星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

十一月大歌舞伎 大阪平成中村座「夏祭浪花鑑」

2010-11-25 | 観劇メモ(伝統芸能系)
観劇日    2010年11月21日(日) 夜の部 16:30開演
劇場     平成中村座
座席     1階 竹席

この日は朝から文楽劇場で『一谷嫩軍記』に感涙。ひとしき
り泣いた後、とみさんとカフェで気持ちを建て直し(笑)。
文楽・舞台話で気分をほぐし、各自次の観劇へ。
ありがとうございます。とみさんのおかげです~♪
なお、この日は次の会場でも、麗さんみんみんさん
かずりんさんと会えたし、さらにスキップさんとも♪
お祭り気分が続くうれしい1日になった。

さて、向かった先は大阪城西の丸庭園にある平成中村座。
なにしろ扇町公園の時の舞台を見ていないので、今回が初見。
勘三郎さんは19歳の時に唐十郎さんの紅テントを見て「なん
だこれは。歌舞伎じゃないか」と思ったそう。
ラストで舞台の後ろが開いて現実との境界がなくなる演出は、
紅テントの屋台崩しからきているんですよね?
というワケで、常設の劇場では感じることのできない「何か」
を期待して、いざ!









夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)

団七九郎兵衛:中村 勘三郎   一寸徳兵衛:中村 橋之助
玉島磯之丞、役人左膳:中村 勘太郎
徳兵衛女房お辰:中村 七之助
傾城琴浦:坂東 新悟    三婦女房おつぎ:中村歌女之丞
三河屋義平次:笹野 高史   大鳥佐賀右衛門:片岡 亀蔵
釣舟三婦:坂東 彌十郎    団七女房お梶:中村 扇雀


序幕 
第一場 発端よりお鯛茶屋の場
第二場 住吉鳥居前の場 
第三場 釣船三婦内の場 
第四場 長町裏の場

二幕目 
第一場 九郎兵衛内の場
第二場 同 屋根の場
 

上演の20分位前に着くと、もうだんじり囃子が始まっていた。
小屋の外で並んで筋書きを買い、急いで中へ。
今回は竹席(椅子席)なので足がラクチン。そのうえ花道横は
荷物置き場も若干広い。見ると座席にはビニールシートが♪
まさかここまでは水しぶきは飛んでこないでしょう!
いや、花道で何かあるのか? とヘンな期待しちゃった。
(けっきょく水は一滴もかからなかった~。)

太鼓の響き。お囃子の音色。
じっとすわっているだけでも心が浮き立ってくる。
そこへ役者さんたちがポツリポツリ、入場客に混じって通路を
行ったり来たりしている。なかには観客に話しかけている人も。
その人数がだんだん増え、やがて客席と舞台の境がなくなり、
場内全体がお祭りの現場と化す。
大きな拍手が起こり、ふと見ると勘三郎さんの団七が本舞台に。
喧嘩が始まったようだ。
これが「夏祭浪花鑑」事の発端。
私はナマでは初めてだけれど、ニューヨーク、ベルリンの海外
公演は映像で繰り返し見ている。
ここで人物設定の前説が入るのが平成中村座バージョンだ♪





「お鯛茶屋の場」。
観劇日の21日は公演後半の配役になっていた。
お鯛茶屋で遊女と遊ぶ磯之丞役は勘太郎さん。上品な色気が漂
い、見るからに力はなさそう。台詞の間とか佇まいの可笑しさ
で自然と笑ってしまった。

「釣船三婦内の場」。最初の見せ方が演劇っぽい。
お祭りのもてなしなのか、家の中が大勢の人で賑わっていたか
と思うと、さっと人気が引いて琴浦と磯之丞のじゃらじゃらの
場面に変わる。
おつぎが魚を焼いている鉄弓はさっき若手の役者さんが触って
「熱っ!」と叫び、事前にさりげなくインプットしていった♪
花道から登場のお辰は七之助さん。
その顔の色気が芝居の重要な要素になるだけに、この配役はと
ても説得力があると思った。

勘三郎さん、勘太郎さん・・・ナマも映像も含めて、今まで何
人かのお辰を見たけれど、自分の頬に鉄弓をギュッと押し当て
るところで涙が出たのは初めてだ。それほど顔をゆがめたリア
ルな芝居が痛々しかった。三婦の家を発つときに、歩き始めて
よろけるところも切なさがこみあげた。
今までカッコよさにばかり気をとられていたが、口とは裏腹に
心は・・・が、いっそう胸にしみるお辰だった。

「長町裏殺しの場」。団七と義平次の言葉のやりとり。
笹野さんは当然ながら、気持ちいいほどストライクな上方言葉。
一方、勘三郎さんの上方言葉は・・・もうすっかり聞き慣れて
しまった(笑)。
歌舞伎の心で演じておられる、いわば勘三郎さん弁だ。
ついに義平次が団七の帯にはさんだ雪駄を見つけた。こんな贅
沢なモノを~! と雪駄で団七を打つ、その打ち方が憎たらしい
ほどしつこい!

