MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

まだ大晦日です

2007年01月01日 10時45分51秒 | 雑感
2006年もいよいよ終わりです(まだアメリカは大晦日なんです)。いまだ山のような仕事に埋もれ、おそらく年が明けても正月気分に浸る余裕などは微塵もなかろうと想像しつつ、気ままに思いついたこと書き連ねてみようと思います。

1.まず、ホットなところで、イラクのフセイン元大統領の死刑の執行には(自分が消極的死刑制度廃止論者であることを横に置いても)やはり違和感を覚えずにはいられませんでした。ネットで見る限り、かの産経新聞は今回の死刑執行を(予想通り)好意的に報じているようでしたが、この産経の報道内容は、宮台真司氏の言う「へたれ右翼」という言葉を想起させるに十分なものでした。
今、日本ではクリント・イーストウッドによる「硫黄島」2部作が大きな話題を呼んでいます。極右リバタリアンとして知られるイーストウッドの主張は彼のほぼすべての作品で一貫しています。「「国家」は人間の自由を奪うものである」というきわめて明快なメッセージが彼の映画にはあります。「「国家」というシステムを疑うべし、国家による個人の自由への介入を排除すべし」これが真正右翼であるイーストウッドの一貫した主張です。それと対照的に「国家こそ国民が忠誠を尽くすべき崇高な存在なのだ」とでもいいたげな産経的主張を「へたれ右翼」と呼ぶ宮台氏の主張にはなかなか説得力があるように思います。
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2..ここ数年、凶悪犯罪の発生率は低下傾向にあり、かつ少年による凶悪犯罪率は成人のそれに比してずっと低いにもかかわらず、少年事件をはじめとして、凶悪犯罪の厳罰化を望む世論の声は年々大きくなりつつあるように感じます。1ヶ月ほど前の世論調査でも国民の半数以上(7割ぐらいだったと記憶しています)が「裁判官の出す判決は軽すぎる」と回答したそうです。
日本ではこれから裁判員制度が導入され、一般市民が凶悪犯罪の評決および判決にかかわることになります。しかし現状を鑑みるに、裁判員制度の導入は、ともすれば世論に迎合した感情剥き出しの判決を乱発させ、場合によっては多くの冤罪を生みだすことになりかねないのではないかという危惧を私は抱いています。かつてのエントリーで私は裁判員制度を擁護しましたが、現在その考えは大きく揺らいでいます。
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3..最近知り合いの法律家と話をしていたときのことです。
彼曰く「通常、法律の改正には十分なfeasibility studyが必要である。つまり法律改正後に生じうるadvantageとdisadvantageを天秤にかけ、予測される結果を合理的に勘案して改正の是非を決断せねばならない」のだそうです。ところがその人によれば「現在の日本の法改正においてはfeasibility studyが十分になされているとはとても言えない」状況にあるのだそうです。あるときは感情的に噴きあがった世論の風当たりをしのぐために、そしてあるときは、不安に駆られた世論の感情をむしろ利用して、場当たり的に法改正を繰り返しているのが日本の現状だというのです。たとえば、飲酒運転の罰則を強め過ぎたために、逆にひき逃げによる死者が増加してしまったなどという本末転倒の事態は(主要メディアではあまり報道されていないようですが)、十分なfeasibility studyを怠った結果であると言えなくもありません。そして、この事態に対し、日本社会はひき逃げに対する更なる厳罰化をもって臨もうとしています。私は飲酒運転を擁護するつもりなどさらさらありませんが、このような場当たり的対応が却って社会に不利益をもたらすこともありうるのだということぐらいは肝に銘じておくべきだと思います。
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4.タレントのそのまんま東氏が「談合は必要悪だ」と発言して問題になりました。東氏は翌日直ちに声明を出し「いかなる場合でも談合は犯罪であり、決して許されない」と自らの発言を訂正し謝罪しました。いうまでもなく、談合は公正な競争を阻害し、税金の無駄遣いを助長し、腐敗の温床となり得るわけで、その意味では決して許されるものではありません。しかしその一方で、東氏がなぜあのような発言を行ったのか、その真意を多少なりとも汲み取ることができるリテラシー能力を持っておくことがこれからの日本の進路を考えるうえでは必要なのではないかと感じます。つまり、“politically correct”がかならずしも、“truly correct”であるとは限らないという当たり前の事実を改めて認識し直す必要があるのではないでしょうか。
談合主義(コーポラティズム、労使協調主義ともいうそうです)は究極のセーフティネットであると主張する人々がいます。完全な自由競争は数社の巨大企業(公共事業であれば大手ゼネコン)による独占を生み出すだけだと彼らは主張します。日本に存在する建築土建業者のうち、実に99%が競争力の弱い中小零細企業であるという事実に鑑みれば、彼らが主張するように、すべての公共事業を競争力に勝る大手ゼネコンが受注し、結果として多くの中小企業が倒産に追い込まれることになれば、政府は失業者救済のために莫大な税金を投入せざるを得なくなり、おそらくそこで使われる税金の額は、談合によって過分に支払われるであろう、いわゆる“税金の無駄遣い”によって生じる額をはるかに凌ぎ、結果的に国家の財政をより逼迫させることにつながるかもしれません。つまり極論すれば、談合は地域共同体におけるきわめて合理的な共存のシステムであって、究極のセーフティネットとして機能していたと言えなくもないのです。
以前、琵琶湖のブラックバスについて書いたときにも少し触れましたが、肉食のブラックバスが繁殖しすぎたために琵琶湖では在来魚が死滅し、かつて存在した豊富な生態系はほぼ失われてしまいました。この事態を、嘆かわしい(多様性の価値)と見るか、やむを得ない(流動性の価値)と見るかは、実は「今後あるべき日本のグランドデザインとは何か」という問題にも通底する議論であって、決して脊髄反射的に切って棄ててよい問題ではないような気がします。

ということでまだ、書きたいことはいくつかありますが長くなるのでこのあたりでやめておくことにします。大晦日なので久しぶりに思っていることを徒然なるままに書き綴ってみました。

最後に今年読んだ本、今年見た映画のなかで印象に残ったものをいくつか挙げてみます(尚、映画のなかには新作はほとんど入ってません)。


蓮實重彦 「映画狂人」シリーズ全10巻、「監督、小津安二郎」「ゴダール革命」「映画 誘惑のエクリチュール」
ロベールブレッソン 「シネマトグラフ覚書」
山本七平 「日本人とは何か」
など。


映画
アレクサンドル・ソクーロフ「太陽」「エルミタージュ幻想」「孤独な声」
セミョーン・アラノヴィッチ「トルベド航空隊」
ダニエル・シュミット「トスカの接吻」
ジャン=リュック・ゴダール「映画史」
ベネット・ミラー「カポーティ」
など。

では、良いお年を。
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6 コメント

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Unknown (neo)
2007-01-02 22:58:25
あけましておめでとうございます。
kazu-nサマほどは映画観ていないのですが私の去年一番印象に残った映画(好きな映画ではなく)というと
橋本忍監督「幻の湖」です。
迷作と言われているそうですが、やはりすごいものがありました。

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neoさん (kazu-n)
2007-01-03 01:42:06
あけましておめでとうございます。

橋本忍監督「幻の湖」ですが、(当然のように?)観ておりません。そんなに凄いのですか?

帰国したら日本映画もいろいろ観てみたいとは思うのですが、はたしてそんな暇があるのかどうか・・。不安です。

ということで、また皆さんとお会いできることを楽しみにしております。今年もよろしくお願いします。
返信する
明けましておめでとうございます (o_sole_mio)
2007-01-04 00:38:12
もしかしたら、ご帰国の準備で新年どころでないのかもしれませんが、新年あけましておめでとうございます。

「硫黄島からの手紙」を「男達のYAMATO」を観た勢いで観てしまうとイーストウッド監督の主張が掻き消されそうで気がかりです(まだ両方とも観ていないので偉そうなことは言えませんが)。「「国家」というシステムを疑うべし、国家による個人の自由への介入を排除すべし」というのはもしかしたら日本人にとって今本当に必要な考え方なのかもしれないと思います。

4の話題は逆に「コンプライアンスの遵守」が叫ばれる一方で、これまで「本音と建前」を上手く使い分けてきた日本的な風土を無視するようなやり方は弊害も大きいのではないかと思います。そういった風土がご指摘の通りセーフティーネットの役割を果たしていたのだと思います。

今年もよろしくお願い致します。
返信する
結局 (DAZ)
2007-01-04 10:15:08
遊びに行けずじまいでしたが、
帰国準備大変なことでしょう。。

ところで、こんなものがあります。
ここを見ている方も興味がある方多いのでは??

僕も、暇なら是非行きたいのですが、
さすがに金曜日じゃあいけなさそうです。

http://www.jamesskinner.com/special/algore.html

その手の者じゃあないです(笑)
返信する
コメントありがとうございます (kazu-n)
2007-01-04 14:03:00
o_sole_mioさん。
こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします。

>>「硫黄島からの手紙」を「男達のYAMATO」を観た勢いで観てしまうとイーストウッド監督の主張が掻き消されそうで気がかりです

同感です。ちなみに先日ネットラジオで流れていたコラムニストの勝谷誠彦氏の批評によりますと「イーストウッドは本当に日本ことをよく分かってくれている。この映画が撮られたことは日米関係がかつてなく成熟してきていることの証左である」とのことでした。なんだかなー、と思いましたね(笑)

(尚、ちなみにお断りしておきますが、私もこの映画は未見です。イーストウッドの今までの映画での主張と、今回の映画についてのいくつかの詳細なレヴューから判断して今回のエントリーを書きました。帰国したらさっそく見に行くつもりです。)


DAZ君
あけましておめでとう。もうすぐ帰国です。
お土産かって帰ります。

おー、アルゴアの講演会ですか。しかもこの値段。前方の席で30万円とは(しかも100席も)!!アルゴアも商売人ですなー(笑)。「不都合な真実」一本で一体いくらポケットに入れたのだろうか。
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Unknown (ぼったくり)
2007-01-25 05:02:03
主催したグローバルアーティストという会社は、
ぼったくり講演会で有名な会社です。
気をつけましょう。
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