「美味しんぼ」福島の真実変に寄せられたご批判とご意見
週刊BIG COMIC スピリッツ 2014年5月19日
肥田舜太郎氏 医師
私は、原爆投下後の広島で被ばく者の治療に当たり、内部被ばくを研究してきた医師として、震災後に日本各地から講演の依頼がありました。そして全国を訪ね歩いたのですが、行く先々でこんな相談を受けたんです。
「あまり人には言えないけれど、実はうちの子は鼻血が出て困りました。大丈夫でしょうか」と。
鼻血のほか、下痢の症状を訴える人もいました。事故を起こした福島第一原発の放射性物質はアメリカやイギリスにまで拡散したのですから、狭い日本の隅々まで被害が及んでいてもおかしくありません。
また、昔の私の実体験として、「ぶらぶら病」と呼ばれる症状に苦しむ人々を多く診てきました。だるくて非常に疲れやすいという症状ですが、この患者の共通点は、原爆が投下された後に広島へ入ったということ。
つまり、残留した放射能の影響を受けて、内部被ばくしたことによる影響であろうと確信しています。
鼻血や下痢、疲労感には、放射線の影響が考えられます。
作中では、放射線による人体への影響について松井英介さんが見解を述べていますが、
この分野では、「ペトカウ理論」という学説があります。
放射線で細胞膜が破壊できるのかを実験した、カナダのアブラハム・ペトカウという学者の説です。
ペトカウは、高線量の放射線を短時間放射するよりも、低線量で時間をかけてゆっくりと放射したほうが細胞膜を破壊する率が確実に上がることを実験で証明しました。1972年の事です。
しかし、低線量による内部被ばくを隠したいアメリカにとっては不利な学説だったため、アメリカはカナダ政府を巻き込んで、ペトカウの学説はインチキだという宣伝をしまくり弾圧してしまったのです。
ですから、ペトカウの事は、ごく一部の専門家しか知らないでしょうし、一般には名前も知られていないでしょう。
ごく微量でも、放射線を浴びれば誰でも被ばくをしますが、被ばくによって受ける影響には個人差があります。
私は原爆投下後の広島で、同じ場所で親しい高校生二人が並んで外部被ばくし、片方は3日後に亡くなったが、もう一人は8年以上生きた、というような例をいくつも診てきました。
ましてや、内部被ばくの影響は、その人の持っている生命構造のほんのわずかな差で現れ方が違ってくる。
ですから、外部被ばくでも内部被ばくでも、何ベクレルまでなら大丈夫、という様な基準は絶対にないのです。
放射能とは無縁に生きるのが人類の鉄則だと思いますが、今は対応のしようがない。
しかし、ある程度以上の放射線量が計測される所に住んでいる方は、少なくとも放射線の影響を受けやすい子どもだけでも、強制疎開するべき。今からでも遅くないからやるべきだと私は思います。
なかには、今のチェルノブイリの基準であれば住んではいけない線量の場所で過ごしている子どももいるはずで心配です。
今の医学ではまだ、放射線による人体への影響を解明しきれていません。
しかし、解析が進めば明らかになるだろうという意味を含めて、鼻血などの症状を訴える人がいるという事実は報道するべきだと思います。
私は古い人間ですから漫画はなじめませんが、沢山の人に何かを伝えるためには有効な媒体でしょう。
ただ、放射線による人体への影響のような専門的な事を、短いセリフと絵で伝えてしまうと、基本的な知識のない読者は自分の好きに判断してしまいかねません。
この漫画を通じて得た先入観を持ったまま、放射線とはこういうものだと自分で決めてしまいそれ以上の事を追求しようとしないわけです。
ですから、人間の命に関係するものを出版される以上は、読者がその奥へ迫れるようなものを重ねて出版すべきだと思います。
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