「で、次の事件(じけん)なんだけど…。頼(たの)めるよなぁ」と、鬼瓦刑事(おにがわらけいじ)が詰(つ)め寄(よ)った。
樋口(ひぐち)みおは困(こま)った顔で目黒所長(めぐろしょちょう)を見た。目黒は鬼瓦をつかまえて、
「おい。どういうつもりだ。この娘(こ)は、僕(ぼく)の助手(じょしゅ)なんだ。勝手(かって)なこと――」
鬼瓦は目黒を振(ふ)り払(はら)うと懇願(こんがん)するように、「なぁ、頼むよ。今度のはなぁ、まだ事件かどうかも分からないんで、お前らに頼むしかないんだ。実(じつ)はなぁ、うちの管轄(かんかつ)で行方不明者(ゆくえふめいしゃ)が四人も出てるんだ。どれも若(わか)くて髪(かみ)の長い女性だ。で、みんな、誰(だれ)かと会うと言って出かけている。俺(おれ)の調(しら)べたところでは、この四人の接点(せってん)は<夜汽車(よぎしゃ)>というバーだけなんだ」
目黒はため息(いき)をついて、「だったら、そのバーに貼(は)りついて、その誰かを見つけろよ」
「そうしたいところだけど…、警察(けいさつ)も暇(ひま)じゃないんだよ。お前だって、元(もと)刑事なんだから分かるだろ? もし、この四人が事件に巻(ま)き込まれてたら、今ごろどうなってるか…」
みおが口を挟(はさ)んだ。「あたし、やります。やりたいです。所長、お願いします」
目黒は眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せて、「お前、分かってるのか? これが同一犯(どういつはん)の犯行(はんこう)だとしたら…。犯人(はんにん)はシリアルキラーかもしれないんだ。迷(まよ)い猫(ねこ)を捜(さが)すのと訳(わけ)が違(ちが)うんだぞ」
「そんなの、分かってます。あたしだって、警察にいたんですから…」
「それになぁ」目黒は鬼瓦を睨(にら)みつけて、「若くて髪の長い女性だって…。まさか、この娘(こ)をおとりに使おうなんて思ってないよなぁ。もし、そうだとしたら…」
<つぶやき>今度のは危(あぶ)ないヤツかもしれませんよ。鬼瓦は、何でこんなこと頼むのか?
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