とある町に引っ越(こ)してきた彼。小さな商店街(しょうてんがい)の外(はず)れで、レンタルビデオの店(みせ)を見つけた。まだこんな店が残(のこ)っていたなんて、彼には驚(おどろ)きだった。彼は吸(す)い寄せられるように店内に…。棚(たな)に並(なら)んだ作品(さくひん)を見て回った彼は、たまたま手に取ったものを借(か)りてしまった。
その夜、彼は一人で映画(えいが)を見始(みはじ)めた。だが期待(きたい)に反(はん)して、めちゃくちゃつまらないヤツだった。でも、一ヵ所(しょ)だけ出ていた脇役(わきやく)の女優(じょゆう)が気になった。顔は彼好(ごの)みなのだが、どうにも性格(せいかく)の最悪(さいあく)な女を演(えん)じていた。わがままで自己中(じこちゅう)で、実際(じっさい)に会っていたら絶対(ぜったい)好きにならないタイプだ。なのに、どうにも気になって仕方(しかた)がない。彼は何度も巻(ま)き戻(もど)して、同じ場面(ばめん)を見続(みつづ)けた。どうせ、最後(さいご)まで見たって時間(じかん)の無駄(むだ)だと思ったのだ。
――いつの間(ま)にか、彼は眠(ねむ)ってしまったようだ。昼近(ひるちか)くになって、彼は目を覚(さ)ました。すると、目の前に女の顔が…。彼は驚いて飛(と)び起きた。寝(ね)ぼけた目をこすってよく見ると、その女は昨夜(ゆうべ)の映画に出ていた脇役の女優だった。その女は不機嫌(ふきげん)な顔をして言った。
「もう、いつまで寝てんのよ。ごはんは? あたし、お腹(なか)すいた」
彼はどうしたらいいのか分からなくなった。とりあえず、朝食(ちょうしょく)の支度(したく)を…。といっても、トーストと目玉焼(めだまや)きぐらいしかできないのだが…。女は文句(もんく)を言いながら、それをバクバクと頬張(ほおば)った。食べ終(お)わると、「次(つぎ)は? もっとあたしを楽(たの)しませてよ」
それは、映画で演じていた役(やく)そのものだった。どうしたらいいのか、彼は困(こま)りはてた。
<つぶやき>何度も見てしまったから、好かれちゃったのかもね。いつまでいるのかな?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます