「俺(おれ)は…、ちょっと悪口(わるぐち)を言っただけじゃないか。それなのに、何でこんなことに…」
「言い方が悪かったんだよ。何であんなこと言ったんだよ」
「お前も、それを聞くのか? そんなこと分かんないよ。つい言っちゃったんだから、仕方(しかた)ないじゃないか…。俺はちゃんと謝罪(しゃざい)したのに、何で許(ゆる)してもらえないんだよ。何で関係(かんけい)ないような奴(やつ)らまで、俺に敵意(てきい)を向(む)けるんだ? 俺に、どうしろっていうんだ…」
彼は翌日(よくじつ)から会社(かいしゃ)に来なくなった。数日後、会社でこんな噂(うわさ)が広がった。
「なぁ、あいつ、自殺(じさつ)したんだってな。まったく、バカなヤツだよ」
「お前、同期(どうき)じゃなかったのか? 何でかばってやらなかったんだよ」
「そんなことしたら、俺まで睨(にら)まれるだろ。そこまでは、付き合えないよ」
「あの人がいなくなってよかったわ。余計(よけい)な仕事(しごと)しなくてもよくなったし」
話しを聞いていた別の男が言った。「なぁ、あいつが何で自殺したか分かるか?」
「俺には責任(せきにん)なんてないからな。俺は、ただみんなと同じことをしただけだし…」
「あたしも、そうよ。あんなこと言った人を許すことなんかできないわ」
「あいつが何を言ったのか…。本当(ほんとう)に、君は知っていると言えるのか?」
「それは…。でも、みんながそう言ってるじゃない。だから、あたしも…」
「君(きみ)たちのしたことは、本当に正(ただ)しいのかなぁ。――それと、あいつ…まだ生(い)きてるよ」
<つぶやき>振(ふ)りかざした正義(せいぎ)の拳(こぶし)…。でも、それが誰(だれ)かを傷(きず)つけることもあるのです。
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