「あ、おでかけかい?」
休日。玄関先で、寮監とばったり出くわす。
柴崎は、「あ、はーい。行ってきます」と靴を履きながら答えた。
「オシャレして、いいわねえ。デート?」
からかいを少し含んだ口調で聞かれる。
柴崎が手塚と付き合い始めたことは、寮生だけでなく、寮のスタッフや食堂のおばちゃんまで周知の事実だ。
「そうですよ」
と素直に笑って返せるようになった自分を、ちょっぴり照れ臭く感じつつも、まあ悪くないと柴崎は思う。以前はそういったものは依怙地に振り払ってきていたが。
変わる自分を好ましく感じる日が、まさかこの身に来ようとは。
彼のおかげで。
寮鑑は、微笑む柴崎を見て、少し表情を変えた。
心動かされたみたいにふっと眉間をひらき、
「……あんた、綺麗になったねぇ……」
つい漏らしてしまった、というような素の声を覗かせた。
「前から綺麗だったけどね。最近とみにね」
手放しの褒めように、さすがに柴崎も笑みで返すしかない。
寮監は、
「いやあたし、あんたにまだちゃんと謝ってなかったわ。なんだかタイミング合わなくて。やっぱり二人きりの時じゃないとって思ってたら、なかなかないもんでね」
と、全く繋がりの見えないことを急に振り始めた。柴崎は、
「謝る?え、何の話?」
と戸惑う。
「……水島さんの同室を頼んじゃったことよ」
寮監は、そこで一旦言葉を切った。
ああ…、と言ったきり口を閉ざした柴崎の顔を窺いつつ、
「あの子の話はしたくない? ただずっと引っ掛かってたから。こっちが無理言ったせいで、あんなことに、って」
寮監は一連の騒動を「あんなこと」と婉曲的に表現した。
「いいんです、もう」
柴崎は返した。
「もう終わったことだから」
「……そうだわね」
柴崎がいいと言って、終わったというなら、あの精神的苦痛を絶えず味わった悪質な「つきまとい行為」は結末ごと引っくるめて彼女の中で既に過去のことなのだろう。
ごめんと謝りたいのは自分のためだ。柴崎が楽になる訳ではない。
そう悟り、寮監はさりげなく話題を変えた。
「デートだってのに生憎の天気だねえ」
玄関の向こうの景色は鈍色の雨模様だ。
せっかくの柴崎のきれいな色の服もくすんでしまいそうなほど。
「あたし雨女なんですよ」
「そうなの?」
「外に出ようって時、結構降られちゃうの」
「へえ」
じゃあ行ってきます。そう言って玄関の押し戸に手をかける。
寮監は、
「あ、柴崎さん。傘は?」と行きかけた背中を呼び止める。
すると、柴崎は今日やりとりした中で一番の笑顔を向けた。
同性でも思わず見とれてしまう程の。
そして、
「あたしは傘はいいんですって」
と言って、キイと戸を押して出て行く。
女子寮のアプローチのところに、傘を差して立つ人影があることに、寮監はそのときになってようやく気がついた。
雨にけぶる景色に、そこだけくっきりと際立つシルエット。
手塚は小走りで駆け込んできた柴崎に、傘を差しかけた。
自分が濡れることを一向に気にかけない、その傘の角度を見て、寮監はつい目元を緩める。
やがて二人は一つの傘の中、肩を寄せ合って門を出て行った。
「行ってらっしゃい」
寮監は遠ざかる二人を見送りつつ、雨の日のデートも、そんなに悪くないもんだわね、と一人ごちた。
fin.
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始めまして、一条と申します。
もう、だいぶ前から「CJ」の方のサイト(Blog)はこっそり拝見させて頂いていて、
安達さんが描かれるジョウとアルフィンの世界だ大好きで1ファンさせて頂いていたのですが、
こちら、「図書館戦争」の方で拝見出来ると思っていなかったので、
びっくり驚いたのと、
こちらに来て頂いた事をとっても、とっても嬉しく思ってます。
(ので、ついつい、コメントを・・・。今まではこっそりだったのに(苦笑)
どうぞ、こちらでも安達さんの持っていられる素敵な「安達ワールド」を展開して頂けますように。
楽しみに拝見させていただきます。
「図書館~」の手塚と柴崎という、久しぶりにCJ以外に二次創作を、という気持ちに駆られた作品(登場人物)に出会えたこと、とても嬉しく思っています。
CJ歴に比べれば、図書館の二人はファン歴は短いのですが、注ぐ愛情は同様に深いつもりです(笑)
コメントの文面から察するに、一条さんも「図書館~」の二次の書き手さんなのでは?と思いました。よろしければ掲載サイトの方をご紹介下さいね。
書き込み有難うございました。「待合室」ともども今後ともよろしくお願いします。
これからも甘い手柴をお願いします〓
手柴好きが、手柴推奨組のために書いている部ログサイトですので、今後ともよろしくです。
愉しんでくださってたら、最高ですv