16.引きこもりな老画家
リストにあげた3人にはおらず、意気消沈して自室に戻ろうとするアメリに話しかけてきたのはガラスの手の老画家でした。
レイモン:
「プルドトーじゃない。プルトドーだよ」
「ひどい顔だ。シナモン入りの熱いワインを飲ましてあげるよ、おいで。」
ヴァン・ショー・・・
ヴァンは(VIN=ワイン)ショーは(CHAUD=ホット)という意味合いを持つ、HOTサングリアの”ヴァンショー”。つまりホットワインのこと。柑橘系の果物やスパイス
を入れて煮詰めたもの。
アメリ:「ここに来て5年だけど初めて顔を見たわ」
レイモン:
「わしは絶対に外に出んし、会う人間は自分で選びたいからね」
「ろくな人間がいない」
人との付き合い方は人それぞれですが、幼い頃、若い頃人間関係で苦労をした人は傷つきやすかったり、そもそも人は悪人だと信じて生きています。
人の性格や行動が病気かどうかというのは、「日常生活に著しく影響が出ているかどうか」です。
生活への支障と心の平静の兼ね合いだと思います。
心の安寧を選ぶか、好奇心や刺激を好むかの生き方や気質によって色々とあっていいと思います。
その人の個性として尊重したり、受け入れることが気分や感情に振り回されないで生きる良い方法だと思います。
レイモン:
「さあ、入って」
「わしは ”ガラス男” と呼ばれてる」
「本名はレイモン・デュファイエルだ」
アメリ:「アメリよ、仕事は...」
レイモン:
「ドゥ・ムーランだろ。知ってるよ」
「今日は無駄足だったな。プルドトー捜索は失敗した」
「”ド”じゃない、”と”なんだ。トトの ”ト”」
アメリ:「ありがとう」
アメリは好きな人だと少しはにかんだ笑顔になり、とてもわかり易いです。
女性は特に表情に好き嫌いが出るように思います。
子供に愛情を伝えるためのオキシトシンというホルモンが関係しているようです。
17.ルノワールの少女
アメリ:「素敵な絵ね」
レイモン:「ルノワールの ”舟遊びの昼食” だ」
レイモンは部屋の仕切りのカーテンを開けました。
するとたくさんの ”舟遊びの昼食” が置かれてありました」
レイモン:
「年に1枚ずつ描いてる。20年前からね」
「難しいのは視線だ。ときどき皆で見つめ合ってる。わしの目を盗んでね」
アメリ:「幸せそうな顔です」
レイモン:
「ご馳走だからね。野ウサギの編み笠茸風味だ」
「子供たちにはジャムつきゴーフル」
ゴーフル
ゴーフルは、専用の型で作る凹凸模様の平たい菓子。英語でワッフル 、フランス語でゴーフル と呼ばれる。「浮き出し模様を付ける」という意味の “gaufrer” から、「ゴーフル」と呼ばれるようになった。日本では、薄焼き煎餅にクリームを挟んだ焼き菓子が「ゴーフル」「ゴーフレット」等の名前で販売されている。
レイモン:
「どこへ仕舞ったかな、あの紙切れは...」
「それは隣を映すためのビデオカメラだ。義妹からのプレゼントさ」
「隣の看板を映しておけば掛け時計がいらないだろ」
「20年描き続けていてもまだ描ききれない人物がいる」
「この水を飲む娘だ」
「絵の中心にいるのによそにいるみたいだ」
アメリ:「彼女は人と違うのよ」
レイモン:「どこが違う?」
レイモンは座っていたイスから立ち上がってアメリの意見を熱心に聞きます。
アメリ:「さあ...」
レイモン:「子供の頃、友達と遊んだことがなかったのかな。おそらく1度も」
レイモンは絵の中の少女をアメリの気持ちや境遇と同じように類推します。
驚くくらいアメリの心情を言い当てますね。
レイモン:「これをあげるよ。ドミニク・プルトドー。ムフタール街27番地。この男だよ」
18.プルトドー
ナレーション:
「毎週火曜の朝、プルトドーは市場でチキンを買いオーブンで丸焼きにする」
「まずはもも肉、胸肉を切り分け、湯気の出ている骨の間に指を入れ腰骨の肉を取って食べる」
「ところが今日はそうできなかった。なぜなら公衆電話が彼を呼び止めたから」
初老のプルトドーは恐る恐る電話を取りますが、すぐに電話は切れます。
公衆電話の電話帳置きのところにアメリは宝箱をそっと置いていました。
