「あ、」
椅子を引いて腰を下ろそうとした,郁の動きが止まった。
視線を感じ,隣の席についていた手塚が顔を上げる。
「なんだよ?」
郁はなんとも言えぬ角度に口を吊り上げて,
「・・・・・・なんでもなーい」
と手塚の隣りに座った。
怪訝そうに,というか,奇妙なものを遠巻きに眺めるように手塚は郁を窺いながら,
「変なやつ。何だよにやにやして」
「なんでもないってば」
郁はデスクに書類を広げ,仕事に取りかかるふりをしつつ,
手塚ってば案外と迂闊。
と鬼の首取ったような気分になっていた。
いつの間にか柴崎と同じシャンプーのにおいさせちゃってェ。
この色男め。
篤さんに教えちゃおうかな。
でも教えてもきっと困った顔するだけなんだろうなあと,手塚が
「ほんとにお前大丈夫かよ?」と心配するほど,
その日はにやにやがずうっと頬に張り付いて収まらなかった。
(2008.8.25)
※ 郁は同室だったからシャンプーの銘柄まで押さえてあるんですよ手塚くん。
どこで髪を洗ったのかはご想像にお任せします。
椅子を引いて腰を下ろそうとした,郁の動きが止まった。
視線を感じ,隣の席についていた手塚が顔を上げる。
「なんだよ?」
郁はなんとも言えぬ角度に口を吊り上げて,
「・・・・・・なんでもなーい」
と手塚の隣りに座った。
怪訝そうに,というか,奇妙なものを遠巻きに眺めるように手塚は郁を窺いながら,
「変なやつ。何だよにやにやして」
「なんでもないってば」
郁はデスクに書類を広げ,仕事に取りかかるふりをしつつ,
手塚ってば案外と迂闊。
と鬼の首取ったような気分になっていた。
いつの間にか柴崎と同じシャンプーのにおいさせちゃってェ。
この色男め。
篤さんに教えちゃおうかな。
でも教えてもきっと困った顔するだけなんだろうなあと,手塚が
「ほんとにお前大丈夫かよ?」と心配するほど,
その日はにやにやがずうっと頬に張り付いて収まらなかった。
(2008.8.25)
※ 郁は同室だったからシャンプーの銘柄まで押さえてあるんですよ手塚くん。
どこで髪を洗ったのかはご想像にお任せします。