公演名 二月花形歌舞伎 昼の部
劇場 大阪松竹座
観劇日 2009年2月8日(日)
座席 1階11列
■女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)
序幕 徳庵堤茶店の場
第二幕 河内屋内の場
第三幕 豊嶋屋油店の場
河内屋与兵衛:愛之助 女房お吉:亀治郎 豊嶋屋七左衛門:獅童
小栗八弥:勘太郎 芸者小菊:七之助 妹おかち:壱太郎
母おさわ:竹三郎 父徳兵衛:橘三郎
兄太兵衛:亀鶴 叔父森右衛門:男女蔵
油を商う河内屋の次男・与兵衛は、放蕩三昧で喧嘩沙汰ばかり起こしている。
また、借金の返済に困り親から金を巻き上げようとするが、とうとう家を追
い出されてしまう。
そこで与兵衛は、同業の豊嶋屋の女房、お吉に頼ろうと店を訪れたところ、
偶然お吉を訪れていた自分の両親の慈愛あふれる心を知る。もう親に迷惑は
かけられないと思った与兵衛は、お吉に不義になって金を貸して欲しいと迫
るが、断られてしまい・・・。
(歌舞伎美人より)
大入りの客席。みんな、やっぱりこの演目が好きなんでしょうね。
もちろん、私も大好き!
しかも仁左衛門さんに続いて、愛之助さんの与兵衛だなんて♪
以下、大いに贔屓目レポまいります。
ようやく1階で観たこの日。
舞台にいたのはちゃんと愛之助さんバージョンの与兵衛だった。
勝手な想像だけど、おそらく余裕があるとはとてもいえないこの舞台で、芝
居は終始トップギア状態。そんなギリギリいっぱい感が、私にはそのまま切
羽詰まった主人公の心情とダブって見えてしまった。
精一杯強がらないと生きていけない。与兵衛が肩をそびやかすたびに、その
裏にある甘ったれで小心者の本性が見えて痛々しい。
そして、なんといっても愛之助さんの与兵衛には勢いがある。
スピード感と瞬発力がある。
たとえば、コロコロ変わる表情のめまぐるしさ。
殺しの一刀の速さ。
そういう機敏な動きの一つ一つが今回の与兵衛の大きな魅力だ。
とにかく、見始めたら最後まで。手に汗握り、ハラハラさせずにはおかない。
油地獄の深みにズルズルズルズル引き込まれるしかない~。
前回観た、仁左衛門さんの与兵衛&孝太郎さんのお吉と比べて、これは面白
い!と思った場面がある。あくまでも個人的な印象だけど。
お金に困った与兵衛がお吉に「いっそ不義になって貸してくだされ」と申し
出るところだ。
ここ、冒頭のお茶屋での場面が伏線になっている。
喧嘩で投げた石が馬上の侍に当たり、下向時に首をはねるぞ!と言い渡され、
恐ろしさのあまり通りがかったお吉にすがったあの場面。
袖が破れて泥だらけになった着物をお吉が縫って直してやったのを、お吉は
夫の七左衛門に不義密通の疑いをかけられ、それを解くのが大変だった。そ
れなのに夫の留守中にお金を貸すなんてできない、と言うのだが、その話に
飛びつく与兵衛のすばやいこと。
で、そこから先。
目だけが一瞬ニヤリとし、凄い形相で与兵衛がお吉に迫っていきながら言う。
「いっそ不義になって貸してくだされ」。
ゆっくりした口調がかなり不気味。
仁左衛門さん&孝太郎さんでは、お吉はヘビに睨まれたカエル状態だったと
思う。だからお吉は、危険とわかってもすぐには身動きがとれない。
ところが、愛之助さん&亀治郎さんのバージョンでは、二人の間にもう少し
で不義が成立しそうなのだ(笑)。ジリジリ距離をつめてゆく与兵衛をお吉
はひょっとして待っているんだろうか? 与兵衛がお吉の胸に手を入れたと
ころで初めてハッとなり、かわすわけだけれど。
だからこそ、うまくいきそうだったからこそ、その後の与兵衛の落胆ぶりが
あそこまで酷く、凄惨な事件にまで結びついてしまったのかもしれない。
1階とはいえ、11列上手からは豊嶋屋油店の場は遠く、暗すぎて、肉眼では
細かい表情がやっぱりよくわからない(涙)。
この演目は特別だから。ナマでしか感じ取れない空気や、感情の動きを自分
の目で目撃したいと思ってしまう。
次回は匍匐前進で、さらに前へ!(笑)
1階で観る殺しの見得は美しかった~♪
特に立って伸び上がったポーズは、3階のアングルからでは鑑賞できない。
そのうちの一つ、お吉が倒れながら、手が与兵衛の頬を上から下へなぞって
ゆく時につく血糊。初日はうまくできなかったのが、この日はベッタリ!
お吉の海老ぞりもなんて美しい~!
二人で滑って転ぶ転び方も、刀の動きも、スピードがあって派手で美しい。
擬音、効果音として使われる太棹三味線の音、それから谷太夫さんの語り
もナマならでは、歌舞伎ならではの間が堪能できる。(これは3階から
全体を観ながらのほうがよく味わえる。)
最後にお吉の帯の上を与兵衛がたどって外に出る時の三味線の音も好き。
殺す前。殺した後。
時を告げる鐘の音に焦る与兵衛の心情が、細やかに表現されるこの場面は
片時も目が離せない。
力を入れすぎた刀が手にくっついて離れず、肘を打って落とすところや、
遺体になったお吉の目を見ずにお吉から鍵束を盗もうとするところ。
正しい鍵が見つからず、見つかっても鍵穴になかなか入れられない等々。
亀治郎さんのお吉、上手いし、与兵衛に対してよく世話をやいてくれる年
増の人妻という感じがよく出ている。が、「不義に」なっても不思議では
ないと思わせるにはちょっと落ち着きすぎでは?(笑)
すんませーん! いらぬお節介でした。
獅童さんの七左衛門、上方言葉がちょっとあやしいけれど、町人の雰囲気
はピッタリ。序幕で与兵衛をたしなめる時に「ていっ!」というと客席が
大笑いでわく。この日は2回も言っていた。
七之助さんの芸者小菊、本物かと思うような艶かしさ。出番は少ないのに、
小菊がしゃべっている時の求心力、存在感に驚いた。
おさわの竹三郎には相変わらず泣かされたが、義父である現在の父徳兵衛
の橘三郎さんにも泣かされた。この両親の場面はハンカチが手放せない。
与兵衛は不良とはいえども、商売人の息子。
ある意味、親に無心するお金があるがゆえに放蕩息子になったわけで。
実父を亡くし、もと使用人だった男が父となり、甘やかされて育ったとい
うのが不良になった原因らしい。
「こなたが娘を可愛がるほど、俺も俺を可愛がる親父が、愛しいっ。」
あれほど反抗していても、心の底では義父のことが好きなんだと告白して
しまう台詞。思わず言っちゃった、という感じが出ていて、愛之助さんの
与兵衛の心にはずっとそれが流れているんだとあらためて思った。
22日(日)にもあと1回観る予定なり。
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わたしもそう思いました(笑)
人生をかける相手ではない、そう頭ではわかっていても一時の快楽に流されてしまいそうになる~・・・という「女」を感じました。亀さんに。つい、ゴクリ(笑)
そこで寸前で踏みとどまったのがお吉。
流されたうえに背徳の喜びを覚えてしまったのが、吹雪峠のおえん・・・なのかな~とふと思いました。それなのにお吉は理不尽に殺されちゃって、かたやおえんは・・・。七之助くんのはすはな女っぷり、ヨカッタです♪確かに亀さんは、もうすこしスキがあったほうがもっと「不義しちゃいそう」かも?(ええと、こんなこと書いてていいですか??)
だとしたら、いつから、どの場面から二人が危うい関係に
なったのかを考えてみるのもスリリングで面白いですよね~。
与兵衛の悪友たちが冷やかしていたのも、まんざらウソ
じゃなかったという、これも大事な伏線になってますね。
「いっそ不義になって貸してくだされ」は与兵衛の咄嗟の
言葉のようだけれど、実はそれも計画的だったのか、とか。
・・・
そんなことまで考えてしまうのは、きっとお二人の芝居が
よくできているから。男と女、になっているからですね。
> 流されたうえに背徳の喜びを覚えてしまった
不義、背徳・・・
ほんとにねえ(笑)、ナルホド、そっちの世界もアリだな~
と思わせてくれるのも、お芝居ならではの楽しみですよね。