プルトドーはいぶかしげに箱の外観を見ます。
そして宝箱のフタを開けた瞬間、自分の幼き頃の写真を目にしたプルトドーは目に涙を浮かべました。
ナレーション:
「一瞬のうちに記憶が蘇った」
「59年のツール・ド・フランス。叔母さんのシュミーズ。特にあの人生最悪の日。級友からビー玉を勝ち取った日を...」
過去のプルトドー。
整列に遅れたプルトドーは先生に耳をつままれて怒られます。
大事なビー玉がポケットの穴からすり抜けてあたりに散乱しました。
プルトドーにとっての屈辱の記憶です。
誰にも悲しい記憶がありますね。
わたしもみんなの前でおしりのズボンが思いっきり破けたことがあります。
プルトドーは感激の気持ちを携えてバーに向かいカウンターに腰掛けます。
プルトドー:
「コニャックをくれ」
「奇跡が起こった。天使が奇跡を起こしてくれた」
「公衆電話が俺を呼んだんだ」
バーテンダー:「電子レンジがお呼びだ」
店員がプルトドーを冷やかします。
プルトドー:
「コニャックをもう一杯くれ」
「人生って不思議だな。昔は時間が永遠にあったのに気がつけば50歳」
「思い出がこんな小さな古ぼけた箱の中に...」
プルトドーは隣に座っているアメリに話しかけます。
プルトドー:
「娘さん、子供はいるかい?」
「俺にはあんたくらいの娘がいるんだ」
「もう何年も会ってない」
「孫が産まれたそうだ。男の子で名前はリュカ」
「会いに行ってやろう。自分が ”宝箱” に入る前に」
「そうでしょ?」
プルトドーは宝箱を開けて子供の頃にタイムスリップしたことで「時」のはかなさを感じたのかもしれません。
たぶん今、彼は幸せではないのでしょう。
ひとり孤独を背負っているのかもしれません。
自分の人生を高いところ、異次元のところから俯瞰した時、むなしさが込み上げてきたのかもしれません。
昔の希望に満ちた楽しかった日々と今の暮らしを比べたのかもしれません。
無くしてしまったもの、置いてきてしまったもの、捨ててしまったものを思い出したのでしょう。
そして何かしなくてはいけないと思ったのでしょう。
外界とのふれあい
ナレーション:
「アメリは突然、世界と調和がとれたと感じた」
「すべてが完璧」
「柔らかな日の光、空気の香り、街のざわめき」
「人生とは何とシンプルで優しいことだろう」
「突然、愛の衝動が体に満ち溢れた」
アメリは生まれて初めて世界と関わりをもったのだと思います。
通じ合う感覚を得たのだと思います。
アメリは盲目の老人が通りを渡るのを寄り添って歩いてあげます。
アメリ:
「道案内をするわ。車道を降りてさあ、出発よ」
「ご主人の制服を着た楽隊員の未亡人」
「ほら舗道よ。気をつけて」
「看板の馬には耳がないわ」
「花屋のご主人の笑い声、笑うと目にシワができるのよ」
「お菓子屋の店先に飴細工があるわ」
「この匂いわかる?果物屋さんがメロンの試食をおこなってるわ」
「美味しそうなアイスクリーム。惣菜屋さんの前よ」
「ハム79フラン、ベーコン45フラン、チーズはアルデーシュ産が12フラン90」
「赤ちゃんが犬を見てる。犬がチキンを見てる」
「新聞売り場に着いたわ。地下鉄の駅よ。ここでお別れ。さよなら」
アメリは楽しそうに階段を駆け上がり、盲目の老人はキラキラと光りました。
アメリはプルトドーの役に立てたことで多幸感が心に生まれたのですね。
そしてその幸せをもっと分けてあげたいと感じました。
アドラーの言う『共同体感覚』です。
アメリが言うようにプルトドーとの精神的つながりが世界との調和として感じることができた。
人は何かを与えることで幸せを得ることができる動物です。
それは人とのつながりを持てたからです。
その時、私たちの体には「オキシトシン」というホルモンが生成されます。
これが「つながりの幸せ」をもたらす幸せの物質です。
気づくことだけで幸せを認識することができます。
幸せはあなたのすぐ近くにあるのです。
そう、あの幸せの青い鳥です。
そして自分のグラスに幸せのワインを満たすと、おせっかいにも人に分けてあげたくなります。
人の親切とは何も打算からだけではありません。
