふりをした。今まで、飲み会の流れで2,3回は一緒に朝まで飲んだことはある
けど、二人で飲むのは初めてである。しかし、俺かてうぶな男やない。Aさんは、男から見
れば魅力満載の男で、その生活には興味がある。ようし、今夜はとことん付き合ってみるか~
と、決意した。

その焼き肉屋は本当に旨かった。伊賀牛と言う話だったが、何もかもがとろけた。勘定は5
万5千円。ビール、日本酒に肉も追加の連続。さすが、体がでっかいだけによく飲み、よく
食べる。しかし、いい値段である。これをAさんは、こともなげに支払った。値段が値段だ
けに、「割り勘にしましょう」の言葉も出なかった(笑)

そのあとの店が悪の連鎖の始まりだった。「まだまだ夜は長いで。飲み直そう」と、タクシー
でミナミに行った。そのスナックはカウンター5,6席に、ボックスがふたつ。こじんまりとした
作りで、ママらしき人と、もう一人、カジュアルな服装をした女性がいた。しかし、店に入り、
Aさんの顔を見て、二人は萎縮したように見えた。表情がさっと曇ったのだ。

「い、いらっしゃいませ」と、ママの言葉は震えていた。まるで、店に暴力団が来たような感じ
である。「おう、どうや。兄弟は元気か?」と、声を掛ける。兄弟?なんや、身内の店かいな。
それにしては、ママはえらいビビっているようやけど…。

「はい、元気でやっています。あいにく家の人は今日は不在で…」と、ママは言葉が詰まってい
た。これは身内と違うなと思ってお絞りで顔を拭いていたら、Aさんが俺に耳打ちをした。
「Mちゃんはママやで」、「はあ…」、「妹は俺に譲ってくれ」、「はあ…」と、わけのわからない
会話。これが、耳打ちにすれば筒抜けの大きな声で、まるで相手に聞かせているようだった。

そのあと、Aさんはニヤニヤ笑いながらトイレに立った。すると、その女性二人はそのままの姿
で外へ出て行った。「逃亡」である。俺はその事態が把握できず、ポカンとしていたが、トイレか
ら帰ってきたAさんが、「なんや、逃げたんか。約束がちがうがな。ママの旦那には了解済みやっ
たんやで」と、本当に悔しそうな顔をした。

「了解済み?」、「おう、あのママはある組のえらいさんの女なんやけど、その男が俺に貸しを作っ
たんや。まだ話が通ってなかったようやな。まあええわ。次行こう」と、Aさんはなんでもなかった
ように言うが、俺はいっぺんに酔いが醒めた。もし話が通っていたら、俺は組の大幹部の女性を相手
にしてたんかいな!とてもやないけど、俺には務まらん、ほっと胸を撫で下ろしている自分がいた。

おいおい、大丈夫か、次行こうと、Aさんは気楽に言うけど、今夜はとんでもない夜になりそうやで。
俺、もう帰りたいわ(続く)


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