一人暮(ぐ)らしの母から急(きゅう)に呼(よ)び出された。久(ひさ)しぶりに実家(じっか)へ行ってみると、母は病気(びょうき)だったみたいで寝込(ねこ)んでいた。母は布団(ふとん)から起き上がると、
「心配(しんぱい)ないよ。ただの風邪(かぜ)みたいだ。二、三日寝(ね)てれば大丈夫(だいじょうぶ)さ」
「病院(びょういん)には行ったのかよ? 何なら、これから連(つ)れてってやるから」
「行ったさ。あそこのヤブ医者(いしゃ)にね。それよりも、お前に話しときたいことがあってね」
「何だよ。――飯(めし)とか、どうしてるんだ? 何か作ってやるよ」
「まったくせわしないねぇ。今はね、あっためるだけで食べられるのがあるんだよ。いいから、ここに座(すわ)りなよ。大事(だいじ)な話があるんだから」
母は神妙(しんみょう)な顔をして、「あたしも、もう歳(とし)だから…。いつお迎(むか)えが来てもおかしくない」
「なに言ってんだよ。まだ、六十代だろ。母さんなら八十まで元気(げんき)でいられるさ」
「父(とお)さんが亡(な)くなって三年。もう許(ゆる)してくれるだろ。ねぇ、父さん」
母は小さな親父(おやじ)の写真(しゃしん)を見つめて言った。そして、僕(ぼく)の方へ向き直(なお)ると、
「これから話すことは、棺桶(かんおけ)まで持っていくつもりだったんだけど…。やっぱり話しといた方がいいと思ってね。――お前の、出生(しゅっしょう)に関(かか)わることなんだ。父さんとは見合(みあ)い結婚(けっこん)でね。ちょうどその頃(ころ)、母さんは付き合ってた人がいたんだよ。その人と結婚するつもりだった。でもね、両親(りょうしん)に反対(はんたい)されて…。その人は、空(そら)へ帰っちまったんだ。実(じつ)はね…。父さんと結婚してから、あんたがお腹(なか)にいることが分かって…。つまり、あんたは――」
<つぶやき>何でしょう、このカミングアウトは…。空ってどこよ。まさか、宇宙人(うちゅうじん)なの?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。