星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

ロープ  □観劇メモ(2)

2006-12-31 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)

(1)からの続き。全面的にネタバレです。

観劇メモ(1)で
面白い、とか、感動、とか、そういう言葉は今回、私は浮かんでこない。
と書いた。
もっと違う言葉が見つかればいいのにと探していたのだけれど、やっぱりあの
「びしょびしょ」に尽きる。
無力感のなかでたどりつく、何か愛おしいもの。まごころ。たましい。
この作品から、ノブナガといっしょに受け取ったものがそれだったように思う。
終演後に流れるギルバート・オサリバンの「ALONE AGAIN」を聞きながら無力感
に浸るのも、わるいことじゃないよね。
そこからまたスタートすればいいんだから。

<キーワードから感じたこと、連想したこと>
●ロープ
ロープの中で起きた出来事は傷害事件には問いません」とレスラーにいう、入
国管理局のボラ。
戦場の鉄条網のなかにいる限りは、なかったことにする。だが、戦場から逃げ
た者は人殺しだ! 追えっ!」とタマシイの父に叫ぶボラ。
舞台の序盤でプロレスにおけるロープの使い方を見せるシーンが楽しかったの
だけれど、落とし込みはこういうことだった。戦場という、目に見えないロープ
の内側にいる限り、人殺しとはたしかに言わないよなあ。

●コロボックル
タマシイは自分がコロボックルであると、父から聞いて育った。
現実にはそれは違っていたけれど、人目を避けて暮らす人たちと、蕗の葉の下で暮
らす小人伝説を結びつけたところが独特。
入国管理局とか、偽装結婚などの言葉も頻繁に出てくる。
不法滞在など、なんらかの事情で自分の存在を隠しながら生きなければならない
人々が身近にいることを思い起こさせる言葉。
(TVクルーの3人が偽「コロボックル」を語るときの仕草はカワイかったけれど。)

●覆面
覆面レスラーの暴走のシーン。
覆面を被れば誰かはわからない、というような台詞があったと思う。
これは人を殺す側が自分が誰だかバレずに殺れる、という意味でもあるし、殺そう
としている相手の顔がわからなければ痛みもわからず、罪の意識も感じない、とい
う意味でもある。
実際のプロレスでは知らない者どうしがマッチメイクされることはないけれど、
最近の戦争では、お互いの顔が見えない状況のほうが多いのではと思う。

●擬音
漫画もプロレスも同じものだと気がついた、というノブナガの言葉。いくら血を
流しても、どんなに痛くても、観客には「タラリーン」としか聞こえない。
(そのほかの擬音も背景のテロップで流される。)
これとの対比なんだろうか。
タマシイの父がベトナムで女から赤ん坊を受け取るシーン。
「まるで海から上がってきたばかりの、海藻がついたままのようなびしょびしょで、
けれど温かく、限りなくやわらかいものをつかみとった。」
この台詞、なんて美しいんだろう!
その後も何度か繰り返される「びしょびしょ」。
同じ擬音でもリアリティを感じる響きがある。

●無数のベトナム人たち
実況を聞きながら、機銃音やエリコプターの音と振動のなかにいると、まるで現場
にいるような感じ。リアルに具体的に現場を見せるのではない分かえって恐さがある。
ここはリングではなくベトナムだと思わせるのが、この人たちの存在。
野田さんの舞台ではこういう登場のさせ方は珍しいのでは、と思う。

<キャストについて>
●藤原竜也さん
若くて、青年の純情を体現できて、繊細で。
今回、引きこもり(ノブナガ)=隠れて暮らす人(タマシイの父)、の2人の役割を
演じるのにピッタリの役者さんだと思った。
クセのある引きこもりのプロレスラー役の、ちょっとひねくれた感じがいい。
ベトナムの戦場で「俺たちは勇士だ」と雄叫びをあげるシーン。
「俺たちは勇士か?」に変わった瞬間の表情が忘れられない。弱々しい声でその言葉
を発し、焦点の狂った目でしばらく空を見つめていた。
戦場から逃げるときの声にならない、次第にゆがんでゆく表情も印象に残っている。
ラスト。
「君からうけとったびしょびしょになったタマシイを、ほら、あれからここに抱いた
ままだ」両手の中のタマシイを確かめる時のいかにも大事なものを慈しむような仕草。
ノブナガとタマシイの父が見せるその表情と台詞に何度も涙が出た。
今年見た藤原竜也さんの役の中ではこれが一番好き。

●宮沢りえさん
リアリティのない存在感がかわいらしくて、清々しい印象もある。
この作品の最大の見せ場といえる長台詞の実況中継が、なんといってもスゴイ。
声もそうだけど、神経が持つのだろうかと心配になるほど過酷な役。
言っている言葉はふつうなら口にするのも憚られるようなことばかりなのだ。
(ヒンデンブルグ号の事故を伝えたアナウンサーのように)泣き叫びながらしゃべる
こともできるのに、あえて抑制し、事実を伝えることに徹しているように見える。
リアルに現場を見せない演出なので、観客はタマシイの声だけが頼り。
(なんと、私は何度も想像するのを止めようとした。辛かったから。)
タマシイの台詞で好きなのは、実況中継が終わったあとノブナガに向かって言う言葉。
「いいよ、それでも」と何度もいうところ。
あの激しい実況の後で、その言い方がすご~く優しくて心にしみてくる感じ。
タマシイの台詞の中から作品の核になる言葉を書きとめておこうと思う。
「あったことをなかったことにしてはいけない」。
「人はいつも、取り返しのつかない力を使った後で、無力という力に気づく」。


ふぅ~。
ここまでで、ひとまずアップします。だって、今日は大晦日。
大好きな役者さんたちがいっぱい出演していた舞台なので、他のキャストについての
感想は後日追記する予定♪ なんと2年越しの感想アップ(笑)。
(※2007年3月現在、他のキャストについての感想は未アップです。)


NODA MAP「ロープ」観劇メモ(1)(このブログ内の関連記事)
ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?(このブログ内の関連記事)

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ロープ  □観劇メモ(1) | トップ | 2007年が明けました! »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
もう一度・・・観たい。 (ムンパリ)
2007-01-02 01:11:14
麗さん、今年もイロイロ楽しみましょうね!
私もプロレスの話だと思ってたので、最初にミスター高橋さんの「流血の魔術 最強の演技―すべてのプロレスはショーである 」
という本を読んでみたんですよ(笑)。
おかげで舞台の前半戦がけっこう楽しめたんですけどね。

しかし、ベトナムのことを言うのにプロレスを入り口にする野田さんの頭の中ってどうなってるんでしょうね!
あの惨劇の描写、私も辛かったです。
今回は野田さんにしてはストレートすぎるなあと思ってたんだけど、ブログの感想をまとめているうちに、やっぱり野田さんらしい! この作品好きだわ~、って思えてきました。
もう観られないので、2回目はコロボックルとなって麗さんにくっついていきます。ヨロシクね(笑)。
返信する
さすがっ! ()
2007-01-02 00:01:53
ムンパリさんの感想、感心しながら読ませて貰いました。
毎度のことながら、すごいです。
うんうん!そうそう!と細かいところまで思い出せて貰いました。
しかしこの芝居は、すごい!
前半のプロレスの話から、後半のベトナム戦争の話にリンクしていくあたり、
さすがと思いながらも、直接的な言葉の実況には、
ちょっと耳をふさぎたくなりました。
どうしても惨劇の様子がリアルに思い浮かんでしまって、、、。

どうにかしてもう一度、チケット取って観に行きたいと思います。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

観劇メモ(演劇・ダンス系)」カテゴリの最新記事