こういう性質が人の中には本能的にあるのです。
協力して厳しい生活を生き抜くための、人間の社会的な本能でしょう。
ギブ&テイクや返報性の法則などもこういった本能が習慣化や儀式化したものだと言えます。
そうしてギバー(与える人)はますます幸せ感を得るんですね。
もちろんそれが相手に良いか悪いかは別問題ですよ。
これまたアドラーの言う『課題の分離』です。
受け取った相手がどう感じるかはその人の領域です。
人の心や本能、愛着、欲求を論じる時に、善悪や倫理観はひとまず置いておくことです。
まずは自分のグラスを最初に満たすのが健康的なのです。
19.空想癖と葬式
その夜、陽気に夕食の用意をするアメリはレイモンの部屋が目に映ります。
独り寂しく夕食を食べているレイモンにアメリは心を痛めます。
それはまた自分にも跳ね返って来るのでした。
自分もまた外出を何十年もしていない老画家と同じように孤独なのだとアメリは悟ります。
アメリ:
「他人と関係を結ぶことができない」
「子どもの頃から孤独だった」
そこからアメリはダークな自己否定的な気持ちに変わってしまいます。
その気分がイメージ化されて、映像に映し出されます。
暗い色調で女性が黒猫を抱いてこちらを恨めしそうに見ている絵。
TVに映る仮想のアメリの国葬。
ナレーション:
「きらめく7月の太陽が傾き、浜辺ではまだ避暑客が無邪気に水と戯れる頃、またパリでは熱気の残る夜空に花火が輝き歓声があがる頃、アメリ・プーランまたは売れ残りの女王、縁遠いマドンナが静かに息を絶えたのです」
「パリの街に悲しみが広がり、数万の無名の庶民が無言で葬列に加わり哀悼の意を表しつつ、残された者の無限の悲しみに耐えていました」
「彼女の不思議な運命。不運な人生。しかし彼女は細やかな感受性の持ち主でした」
「まるでドン・キホーテのように人類の苦難という風車に立ち向かったのです」
「負けの決まった闘いが早すぎる死を招きました」
「アメリ・プーランは23歳の若さでその短い人生を世界の困窮の中で閉じたのです」
「死してなお、彼女の心を苦しめるのは父親が息を詰まらせて死に瀕したとき、ただ手をこまねいて死に至らしめたことです」
自己嫌悪な人、抑うつ症状の人はよく自分の葬式を思い描いたり、夢に見たりします。
叶えられない願望。
空想の中でも人々に愛され悲しまれることを切に願っているのです。
父親に対しての思いやりのなさでさえ、自分に責任を感じて責めてしまいます。
自分を嫌いになりすぎて、「解離性障害」のように自分を自己から切り離してしまいたい気持ちでいっぱいです。
そうした人はついには依存症、自傷、摂食障害、果ては自死企図にまで追い込まれます。
夜、アメリは父親の家の庭にある七人の小人の1体を持ち出し、地下鉄で夜を過ごします。
父親の愛を小人から奪い取りたかったのか、または父親の自閉症を治してあげたかったのか。
20.ニノという青年
駅構内で再びアメリは以前会った青年、ニノ・カンカンポワと出くわします。
まだ面識はありません。
ニノは一人の男をアメリのそばを通り過ぎて追いかけて行きました。
途中でアメリはニノのカバンを拾います。
中にはアルバムが入っていました。
ナレーション:「証明写真のアルバム、丸めたり破ったりした失敗写真をきれいに復元し分類してあった。家族のアルバムのように」
21.恋愛談義
アメリの仕事場のカフェです。
ジーナが一人の男の客の注文を取りました。
それを見たジョゼフはジーナに言います。
ジョゼフ:「あの客とは交渉前か、それとも後?」
ジーナ:「先天的なバカね」
ジョゼフはまた録音機に記録します。
ジョゼフ:「交渉前だ」
カウンターの常連客の老人がジーナを慰めます。
老人:
「機嫌を直しなさい。今にいい男に出会える」
「女の幸せは男に抱かれて眠ることだ」
店主シュザンヌ:「でも男っていびきをかくでしょ。私、音に敏感なのよ」
老人:「わしは手術で喉を直した」
店主シュザンヌ:「あら、ロマンチストなのね」
老人:「大恋愛の経験がないらしいな」
老紳士がカフェで恋愛を語る。なんて素敵なんでしょう!
