オバマ大統領の演説の「凄さ」について書きましたが、外交的にも少々、私なりの論評をしておきたいと思います。
まず、東アジア共同体について。
オバマ大統領は、首脳会談で「関与」する意思を示したようです。鳩山総理は、東アジア共同体を排他的なものにはしないと明言しています。私も米国に対して開かれた共同体ではあるべきだと思いますが、地理的な概念の「東アジア」に米国は入りようがありません。NAFTAに日本が立候補しようが入りようがないのと同様です。
かつて、何度となく同様の論争は繰り広げられてきました。東アジア共同体が扱うべきテーマは、エネルギー・食糧・環境など。特に、エネルギーと食糧の共同管理・備蓄は現実的な検討課題です。そのことを考えると、環太平洋はいかにも広すぎます。このあたりをどう乗り越るか。
二つ目に中国について。
オバマ大統領は、中国の台頭を正面から歓迎しました。中国の封じ込めはしないという主張は、米国、特に民主党が従来から発してきたものです。今日の演説の中で、婉曲的に人権については言及しましたが、訪中して、オバマ大統領が人権や軍事力の拡大について、ひとことあるかどうか。
我が国には、「日米同盟を強化しない限り、米国は中国に走るぞ」という論調があります。もはや、この手の議論は通用しないということでしょう。
今回の首脳会談で、一年をかけて日米同盟を再検証することが決まりました。我々は、これをチャンスと捉えるべきです。
事前に言われていた通り、8時45分に入場した私は、前から3列目という好位置に案内されました。演説の名手であるオバマ大統領の姿と声を近くで聞けそうです。菅副総理、亀井大臣など閣僚も続々と席につき、9時には、ほぼ席が埋まりました。
演説が始まるのは10時過ぎ。超多忙の閣僚をこれだけ待たせることができるのは、天皇陛下と米大統領ぐらいでしょう。警備上の理由ですから、仕方がありませんが・・・。その分、隣になった白川日銀総裁やら、話をしたいと思いながら電話をためらってきた大臣・副大臣と情報交換ができたのは収穫でした。
オバマ大統領が登場すると、フラッシュの嵐。私の周りにも、携帯で撮影している人がたくさんいます。せっかくだからと、携帯のカメラを構えたものの、慣れないものでズームの仕方が分からず、画像はイマイチ。ちなみに、後頭部は亀井大臣、左の端にわずかに髪の毛が映っているのは、キューちゃんこと高橋尚子さんです。
さて、オバマ大統領の演説に戻ります。
私が注目したのは、大統領がどの程度アドリブを入れるのかということです。
「大仏と抹茶アイス」のエピソードで聴衆の心を捉えてから、本題である日米関係の重要性に言及します。時より、プロンプターに目をやるものの、聴衆を見渡しながら、余裕の表情で演説を続けています。
アドリブも多少は入っているのでしょうが、中米関係や北朝鮮問題など、微妙な問題にも的確に言及しているところところをみると、演説原稿がほぼ、頭に入っていると見てよさそうです。
中国の台頭をチャンスと捉えるべきと言及しつつ、人権を大切にすることが経済を強くすると日本を持ち上げるあたりの表現のバランスは、憎いばかりです。北朝鮮への厳しい表現からは、日本の世論への配慮が垣間見えます。
卓越した頭脳と聴衆をつかむ言葉の力を持つ大統領と、スピーカーの個性を知り尽くしたスピーチライター。演説は「米国初の太平洋大統領」で終わりました。スタンディングオベーションは、決して外交辞令ではありませんでした。
配られたプロフィールをみると、オバマ大統領の生まれは1961年。私とは10歳しか変わりません。すごい政治家が現れたものだと、唸りながら会場を後にしました。