それはいきなりの事だった。
『俺、来月で退職するから。』
『えっ?』
私はツネ師匠の突然の申し出に言葉が出なかった。
定年まで後2年ある。本人が希望すれば5年の雇用延長も問題なく出来た。
少なくとも定年までは仕事を一緒にしていただけると思っていたのだ。
『いきなり、どうしてですか?』
『最初から、そんな長く勤める気はなかったんだ。お前の面倒も見るのは疲れたからな。』
ツネ師匠は、何故か、はにかんだような笑顔を見せた。
『もう決めたんですか?』
『あぁ、社長にも了承を得たよ。』
私は気の利いた言葉が見つからなかった。
少し重苦しい空気になり、紛らわすようにトンカツを食べた。
ツネ師匠は、頼んだトンカツを半分残し、常備薬を4.5錠飲んだ。
気のせいか、少し痩せて見えた。