「お前、あいつに振(ふ)られたのか?」
あたしは、兄(あに)から唐突(とうとつ)に言われた。傷心(しょうしん)に浸(ひた)っていたあたしは、まるでとどめを刺(さ)されたように感じた。どうして、そんなことを知ってるのよ。あたしは、兄を問(と)い詰(つ)めた。すると、兄は会社(かいしゃ)の同僚(どうりょう)から聞かされたと。面白(おもしろ)い振られ方をした娘(こ)がいるって――。
面白いって何よ。どうせあたしは……そういう振られ方したわよ。それが何よ!
あたしは、その情報(じょうほう)の出処(でどころ)を探(さぐ)ってみた。すると、兄の同僚は友人(ゆうじん)から聞いて、その友人は妹(いもうと)から、その妹は友だちから、その友だちは…あたしの親友(しんゆう)から聞いたと分かった。これは、何なのよ。すべての人は誰(だれ)かの友人で兄妹(きょうだい)で親戚(しんせき)で、みんなつながってるの?
あたしの知らない人たちまで、あたしが振られたことを知ってるなんて…。あたしは、もう立ち直(なお)れそうもないわ。もう、どこかの穴(あな)の中にでも潜(もぐ)り込みたい気分(きぶん)――。
兄は、落ち込んでいるあたしを励(はげ)まそうと思ったのか、あたしに言った。
「もう、あんなヤツのことは忘(わす)れて――。そうだ。俺(おれ)が、良(い)い男紹介(しょうかい)してやるよ。ちょうどな、独身(どくしん)のヤツがいるんだよ。俺に、お前の噂(うわさ)を聞かせてくれたヤツなんだけど…。そいつに、俺の妹かもって話したら、どんな娘(こ)かぜひ会ってみたいって。どうする?」
どうするって…。あたしが、そんな人と会うわけないでしょ! あたしは、口元(くちもと)まで出かかった言葉(ことば)を呑(の)み込んで、「で……。その人、そんなに良い男なの?」
<つぶやき>やけになっちゃダメだよ。でも、どんな振られ方したのか、気になるよね。
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