評価5
再読(前回:2021年3月30日)
今を遡ること113年前に雑誌スバルへの掲載が始まった不朽の名作3度目の再読。
何度読んでも古さを感じさせない鴎外の筆致に感動を覚える。
医学生の岡田が時々通る無縁坂の一隅に、高利貸し・未造の妾のお玉が住んでいた。騙されて妻子持ちの警察官と結婚していたお玉はその男と離縁した後、高齢の父親の行く末を案じてしぶしぶ未造の申し出を受けてしまう。未造の身分が実は高利貸しだったことを知ったお玉の心は徐々に未造から離れて、時々見かける岡田に惹かれるようになって行く。そんな時、未造から送られた紅雀が蛇に襲われたところを岡田に助けてもらったことをきっかけに岡田への思慕を益々募らせるお玉。しかし、その思いを告げようとした日に岡田は友と連れ立って無縁坂を通り不忍池へ行って雁を石礫で殺して鴈鍋を食し、翌日にはドイツへ旅立ってしまう。せっかく羽ばたこうとしたお玉はその思いを遂げることが出来ずに終わってしまったのだった。
未造・女房のお常の嫉妬心、冷静な注意力でお常とお玉を観察する未造の洞察力、わが心の変遷を身もだえながら自制しつつそれに身を委ねるお玉の心の動き、蛇事件をピークに盛り上がりを見せ、きめ細やかな描写が読む者の心をつかんで離さない名作である。
森鴎外、凄い作家です!
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