かもうな
養子縁組 第二之巻
治郎の父佐藤長十郎は決して金銭を求めるようなことはしなかった。
むしろ愛おしそうに治郎の頭を撫でながら
「この子は親に似ず利発者です。それに珍しく「利他の心」を持ち合
わせております。貴方様のご教育次第では海にも山にもなると思いま
す。どうぞ末永く可愛がって下さるようお願い申しあげます。」
長十郎と妻お美代は膝の両手を震わせながら泣くまいと必死に耐えて
いる。
時右衛門が支度金として用意してきた金子百両を差し出すと
「これでも武士でござる。金子を頂きましては息子を売ることになり
申す。今回は大恩ある宍戸さまのお声掛かりでかくなる仕儀となり申
したが」
声が続かない。
時右衛門夫婦も改めて畏まり
「必ずや貴方さまのお子を幸せに致します。仙台に御用の折は是非お
立ち寄り下さい。」
「いや 治郎とは親の縁を切ったも同然、これが最後の親としての務
めで御座る。親とは寂しいもので御座いますなぁ」
もう時右衛門は云うべき言葉が出てこない。
・・・続く・・・
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