義平次に騒がれて、しもたー! 手が回った~、の後。
花道に出て見得をきめる団七。
ここで照明が落とされ舞台が真っ暗に。
面灯りが花道の団七だけを照らす。
その時、舞台後方の暗幕に巨大なモンスターのような影が映し
出された。おお~。影は当然ながら団七の動きと相似形だ。
手前には生身の団七。背後の大きな影は団七の内に潜む闇、と
でもいおうか。どうかすると団七本人を飲み込みそうな勢い。
これは前方すぎると見えないだろうし、映像では全く気づかな
かったことだ。
芝居の本筋とは関係ない怪しい感覚に、一人ワクワク♪

場面はいわゆる泥場に突入。
舞台は真っ暗なまま。面灯りが池のまわりに数個置かれている。
いや違う。人物の動きに合わせて面灯りが動く。
黒子が動かしているのか。これはすごい。カメラで顔の表情を
追っているのと同じことを人間の手でしているのだ。
面灯りだけで激しい動きを見るのは面白い。ちょっと暗闇の陰
から覗き見している気分だ。ときおりコマ落しの、昔の活動写
真のようにも見えたりして奇妙な感覚になる。
その間も背後には二人のシルエットが投影されていて、凄惨な
場面に怪しさが加わる。

義平次とともに団七が泥の中に飛び込む。ザブーン!
水しぶきがあがり、キャー、ワァ~という観客の歓声が。
泥だらけになった義平次、ずいぶん細かくいっぱい動き回る。
団七が花道まで義平次を追いかけてきた。シャンシャンと刀の
震える音がする。執念なのか。業なのか。
本舞台で殺しの見得が続き、義平次の体の上で団七が体の方向
をくるっと変えて、上からググーッとトドメを刺す。
あれ?
そういえばお囃子は聞こえるのに、だんじりの灯りが見えない。
さらに本水をかぶった後、大きく震える手を膝にはさんで鞘に
おさめる団七。
その刹那、暗幕が落ち、後ろに控えていただんじり祭りの一団
が現れた! 観客がワァ~ッと沸く。
ちょうさや、ようさ。ちょうさや、ようさ。

一団が去り、義平次を沈めた泥池の上で手を合わす団七。
悪い人でも舅は親~、の台詞が重苦しく響き渡った。
花道を足がもつれそうなメチャクチャ踊りで引っ込む団七。
ふう~っ。やっぱり凄いよ、勘三郎さん。こんなことを毎日!
さっきまで劇場に溜まっていたものすごいエネルギーがお囃子
の音とともに消えてなくなった。
(ここでいったん休憩。)





休憩後の再開を告げる太鼓と笛の音。

「九郎兵衛内の場」。
殺しの現場で徳兵衛が団七の雪駄を見つけたところから始まる。
すべてをわかったうえで、せめて親殺しにならぬよう、去り状
を書かせるためにお梶とともに芝居を打つ徳兵衛。
ここは男どうしの厚い友情が前面に出る場面だ。
橋之助さんの徳兵衛は団七を裏切ることなく、どこまでも誠実
な男。体をはって団七を守ろうとする男気にほろり。

捕り物劇になってからは、今までのトーンから一変。
団七の家の屋根の上から、ミニチュアセットの大坂の町へ。
派手な立ち回りで見せ場の連続。
動きも激しいし、とにかく見ていて楽しい。
中村屋さんの若手の役者さんたち、とにかくすごい運動量!

気がつけば、舞台はもちろん、客席の1階や2階のあちこちに
も御用提灯が~♪
八方ふさがり、絶体絶命の団七と徳兵衛。

ついに舞台の後ろが開いたっ!
ワア~ッと一斉に観客の声がもれる。
太鼓橋の向こうにライトアップした大阪城が大きく見えている。
二人はいったん舞台の前まで走り出たかと思うと、踵を返して
団七、続いて徳兵衛が、一目散にお城に向かって走り出す。
太鼓橋を渡ったかと思うと・・・!!!
「?」
その幕切れの瞬間に再び観客、一斉に「アアーーーッ!」。
そこで終わりなのか! す、すご~い。ナンチュウコッチャ。
映画「バーディー」のあの一瞬のような。
昔の一連のニューシネマのラストのような。
(どちらも古すぎてすんませーん!)
幕切れのビジュアルの残像がいまもクッキリ♪

海外公演では警官の登場が何かと話題になってきた演目だけれ
ど、私は今回見た<逃亡>バージョンが圧倒的に好き♪
それは文楽の「夏祭浪花鑑」のオチを踏襲しているから。




照明がつくと、もうそこに勘三郎さんと橋之助さんがすわって
おられビックリ、またもや歓声が。
まったくどこまでも尽きないサプライズ。最後に高揚感と一体
感が味わえる本当にエンターテインメントな終わり方だった。
この日は大阪府知事も観劇されていて、勘三郎さんから紹介が
あった。また、笹野さんと彌十郎のお二人をのぞいて、来年9月
にまた新歌舞伎座に戻ってきます、とも仰っていた。

面白かった~! ああ、楽しかった~♪
みんなといっしょに、気分が盛り上がったまま小屋を後にした。

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