公演名 二月花形歌舞伎 夜の部
劇場 大阪松竹座
観劇日 2009年2月8日(日)
座席 3階
■吹雪峠(ふぶきとうげ)
直吉:愛之助 おえん:七之助 助蔵:獅童
猛吹雪に閉ざされた山小屋へやっとの思いで辿り着いたのは商人姿の助蔵
とおえん。今は夫婦になっているこの二人、おえんはもとは助蔵が無頼漢
だった頃の兄貴分、直吉の女房だった女。密通の末駆け落ちして、今は世
をしのぶ二人であり、いつも直吉へのおびえがつきまとっている。
ところが、こともあろうにその直吉がこの山小屋へやってくる。まさかの
偶然に恐れおののく二人だったが・・・。
(歌舞伎美人より)
宇野信夫脚本による新歌舞伎の演目。なかなかスゴイお話だった。
たった30分、たった3人だけで見せる濃密な台詞劇。
吹雪のヒュウ~ヒュ~という効果音も、ちょっと現代劇ふうな感じ。
途中からゴロッと変わってしまうあたりはたぶん狙い通りなんだろうけど、
見ているほうとしては、エエエーーッ、なにコレ。こういうお芝居なの?
どう見りゃいいのさ!モードに突入してしまうこと必至(笑)。
でもって、ラストにピリッと効かせるショートショートな味わい。
芥川龍之介ふうというか、「世にも奇妙な物語」 タッチというか。
上演中につきストーリーには触れたくないので、印象だけをグダグダと。
ビジュアル的なネタバレあり!ご注意を。
七之助さん、世話物になると俄然、玉三郎さんに似てくると思った。
このおえんも、去年浅草で見た「与話情浮名横櫛」のお富さんを思い出さ
せる艶っぽさと台詞回し。もともとヤクザな直吉の女房だっただけに粋さ
もある役どころ。いい感じなんだなー、これが。
獅童さん、今回は「毛抜」でも健闘してるし、台詞劇もなかなかいける!
えらいカッコいいやん・・・と冒頭で思わせておいて・・・
あれはあれでいいの? 観客をそっちに引き入れるのが狙いなの?(笑)
私は素直に笑わせていただきましたっ。
そうそう。このお二人にはかなりドキドキのシーンが!(次回に続く♪)
愛之助さん。
吹雪の中、小屋をぐるっとひと回りしてやってくるのは、旅姿の直吉。
ビジュアル的には三度笠にマントの、まさに股旅物の衣装でござんす。
そういえば鬘もそういう風情。
助蔵が「男惚れする気性」と言っているように、同じ小屋の中で、おえん
と助蔵が平謝りであたふたしている時にもじっと静かに見ているような、
肚のすわった男、でござんす。(見た目にはね!)
とにかく直吉だけはキャラにブレがないので、わかりやすいのは確か。
よくある国定忠治ふうの見得もあったりして、刀をクルクルッとさばいて
鞘におさめるのが素敵。
声も太いし、眉も太いし、台詞が関東弁だし。
さっきまでヘナチョコ与兵衛をやってたなんて、あなた別人でしょ(笑)。
いやいや、カッコイイんです。
最後がエエエ---ッ! クゥ~ッ、このぉ!な直吉。
三者三様の役柄を楽しませていただきました。
■源平布引滝 実盛物語(さねもりものがたり)
斎藤実盛:勘太郎 小万:亀治郎 九郎助:亀蔵
小よし:吉弥 葵御前:亀鶴 瀬尾十郎:男女蔵
平家の侍でありながら、源氏に心を寄せる斎藤実盛。
木曽義賢の妻葵御前が身ごもっていることを聞いて、腹中の子が男か女か
を瀬尾十郎と共に詮議に来る。実盛は一計を案じ葵御前が生んだのは女の
腕だと告げて瀬尾を帰し、葵御前は無事男の子、のちの義仲を生む。
(歌舞伎美人より)
全五段の時代物人形浄瑠璃『源平布引滝』が原作で、三段目にあたるのが
この演目。二段目の義賢最期のほうは愛之助さんで見たことがあるが、
実盛物語は私には全くお初だった。
木曽義仲の史実や、太郎吉と実盛の逸話を巧みに取入れながら、ファンタ
ジー&ミステリードラマにもなっているという、よくできたお話。
源氏の白旗を握りしめた腕(かいな)を漁師である九郎助と孫の太郎吉が
海から引き揚げたのがコトの始まり。
(3階からとはいえ、斬り落とされたシロい腕にギョッ。)
その腕の持ち主、持ち主の両親と息子、腕を斬り落とした者、腕の持ち主
の実の親等・・・。とにかく、腕をめぐるすべての登場人物の関係が次々
と明らかになってゆく展開にヘエエ~。
歌舞伎の時代物の場合、源氏方か平家方かはよくよく聞いてみないとワカ
ラン!というパターンが多いが、実盛もそういう心の綾が見え隠れする。
(というか、見え見え?)そこが面白くもあり、ややっこしくもある。
浄瑠璃と三味線の伴奏があり、役者の台詞がときおり乗り地に。
勘太郎さんの実盛は品があり、なんといっても爽やかさが引き立つこと。
源氏の白旗の件を一人で語り分ける時も、誠実な感じが伝わってくる。
左團次さんの役を受け継いだという男女蔵さんの瀬尾十郎、貫禄があって、
実の娘とその子への愛情深さがよくわかる。モドリで一気にええトコ持っ
ていっちゃった感じ。
亀鶴さんの葵御前が意外によく似合っていてビックリ。
腕の持ち主小万役では、亀治郎さんがファンタジー部分を担当し、九郎助
と小よしの夫婦、亀蔵さんと吉弥さんが味わいあるお芝居で厚みを出す。
太郎吉が実盛や瀬尾十郎に立ち向かってゆくその絡みが見せ場。子役さん
もがんばっていた。
最後は葵御前が産気づき、男の子(義仲)を出産。太郎吉くんの行く末も
決まり、めでたしめでたし。
実盛の馬に乗っての引っ込みまで、ひたすら勘太郎さんのサワヤカ~さが
印象に残る舞台だった。
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吹雪峠のあらすじを見て、人間の複雑な心理状態をうんぬん・・・と書いてあるけど、この状況大阪でやったら「わーい修羅場だ♪(笑)」ってなるんちゃうの~?と、笑いから離れられないまま見に行ったのですが、逆に獅童さんの積極的なくすぐりはほんの2、3コくらいに感じました。あとはひたすら人間のリアルドラマ。客席は爆笑のるつぼでしたけど(笑)
わたしは舞台演劇にあまりなじみがないもので、なんの解釈もできませんが、
>芥川龍之介ふうというか、「世にも奇妙な物語」 タッチというか。
↑なるほど~と思いました。
この演目、披露する状況がちょっと違えば、笑いの方向に行かないかもですね。
その辺はちょっとひいて見ながらも、直吉のビジュアルの美しさには冷静になれずにそれほど遠くない1階席からオペラグラスでガン見してしまいました~。(もう、それだけでいい!)
なんだかんだ言いますが、泣きながら笑ったり、笑いながら泣いたり、あるいは怖がりながら笑っちゃったりする、笑いがいろんな感情に解け合ってる関西の風味が好きです。
長々失礼しました!
この時点ではネタバレ的な感想を全然書いてないのですが、
作品的には、男と女の心理劇、というか真理をついたドラマ。
面白い脚本だと思いました。
人間の性(さが)の滑稽さを見せつけられて、つい苦笑して
しまうというお芝居だと思うんですが・・・。
今回は大阪という土地柄のせいか、なんか笑いの質が違い
ますよねー。ゲラゲラ、おおらかな笑い(笑)。
愛之助さんもおっしゃるように、お芝居はキャッチボールなので、
関西のお客さんは「これは笑いの球や!」と素直に受け取って、
笑いで返してるんでしょうね。
終盤はどう変わっているのか、いないのか(笑)、楽しみです!
> 直吉のビジュアルの美しさ
はい~。3階からオペラグラス越しですが美しかったです。
次回はやっと最前列で見られます。ウレシーッ!