さすが、フランスですね。
店主シュザンヌ:「あるから足を悪くしたのよ」
ジーナ:「サーカスの事故かと思ったわ」
店主シュザンヌ:
「ええ、そうよ。相手は空中ブランコ乗り」
「空中ブランコは直前に手を離すけど、私も演技の直前に別れ話をしたの」
「私は動転して馬も動転し、運悪く私の上に馬が...」
老人:「ともあれ、一目惚れはあるよ」
店主シュザンヌ:
「でもこの商売を30年もやるとわかるのよ」
「一目惚れにもレシピがあるのよ」
「材料は顔見知りの二人。互いの好意を絡めてよく混ぜる。一丁あがり」
22.恋のキューピット
アメリはその言葉を聞いて、ジョゼフとジョルジェットを結びつけることを思いつきます。
ジョゼフ:「すまんが、お代わりを頼む」
アメリはコーヒーのお代わりを持っていった際、ジョゼフにささやきます。
アメリ:「誰かさんが心を痛めてるわよ」
ジョゼフ:「ジーナなら大丈夫さ」
アメリ:「ジーナじゃないわ。ジョルジェットよ」
ジョゼフ:「彼女が俺のことを?」
アメリ:
「自分に気づいて欲しいのにあなたはジーナばかり。可哀想に」
「あなたの関心を惹こうと必死なのに、その目は節穴ね」
閉店後、アメリはジョルジェットにも話します。
ジョルジェット:「ジーナの今の彼氏、あの録音機の変人よりきっとマシな男ね」
アメリ:「ジョゼフなら変人じゃないわ。悩みが深いのよ」
ジョルジェット:「でも2ヶ月も前に別れたのにまだ毎日通ってくるのよ」
アメリ:「その理由をあなたが知らないはずないわ」
ジョルジェット:「理由?」
アメリ:「いつもこの席よね」
ジョルジェット:「ええ」
アメリ:
「座って。座ってみて」
「何が見える?」
ジョルジェット:「煙草売り場よ」
アメリ:「何が足りないかわかる?」
ジョルジェット:「何も」
アメリ:「よく見て」
ジョルジェット:「何も見えないわ」
アメリ:「よく考えといて。おやすみ」
アメリはあなたの姿よと言いたかったのですね。
23.アメリの悲観
アメリはプルトドーの件以来レイモンと仲良くなり、彼の部屋を訪れます。
アメリとレイモンはニノの残したアルバムを眺め、思いをめぐらしました。
アメリ:「ここにもいるわ」
レイモン:「確かに変だな」
アメリ:「ここにも」
レイモン:「同じ男だ。リヨン駅だね」
アメリ:「ここにも。オーステルリッツ駅ね」
レイモン:「顔もまったく同じだ。無表情だ」
アメリ:「全部で12枚よ。数えたの。定期的にあちこちで写真を撮ってすぐに捨てるなんて」
レイモン:「ちゃんと撮れた写真を捨てている」
アメリ:「何かの儀式かな?」
レイモン:「何かに取り憑かれているな。例えば老いることの恐怖とか」
アメリ:「死だわ」
レイモン:「死?」
アメリ:「死んで忘れ去られること。それで自分の顔をこの世に送ったのよ。あの世からのFAXなのよ」
レイモン:「死んだ人間が忘れられたくない...。絵の中の彼らは勝利者だ。彼らは大昔に死んだが絶対に忘れ去られることはない」
レイモンの絵の人物に対する意見は面白いですね。
家族の写真や遺影を絵で飾るのも温もりがあっていいアイデアかもしれませんね。
アメリ:「あの絵の水を飲む娘だけど、誰かのことを想ってるんじゃない?」
レイモン:「絵の中の誰か?」
アメリ:「いいえ。街のどこかで出会った人で同じ匂いを持った人を想っている」
レイモン:「つまり、今そこにいない人間との関係を想像する方がよくて、今いる人間との関係はどうでもいいということかな?」
