賢吾(けんご)は眠(ねむ)い目をこすりながらテレビに見入(みい)っていた。時間は夜中(よなか)の2時を回っている。テレビに映(うつ)し出されていたのは若(わか)い女性。アイドルのようにとても可愛(かわい)いが、今までテレビでは見たことのない人だった。
彼はしきりにテレビに向かって話しかけていた。すると、不思議(ふしぎ)なことにテレビの中の女性も、相(あい)づちをうったり返事(へんじ)を返してきた。
「ねえ、今度はいつ会えるかな?」賢吾はいとおしそうに訊(き)いた。
「そうねえ」彼女はしばらく考えて、「分かんないわ、そんなこと」
「僕は毎日会いたいんだ。でも、一晩中(ひとばんじゅう)起きていると、昼間(ひるま)眠くて仕事(しごと)にならないんだ」
「それはダメよ、ちゃんと寝(ね)てください。そうじゃないと、あたし…」
テレビの彼女は悲しげな顔をして目を伏(ふ)せた。それから、何かを決意(けつい)したように彼の方を見つめて言った。「じゃあ、明日の26時にこのチャンネルで会いましょ」
「ほんとに?」賢吾は嬉(うれ)しさのあまり飛び上がった。
そして次の日。約束(やくそく)の時間に賢吾はテレビのスイッチを入れた。チャンネルを合わせる。でも、そこに映っていたのは、シャーッという音と砂(すな)あらしだけだった。
「何だよ、どうしたんだ」賢吾は思わずテレビを叩(たた)いた。しかし、何も変わらなかった。
「もう会えない…。あんな約束しなきゃよかった。俺(おれ)が弱音(よわね)を吐(は)いたから嫌(きら)われたんだ」
<つぶやき>夜中の使われていないチャンネル。そこには誰(だれ)も知らない世界があるのです。
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