…
ウェルチが、低い声で言った――「どんな人間だったんでしょうね? ――さっきの黒ん坊のことですが」
マイクは孤独な気持ちのなかから答えた。「新聞はみんな悪党だと書いている。おれはどの新聞も読んでみた。新聞はみんなそう書いてるんだ」
「あっしも読みましたよ。奴についてのその記事が、あっしにゃ納得がいかねえんです。あっしは、立派な黒ん坊だって、かなり知ってますからね」
マイクはふり向いて、抗議するように言った。「それはおれだって、とても立派な黒ん坊を知ってるよ。黒ん坊といっしょに働いたこともあるが、つきあってみたくなるような白人と同じくらい立派な人間だった。――だが、悪党の黒ん坊となると、話は別さ」
彼のはげしい見幕が、小男のウェルチを、しばらく黙らせた。だが、やがて彼は言った。「奴がどういう人間だったか、あんたにもわからないんじゃないですか?」
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スタインベック 「自警団員」『スタインベック短編集』 大久保康雄訳、新潮社〈新潮文庫〉、1988年56刷、156-157頁
ウェルチが、低い声で言った――「どんな人間だったんでしょうね? ――さっきの黒ん坊のことですが」
マイクは孤独な気持ちのなかから答えた。「新聞はみんな悪党だと書いている。おれはどの新聞も読んでみた。新聞はみんなそう書いてるんだ」
「あっしも読みましたよ。奴についてのその記事が、あっしにゃ納得がいかねえんです。あっしは、立派な黒ん坊だって、かなり知ってますからね」
マイクはふり向いて、抗議するように言った。「それはおれだって、とても立派な黒ん坊を知ってるよ。黒ん坊といっしょに働いたこともあるが、つきあってみたくなるような白人と同じくらい立派な人間だった。――だが、悪党の黒ん坊となると、話は別さ」
彼のはげしい見幕が、小男のウェルチを、しばらく黙らせた。だが、やがて彼は言った。「奴がどういう人間だったか、あんたにもわからないんじゃないですか?」
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スタインベック 「自警団員」『スタインベック短編集』 大久保康雄訳、新潮社〈新潮文庫〉、1988年56刷、156-157頁
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