アメリ:「逆に他人の人生を軌道修正してるのかもしれない」
レイモンの鋭い指摘ですね。
でもアメリは ”同じ匂いを持った人” との関わりが増えています。
世界とつながりはじめているのですね。
レイモンはアメリが自分のことを言っていると見抜き、さり気なくアドバイスを贈ります。
レイモン:「だが彼女、自分の人生の軌道修正はやってるのかな?」
アメリ:「少なくとも ”ドワーフ” でなくて人間を相手にしているわ」
映画や絵画、あらゆる芸術作品は自分を写す鏡だと思います。
自動証明写真機に写る男の気持ちを類推するアメリは次第に自分をその男に『投影』『外化』します。
投影・・・
心理学における投影とは、自己のとある衝動や資質を認めたくないとき、自分自身を守るためそれを認める代わりに、他の人間にその悪い面を押し付けてしまうような心の働きをいう。
外化・・・
外化とは自分の中にある問題を外にある他人や状況の問題だと認識することで心を守ろうとすること。
世界とつながりたいけれど、つながる勇気を持てないアメリはこのまま自分の存在を知られずに死んでいくことを恐れています。
アメリはニノのことを想うことや近しい人を幸福にすることに世界とのつながりを感じはじめています。
ここでこの作品の主題曲が悲しみの曲調で流れてきます。
人のこれまでの生きてきた姿を転写する証明写真にアメリは自身の過去をたどり、未来を思案します。
世界の地に根を張って生きるということ、それは『自我』『アイデンティティ』『実存』を持つということです。
愛を貰いたくて、褒められたくて、そんな存在を求めて自分を否定しながら生きてきたのではないか。
衝突や傷つくことを恐れて世界を『回避』しながら生きてきたのではないか。
今まで自分を守ってきた方法ではもうこれ以上前に進めないと気づいたのではないか。
どうすればその世界と繋がることができる勇気を手にいれることができるのか。
これから自分は何をすればいいのか。
アメリはニノのアルバムを自分の末路のように恐れながらまどろみました。
TVの映像に世界とのつながりを表すような映像が流れます。
ツール・ド・フランスの先頭が三角形の頂点となす美しい自転車の群れ。
小魚の群れのように光り輝いています。
そこに一頭の馬が颯爽と走り駆けていきます。
馬独特の飛び跳ねるような走りに純真な希望を感じます。
24.不快
食料品店主のコリニョンがまたリュシアンをいじめています。
コリニョン:
「とっておきの話がある」
「リュシアンの奴、警察のネズミ捕りに引っかかった。そうだな?」
コリニョンはリュシアンの後頭部を小突きました。
客の夫人:「でもコリニョンさん、彼の責任ではないわ...」
コリニョン:
「確かに奴の責任じゃないよ、マダム。ダイアナ妃のせいなんだ」
「運転席に何があったと思います?」
「女性下着のカタログでモデルの顔がダイアナ妃になってた」
コリニョンはアメリに注文を尋ねますが、アメリはリュシアンをいじめるコリニョンへの嫌悪感でいっぱいです。
アメリはコリニョンを睨みつけて、その場を立ち去ります。
アメリ:「結構よ」
25.イポリトの人生観
通りの売店の馴染の店員がジョルジェットに声をかけます。
売店の店員:「今朝はすごく顔色がいいわ。愛のない女は太陽のない花。すぐに枯れるわ」
愛は生きるために必要な養分なんですね!
