ムソルグスキー
ボリス・ゴドゥノフ
Boris Godunov
「ボリス・ゴドゥノフ」プロローグ
第1場
モスクワ近郊・ノヴォデヴィチ修道院の裏庭 1598年
修道院には、ボリスが一時的に隠居している。修道院の裏庭に民衆が集まっている。門から警備の役人が出てきて、民衆を脅す。
Na kovo ti nas pokidayesh’, otec nash!「民衆の合唱」
人々
「誰の手に我らを任せるのか、我らの父よ。誰の手に我らを渡すのか?哀れみたまえ。」
第2場
モスクワ・大聖堂前の広場 1598年
シュイスキー公が現れ、モスクワの民衆にボリスを称えるように呼びかける。
ムソルグスキー:歌劇《ボリス・ゴドゥノフ》から『戴冠式の場』
人々
「空に輝く美しい太陽のように、栄光あれ。ロシア皇帝ボリスに栄光あれ。」
「民衆の合唱」Uzh kak na nebe solncu krasnomu
ボリスが大聖堂の入り口に現れる。
ボリス・ゴドゥノフ
「我が魂は悲しむ。不吉な予感が我が心を苦しめる。万能の神よ、我が涙をご覧ください。我が権力を祝福ください。かつてのロシアの支配者のように、皆を宴に招こう。貴族から貧しき者まで、皆が客人だ。」
「ボリスのモノローグ」Skorbit dusha!
民衆は「栄光あれ」と叫びながら、大聖堂に押し寄せる。
「ボリス・ゴドゥノフ」第1幕
第1場
モスクワ・チュードフ修道院・老僧ピーメンの部屋 1603年
夜、老僧ピーメンはロシアの歴史の年代記を書いている。ピーメンの側で、グリゴリーは眠っている。
Jeshchyo odno posledneye skazan’e
「あと一つ物語を書き終えて」
老僧ピーメン
「あと一つの物語で書き終わる。神が私に命じた仕事が終わる。」
第2場
リトアニア国境・旅籠 1603年
僧侶になりすましたヴァルラーム、ミサイールと、普通の服を着たグリゴリーが旅籠を訪れる。3人は酒を飲み始める。
Kak vo gorode bilo vo Kazani
「カザンの町で」
ヴァルラーム
「カザンの町で、イヴァン雷帝は陽気に酔っ払い、タタール人を痛めつけた。彼らが二度と町をうろつかないように。」
ムソルグスキー:歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」~カザンの町であった事
録音年:2013年5月
録音場所:リトアニア、カウナス
指揮者:コンスタンティン・オルベリアン
演奏者:イルダル・アブドラザコフ(バス)
楽団:カウナス市交響楽団
「ボリス・ゴドゥノフ」第2幕
クレムリン宮殿・皇帝の居間 1604年
ボリスの娘は、亡くなった婚約者を思い悲しんでいる。ボリスの息子と乳母は彼女を励ます。ボリスが居間に入り、娘を励ます。
Dostig ya vyshey vlasti
「私は最高の権力を手に入れた」
ボリス・ゴドゥノフ
「なんと素晴らしい。空から見るように、お前は国を見ているのだな。もうすぐお前のものになる。
私は最高の権力を手に入れた。だが、私の心は落ち着かない。国は貧困と疫病に覆われて、私には血まみれの子供が見える。」
「時計の場」Uf, tyazhelo!
ボリス・ゴドゥノフ
「苦しい。私の良心が恐ろしい罰を与える。血まみれの子供がいる!神よ、罪深い魂を哀れみたまえ。」
Uf! Tyazhelo! (Clock Scene)
「ボリス・ゴドゥノフ」第3幕
第1場
ポーランド・サンドミエシュ城内・マリーナの部屋 1604年
マリーナは自室で女中に髪を梳かしてもらっている。マリーナを褒めたたえるように、娘たちが歌を披露している。
マリーナ
「もういいわ。帰って。私に必要なのはそんな甘い歌ではないわ。ポーランドの英雄の歌、勇敢なポーランド娘の歌よ。(女中に)あなたも、去って。」
娘たちや女中が去る。
「なんと悩ましく憂鬱で」Dovol’no!…Skuchno Marine
マリーナ
「なんて悩ましく憂鬱で、退屈なんだろう。ロシアからきたあの人が私の心を捕らえる。ドミトリーを得て、ロシアの皇后になるのだ。」
第2場
ポーランド・サンドミエシュ城内・噴水のある庭 1604年
グレゴリーはひとりでマリーナを待っている。
「二重唱・おお皇子様、お願い」O, tsarevich, umolyayu
マリーナ
「おお皇子様、お願い。マリーナはあなたを裏切りません。私を忘れて皇帝の座を目指すのです。私はあなたを愛しています。」
グリゴリー
「もう一度言ってくれ。マリーナ。」
マリーナとグリゴリーが抱き合う。ランゴーニが二人の様子を陰から見ている。
「ボリス・ゴドゥノフ」第4幕
第1場
モスクワ・聖ワシリイ大聖堂前、赤の広場 1605年
赤の広場には、貧しい人々が集まっている。大聖堂の中では、亡きドミトリーのために祈りが捧げられている。
「白痴の歌・流れよ、流れよ、苦い涙」Leytes’, leytes’, slyozy gor’kiye
白痴イヴァヌイチ
「ヘロデ王のために祈ることはできない。流れよ、流れよ、苦い涙。泣け、泣け、正教徒たちよ。まもなく敵が訪れ、闇に覆われるだろう。泣け、泣け、ロシアの民よ。貧しき人々よ。」
第2場
クレムリン宮殿 1605年
貴族議員たちによって、偽物のドミトリーと賛同者たちを処刑する決議がされる。シュイスキー公が少し遅れてやってくる。…
…(中略)…
…老僧ピーメンが現れる。
「ある日の晩のこと」Odnazhdy, v vecherniy chas
ピーメン
『ある日の晩のこと、私のもとに老人が訪ねてきて不思議な話をしました。「私は幼い頃に目が見えなくなり、夢を見ることがなくなりました。ある日、夢の中で子供の声が聞こえてたのです。
おじいさん。ウーグリチの町に行き、私の墓を参ってください。私は皇子ドミトリーです。奇跡を起こす者になりました。
私は孫と共にその町に行きました。私が墓で涙を流すと、目が見えるようになったのです。」』
ボリスは再び錯乱する。ピーメンが去る。貴族たちは混乱する。ボリスは息子を呼ぶ。
ボリス・ゴドゥノフ
「息子を呼んでくれ。皆は下がってくれ。」
息子が駆けつける。貴族たちは去る。
「さらば我が子よ、私はもう死ぬ」Proshchay, moy syn, umirayu!
ボリス・ゴドゥノフ
「さらば、わが息子よ、私はもう死ぬ。お前がロシアを統治するのだ。」
ボリスが死ぬ。
第3場
モスクワ近郊・クロミーの森 1605年
貴族のひとりが捕らえられ、群衆に嘲笑されている。白痴が子供たちに追いかけられている。子供たちが白痴から銅貨を奪う。ボリスを非難する民衆の声が響く。2人のイエズス会士が遠くからやってくる。イエズス会士が民衆に捕らえられそうになると、グレゴリーが現れる。
グリゴリー
「ボリスに迫害された者よ、集まれ。モスクワに行くのだ!」
民衆、イエズス会士らは、グレゴリーとともにモスクワに向かっていく。一人残った白痴が嘆く。
白痴イヴァヌイチ
「流れよ、流れよ、苦い涙。泣け、泣け、正教徒たちよ。まもなく敵が訪れ、闇に覆われるだろう。泣け、泣け、ロシアの民よ。貧しき人々よ。」
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〘 …ロシアの人たちはスムータ=大動乱を恐れる。スムータとはムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドノフ』でも描かれた17世紀初頭のロシアの大動乱を言うが、ロシア革命の時の大混乱やソ連崩壊直後の混迷の時代を指す言葉としても使われる。
プーチン体制が本当に崩壊するのかはわからないが、民間軍事会社の乱立はスムータを予感させる現象の1つと言えなくもない。緒方 誠(TBSテレビ報道局解説委員)〙
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