私は、出社(しゅっしゃ)の途中(とちゅう)で子猫(こねこ)に出会った。私がそばを通ると、街路樹(がいろじゅ)の茂(しげ)みの中から飛(と)び出して私の足にすり寄(よ)ってきた。私はあまりの可愛(かわい)さに手を伸(の)ばそうとした。しかし、私は思い止(とど)まった。家(うち)で猫を飼(か)うわけにはいかないのだ。
子猫はお腹(なか)が空(す)いているのか、私から離(はな)れようとはしなかった。でも、あいにく餌(えさ)になるものは何も持っていなかった。それに、これから会社(かいしゃ)へ行かなくてはいけない。私は足早にその場から離れた。
仕事(しごと)をしている間(あいだ)、私は子猫のことが気になっていた。どうしているのか…。車にひかれたりしてないだろうか…。自分の飼い猫でもないのに、おかしな話しだ。
夕方(ゆうがた)。会社からの帰り道、同じ場所(ばしょ)を通りかかった。あの子猫はもういなかった。きっと、誰(だれ)か親切(しんせつ)な人が拾(ひろ)っていったのだろうと、私は勝手(かって)に想像(そうぞう)して胸(むね)をなで下ろした。
それから一ヶ月後のこと――。私は家の近くで見覚(みおぼ)えのある猫を見かけた。その小柄(こがら)な猫は、あの時の子猫とそっくりだ。まさか、拾われたんじゃなかったのか…。
猫は、私のことをじっと見つめている。私に何か言いたげな感じ…に思えた。私は猫に話しかけてみた。猫に言葉(ことば)が通(つう)じるわけはないのだが…。
猫は近づいて来る私に警戒(けいかい)したのか、身構(みがま)えると勢(いきお)いよく走り去(さ)ってしまった。
私は猫を目で追(お)いながら、無事(ぶじ)に育(そだ)ってくれよと心の中で念(ねん)じていた。
<つぶやき>猫だって生きる術(すべ)は持っているのです。たくましく生き延(の)びて欲(ほ)しいと…。
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