女性の活き活きした表情を思い浮かべると、思わず納得ですね。
カフェで常連の売れない小説家イポリトがしゃべっています。
アメリ:「それであなたの書いたお話って恋愛小説なの?」
売れない小説家:「いや、日記を書く男の話だ。起こったことじゃなく起こりそうな災難を書くんだ。それで憂鬱になり何もできない」
ジーナ:「つまり何もしない人ね」
考えるだけで行動できない人というのはこういった人のことです。
頭の中だけでグルグルと思考が廻っているのですね。
行動すること。それは新世界へのスイッチです。
行動だけがその状況から自分を抜け出させてくれるのです。
人は臆病でどうしてもブレーキをかけてしまう。
危険予知は身を守る方法なのですが、悩むだけで今のままが幸せに繋がらないことが多くあります。
アメリの策略は功を奏し、ジョゼフとジョルジェットは流し目でお互いを少しずつ意識し始めます。
26.復讐
コリニョンのリュシアンに対するいじめを許せないアメリはコリニョンの家に侵入して、手ひどいいじわるを仕掛けます。
・部屋履きのスリッパにボンドをつけて床に貼り付ける
・靴紐を切って短くする
・歯磨き粉と足用クリームを入れ替える
・ドアノブの表と裏を入れ替える
・コニャックに薬品を混ぜる
・目覚まし時計の時間を遅らせる
そんなアメリの行動を自室の窓からレイモンはじっと見ています。
父親との食事の場面ですが、相変わらず自分のことにしか関心がない父親です。
アメリは友人のCAに父親のドワーフを預けて、海外から小人の写真を父に送ってもらうといういたずらをずっと続けていました。
アメリ:「庭のドワーフはどこ?物置に仕舞ったの?」
父親:「モスクワさ、ご覧。何も書いてない」
アメリにモスクワで撮られた小人の写真を見せます。
アメリ:「旅がしたくなったのかも」
父親:「わからん。訳がわからん」
27.ニノからの行動
ニノは駅の掲示板になくしたカバンを見つけるための掲示を張り出していました。
アメリはその掲示を読みます。
ナレーション:
「普通の娘ならすぐ電話するだろう。テラスで待ち合わせて相手をよく吟味する」
「まさに現実との対決。アメリはそれが苦手だった」
部屋の絵画にエリザベスカラーをした犬と白い鳥が描かれています。
空想の中でこれらがおしゃべりをします。
絵の中の鳥:「アメリは恋をしてるのかな?」
28.リュシアン
アメリのいたずらが成功して、コリニョンは不可思議な出来事に遭遇したショックで仕事を休んでしまいます。
リュシアンは一人で悠々と仕事をします。
客の女性:「ご主人は?」
リュシアン:「カリフラワーの中。そこで寝てるんです」
ジョゼフとジョルジェットはいっしょにスクラッチをして仲を深めていきます。
リュシアンはレイモンのところに配達にやってきました。
リュシアン:「こんにちは、レイモンさん」
レイモン:「リュシアンか」
リュシアン:「注文の品です」
レイモン:「何だ、アーティチョークは嫌いだ」
リュシアン:
「違いますよ、よく見て下さい」
「葉を取って見て下さい。ジャラーン!」
葉を取るとキャビアの瓶詰めがありました!
アーティチョーク・・・
アーティチョークは、キク科チョウセンアザミ属の多年草。和名はチョウセンアザミ。形態的には大型アザミである。若いつぼみを食用とするヨーロッパの春野菜。地中海沿岸原産。
リュシアンはとても嬉しそうです。
ツナの缶詰に似せたフォアグラの缶詰
そしてサラダ油に似せたワイン。
レイモン:「お前は魔法使いだよ」
リュシアン:「ムッシュのおごりです」
レイモン:「何?ムッシュ・コリニョン?」
ムッシュ・・・
ムッシュ(フランス語)は、中世フランス語において閣下を意味する語で、現在は(爵位など高い位を持たない)全ての男性への敬称として使われる。 ムッシューと表記されることもある。
レイモン:「その言い方はダメだぞ」
リュシアン:「すいません、ついうっかりと」
レイモン:
「練習してみろ!さあ!練習しろ」
「まず、わしが先に言う」
「コリニョンはマヌケ」
リュシアンは恐る恐るレイモンのあとを繰り返します。
リュシアン:「コリニョンはマヌケ」
レイモン:「次はお前だけだ。コリニョンは?」
リュシアン:「コリニョンはアホ」
