「おまつりの夜」3
私たちは商店街に足を踏み入れた。いっぱい人がいる。焼きそば、綿菓子、イカ焼きにたこ焼き…。おなじみの屋台が並んでいる。私たち、もしかして食い気にはしってる? とにかく、食べ歩きの始まりだ。二人して歩き回った。ゆかりはゲームをやって賞品を手に入れた。こういうの得意なんだ。私なんかぜんぜんだめだった。
「あっ! こっち」ゆかりが何かを見つけた。走っていく。
…待ってよ。私は追いかける。そこには小さな子がいっぱい集まっていた。ぬいぐるみのショーをやっているんだ。クマさんが景品を子供たちに配っている。ゆかりはクマさんの後ろに回って私を呼ぶ。なんで後へ行くの? 私がゆかりの横に立つと、いきなりクマさんの頭をおもいっきり叩いた。
「いてっ」…クマが喋った。私が呆気にとられていると、クマさんが振り返った。私を睨んでいるようだ。ゆかりはいつの間にか消えている。そんな…。私が叩いたって思ってる。クマさんが近づいてくる。私は「ごめんなさい」って、走って逃げた。
なんで私が謝るの? この時、高太郎君の気持ちが少し分かったような気がした。ゆかり、どこ行っちゃたのよ。もう…。私はゆかりを捜して歩き回った。
ゆかりが、…いない。どこにもいない! …ねえ、どこ行っちゃたの? ゆかり!
…だんだん不安になってきた。闇雲に探し回る。どこにもいない。どこにも…。どうしよう。私…、帰れない。ここはどこなんだろう? …方角が分からない。どうすればいいの。ゆかり…。早く出て来て…。お願い…。私を見つけて!
だんだん暗くなってきた。人はどんどん増えてくる。みんな同じ方向に歩いていく。花火を見に行くんだ。私はその人波に流されて…。どこまで行くの。…ゆかりが見つからない。どこへ行っちゃったの? 周りを見回しても、知らない人ばかり。…怖い。怖いよ。どうしたらいいのか、何も考えられない。昔のことが…、迷子になったときのことが甦る。
私は必死になってゆかりを捜す。早く来て! もうだめ…。
いつの間にか海岸まで来ていた。人の波はそこで止まった。…どうしよう。どうやって帰ればいいの。ゆかり! 私は途方に暮れた。どんどん不安がこみ上げてくる。身体が震えてきた。涙があふれそうになって、私はしゃがみ込んでしまった。
「おい、さくらじゃないか?」
「あれ、さくらだよ」誰かが私の名前を…。
「さくら、どうした?」誰かが私に…。
私は震えながら顔を上げる。知ってる顔…。私の知ってる顔!
「高太郎!」私は思わず抱きついた。高太郎君しか見えなかった。…涙が止まらなかった。周りにいた男の子たちも心配そうに私を見ている。なんだか、恥ずかしくなってきた。なんで涙が出るのよ。私は落ち着こうと、何度も深呼吸した。
<つぶやき>迷子になったら慌てず引き返そう。人生に迷ったら立ち止まり見回そう。
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