「へぇ、そんななれそめだったなんて…。とっても良いお話じゃない」
凜子(りんこ)はそう言うと、まるで少女のように微笑(ほほえ)んだ。志保(しほ)は恥(は)ずかしそうに、
「そんな、たいしたことないですよ。どこにでもあるような話なんですから」
志保は隣(となり)で所在(しょざい)なげに座っている直樹(なおき)に目線(めせん)をおくった。直樹はここぞとばかりに口を開いた。「あの、僕(ぼく)たちが出会うことができたのは凛子さんご夫婦(ふうふ)のおかげなんです。結婚(けっこん)が決まったら、まっ先に報告(ほうこく)に行こうって話し合ってたんです」
「あら、そうなの?」凜子は顔を曇(くも)らせて、「ごめんなさいね。うちの人、昨日から出かけてしまって…。せっかく来ていただいたのにね」
「あの、あたしも訊(き)いてもいいですか? お二人の、なれそめを…」
「わたし達の?」凜子は暫(しばら)く考えてから、「聞かない方がいいかもしれないわ。暗い気持ちになっちゃうから…。最初(さいしょ)の出会いから最悪(さいあく)だったのよ。いつも喧嘩(けんか)ばっかりでね」
凜子はそれ以上(いじょう)のことは言わなかった。帰り道で直樹がぽつりと呟(つぶや)いた。
「凛子さん達って謎(なぞ)だよね。どうして結婚したんだろう? 本当(ほんとう)に夫婦なのかなぁ」
「なに言ってるのよ。あたし、子供の写真(しゃしん)見せてもらったことあるわよ」
「ほんとに? 子供がいるなんて知らなかったなぁ。俺(おれ)、一度も会ったことなよ」
「でも、凛子さんってとっても素敵(すてき)よね。あたし、憧(あこが)れちゃうなぁ」
<つぶやき>謎はますます深まるのでした。でも、謎は謎のままにしてしておいた方が…。
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