リュシアンは少し楽しくなって笑顔になります。
レイモン:「言えたじゃないか。次は何だ?」
リュシアン:「コリニョンはトンマ」
レイモン:
「トンマか、よく出来た」
「コリニョンは?」
リュシアン:「コリニョンはアホ、コリニョンはトンマ、コリニョンはアホ...」
リュシアンは興奮しすぎて悪口が止まらなくなり、レイモンは必死に止めます。
レイモン:「リュシアン、もう十分だ。今日はこの辺にしよう」
レイモンは気が弱く言い返せないリュシアンに勇気を与えます。
言い返す(ファイトバック)というのは現状を変えるためにはとても大事なことですね。
雇われであり、頭も少し弱いのを気にしてか、勇気の出ないリュシアン。
身近で辛く生きていることを黙って見ていられない、良い人たちばかりですね。
世界とつながるとは、自分の身近なことに関わることから始まると思います。
29.集められた幸せシーン
リュシアン:「そうだ、忘れてた。この小包がドアにありました」
レイモンが小包を開けると一本のビデオテープが入っていました。
そこにはTVから録画したたくさんの映像シーンが写っていました。
先程のツール・ド・フランスのシーン。
自転車が三角形にきれいに連なり、小魚の群れのように形が変化します。
世界との一体感を伝えているのでしょうか。
次はサーカス。
男が後転し続ける間、犬がずっと男の背中にちょこんと乗っています。
これも人と動物との繋がり、そして陽気さを忘れてはいけないと伝えているのですね。
次はゴスペルの集団の手拍子に合わせて、黒人の女性が陽気にエレキギターを弾いています。
黒人たちだけというのが、彼女たちが背負ってきているものを想像させます。
それでも賛美歌を歌う彼女たちの強さ。
人の尊厳に胸を打たれます。
どれも楽しく、見ていて胸が爽やかになるような、それでいて温かみのある映像です。
アメリからの贈り物ですね。
これがアメリの世界との関わり方です。
身近な好きな人達を喜ばせてあげたいという優しい気持ちが出た行動です。
寂しく暮らしている人たちに小さな温かなプレゼントを贈り続けます。
世の中には目を凝らせば、楽しい出来事がたくさん拾えます。
何気ない『気づきの幸せ』
人との寄り添いに気づくだけで得られる幸せがたくさんあります。
「視点を変えてみたら楽しいこといっぱいあるよ」というメッセージですね。
30.恋の炎
カフェの場面です。
ジョゼフとジョルジェットは急接近します。
ジョゼフ:
「ちょっと、失礼するよ」
「胸元に何かついてる」
ジョゼフはジョルジェットの胸元に手を伸ばします。
ジョルジェットは緊張しながらもジョゼフの腕が触りやすいように身体を寄せました。
ジョゼフ:「すごくきれいだ。顔が赤くなってて。野の花みたいだ」
ジョルジェット:「これ、アレルギーなの」
ジョゼフは化粧室に入りました。
それを見ていたアメリはふとひらめき画策します。
アメリはジョルジェットにわざと当たってコーヒーを彼女の服の上にこぼします。
ジョルジェット:
「ひどいわ。やってくれたわね」
「もう!百発百中ね。最低!」
ジョルジェットは大袈裟に皆に聞こえるように叫び、化粧室に行く口実を作りました。
ジョゼフとジョルジェットは密室の中で二人きり。
二人は激しく抱き合い求めあいました。
店中のカップが振動するほど。
アメリは思わずエスプレッソマシンの空気抜きをして ”騒音” をごまかします。
アメリによってついに二人は結ばれます。
愛を繋ぐ行為がアメリがめざす世界との関わりです。
アメリはレイモンを訪ねます。
レイモン:「この前話した水を飲む娘のことだが、出会った青年に娘は再会できたのか?」
アメリ:「いいえ、二人の世界が違ってて」
レイモン:
「チャンスとは自転車レースだ。待ち時間は長く、たちまち終わる」
「チャンスがきたら思い切って飛び込まないと」
人生の時間は少ないことを教えてくれる素敵なセリフですね。
この短さを歯医者にいる患者に例えてる人もいます。
あれだけ痛みについて心配したのに、終わるのはあっという間だと。
~PART③ へ続く~
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます