MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

転載

2008年04月18日 00時00分04秒 | 雑感
Medical Research Information Center (MRIC) から配信されたメルマガの記事を転載。

以下転載。

『マスコミが報道しない京都大学脳死肺移植手術事件の一面』

  京都大学大学院消化管外科  水野靖大


「平成20年3月13日、呼吸器外科医、心臓血管外科医、麻酔科医それぞれ1名が京
都府警により業務上過失致死の疑いで京都地検に書類送検された(1)。このこ
とは我々に強い衝撃を与えた。これまで医療に刑事司法が介入する正当性は、医
療者側の自浄作用の欠如が背景と理解されてきた。しかし今回の事例では、医療
者側も遅滞なく自主的に、真相解明から被害者との和解に至るまで尽力したにも
かかわらず、刑事介入は回避されなかった。

 ちなみに私は京都大学の消化器外科医であり、本移植とは無関係である。公表
されている事実から、本事件を考察する。

 事件の経過を以下に記す。

 平成18年3月21日に脳死肺移植のドナーが発生(2)。同21日から22日にかけ、
京都大学医学部付属病院で、肺の機能が著しく低下する肺リンパ脈管筋腫症を患っ
た30歳の女性に対し、脳死肺移植が行われた(1)。同病院では5例目の脳死肺
移植である(2)。手術は順調に経過したが、術後のCT検査でびまん性の脳浮腫
が発生していることが判明。その後、集中治療室にて治療をつづけたが、広範な
脳障害(全脳虚血)による意識不明の状態が続き(2)、平成18年10月24日永眠
された(3)。

 同病院では手術後まもなく関係者による危機管理会議を開催したが、重篤な転
帰をたどるに至った原因がはっきりしないため、外部の専門家を含めた事例調査
委員会を立ち上げて調査を開始。あわせて肺移植手術の自粛を決定した(2)。

 平成18年10月10日、事例調査報告書が病院長に提出された。その中の「全脳虚
血」に至った原因についての見解を、京都大学ニュースリリースより引用する。
「全脳虚血発生の原因は、一つには特定できないものの、大きく①部分体外循環
といえる状態での肺換気の停止による非酸素化血の頭蓋内への流入と、②体外循
環後半に発症した血圧低下、が複合的に関与した可能性が高く、さらに③早期の
復温や呼吸性アルカリ血症が脳虚血を助長した可能性があると考えられた。また、
術中の患者管理に関する指揮命令系統や、診療科間での意思疎通、肺移植チーム
全体としての総合力に改善すべき点があった。現に上記①②③は、いずれも全身
管理の責任者が不明確となった時間帯に発生しており、そのことが全脳虚血の早
期発見の妨げになった可能性がある。」同病院は報告書の内容を患者ご家族に説
明し、謝罪を行った。さらに報告書の「再発防止に向けた改善策の提言」を実践
していくことを表明(4)。これについては、同病院心臓血管外科が平成18年12
月26日から手術を自粛する事態にまで波及した(5)。また、同病院はこの件に
ついて川端警察署、左京保健所、京都府、京都市、近畿厚生局ならびに文部科学
省への報告等も行っており(4)、その後、時期は不明であるが患者御家族との
示談も成立したようである(6)。

 にもかかわらず、今回の書類送検である。我々としては納得しようにもどうに
も納得できないものがある。

 医療事故への対応・解決に際し当事者が目指すものは、真相の究明、被害者救
済、再発防止である。これらのうち真相の究明および再発防止を目指す手段とし
ては本来、多様なアプローチが検討されてしかるべきであるが、平成12年以降は
刑事処分で対処する事案が目立ってきた。たしかにこれまでは医療者側による自
律的制裁処置も行われず、医療者に対する行政処分もそのほとんどが刑事処分の
後追いに過ぎなかったため、事故の悪質性にかかわらず刑事司法が介入せざるを
得ないと考えられてきた(7)。であるとすれば、医療者側が必要十分な自律的
制裁を行う場合は、一部の悪質な事例(隠蔽や故意やリピーターなど)を除き、
刑事司法が介入する必要はないはずである。

 今回、京都大学は早期から自主的に外部の専門家も交えて原因究明を行い、そ
の結果を公表し、手術を自粛したうえで再発防止に尽力している。さらに患者御
家族との和解も成立している。このような現状で、書類送検を行う理由はどこに
も見当たらない。ところが実際には冒頭に述べたとおりの顛末となった。すなわ
ち、医療者側による自主的かつ必要十分な処置の欠如を刑事司法の介入の根拠と
していたこれまでの理屈は、誤りとせざるを得ない。今回の事件は図らずも、医
療事故への刑事司法介入について、その正当性の主張をゆるがすものとなったと
いえよう。」

転載終わり。


異常としか言いようがない。
しかし、おそらくこの流れはもう誰にも止められない。
こうなったら行くところまで行くしかない。
なぜなら我々はすでに三途の川を渡ってしまったのだから。


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5 コメント

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anemoneさま (kazu-n)
2008-04-30 02:22:12
コメントありがとうございます。
いくつかのコメントを削除させていただきました。

ひょっとして、酔っ払ってました?

実は私、以前に一度、酔っ払って人様のブログにコメントを残そうとして、今回のanemoneさんと同じような感じになったことがあるんです(笑)
返信する
ごめんなさい (anemone)
2008-04-26 14:51:00
バグっていて、複数載せてしましました。
ごめんなさい。
kazu-nさま、気が付き次第、削除願いたし。

最後のも舌足らずでした。
大まかなところは、言えているので、面倒なので、訂正せず。
失敬。
返信する
こういうことって (anemone)
2008-04-26 14:40:15
どのような事柄でも、刑事事件として訴える際には、誰彼からの、訴えるが必要なんですよね。
結局それって、世論(一般大衆)の意見ということになるかと思うのですが。

それが、扇動されているのではないんしょうか。
BY一市民。

そのように、あって欲しくないのです。
最近は何でも、政治でもエンターテイメントでも、TV(マスコミ)に迎合するように見受けられるので。すが。

どうおもわれますか?

返信する
Nさん (kazu-n)
2008-04-18 23:43:23
今回の京大の件は、正直、福島の大野病院事件以上の驚きでした。全くありえない。
考えたくありませんが、いよいよ、すべての医療行為がその“結果”のみをもって責任追求される時代が到来したということなのでしょうか。

そのような社会がやがて行き着くであろう暗黒の未来に、人々が少しでもいいから想像力を働かせてくれるようになることを望みたいです。
返信する
Unknown (N)
2008-04-18 15:05:55
Kさんも読まれえていましたか。医療に対する三権の振る舞いは本当に腐っています。それでも我々は患者を救わなければいけない。
返信する

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