最近はあまり見られないが、少し前までは夏になるとТV時代劇で怪談を放送していた。かなり前だが、民放の時代劇での牡丹灯籠を見た覚えがある。先日、行きつけの図書館に「ホラーセレクション(1)牡丹灯籠」(ポプラ社)があったので借りてきた。出版社では内容をこう紹介している。―浅井了意「牡丹の灯籠」、五代目・古今亭志ん生「牡丹灯籠~お札はがし」、岡本綺堂「随筆」、「怪談 牡丹燈記」、さねとうあきら「四谷怪 . . . 本文を読む
その一の続き 行政はもちろん司法でも汚職・腐敗が蔓延るインドだが、この作品にもそんな話が出てくる。5百年にひとりと言われる美声で神の賛歌を歌う少年と、その教師の物語は悲劇そのものだった。金持ちの有力者の前で歌った美声の主の少年は、有力者により喉をかき切られ殺されてしまう。金持ちの動機は不可解だが、元高級官僚が保養所に来て親しくなったムスリムの賢者はこう述べる。「人はなぜ崇拝の対象を盗むのかね。自分 . . . 本文を読む
インドに無関心の人でもガンジス川の名だけは知っているだろう。近年は水質汚染が問題になっているが、依然として聖なる川であり、敬虔なヒンドゥー教徒はこぞって沐浴を続けている。 しかし聖河はガンジスだけではない。インドには五大聖河とされる河があり、そのひとつナルマダ川をテーマとした小説『リバー・スートラ』(ギータ・メータ著、ランダムハウス講談社文庫)を先日読了した。以下は裏表紙での作品紹介。
―イン . . . 本文を読む
その一、その二、その三、その四の続き ファリンの学校では「ルーミーの日」があった。文字通りイスラム神秘主義者として名高いルーミーの詩を、体育館のステージで朗読する行事である。学校では理科系の科目に力を入れ、生徒たちが薬学の道に進むことが期待されていたが、コブラ校長は新入生の保護者に常にこう言っていた。「いくら知識を仕入れても、文化に対する正しい理解なくしては、人は半人前にしかなれません。ですから、 . . . 本文を読む
その一、その二、その三の続き パーレビ国王は新欧米路線をとっており、イランの上流階級の間では西欧風のライフスタイルがもてはやされていた。テヘランの富裕層の女性にはチャドルは時代遅れのものとされ、若い男女が街でデートができたほど。 しかし、革命ですべてがひっくり返る。ホメイニの言葉を借りればチャドルを被らないのは「裸の女」に過ぎず、娼婦同然と見なされるばかりか逮捕対象になった。革命以前に街に溢れてい . . . 本文を読む
その一、その二の続き イラン・イラク戦争でイランは、百万人もの犠牲者が出たと云われる。戦場の兵士はもちろん、度重なる空爆のために首都テヘランでも多数の民間人が亡くなっており、身体生命は何とか無事でも家族や家屋を失った人々は大勢いる。 ファリンの通う名門女子校の生徒も空爆で幾人も死んでおり、犠牲になった生徒のために行われた追悼式は数知れない。この女子校に転校してきたサディーラも、母や兄たち、祖父母は . . . 本文を読む
その一の続き ファリンの母は名門の出だった。母の父親はパフラヴィー朝だった頃は国王に重んじられた将軍で、王族と同じ待遇を受けていたほど。しかし革命の機運が高まってくると、身の危険を感じた将軍は妻と共に国外に逃げた。 実際に王朝時代に軍の幹部に就いていた軍人たちの多くは、イラン革命後に粛清されている。そのすきを狙い、イランに侵攻を仕掛けたのが隣国イラクのサダム・フセイン。これが8年に及ぶイラン・イラ . . . 本文を読む
『九時の月』(デボラ・エリス著、さ・え・ら書房)を先日読んだ。主人公は15歳の少女で彼女の日常を描いた作品だが、日本の同世代とは取り巻く環境のあまりの違いに言葉もない読者は多かったはず。表紙裏には本書をこう紹介している。
―15歳のファリンは、イランの首都テヘランの名門女子校に通う裕福な家の一人娘。学校では孤立し、運転手付きの車で家と学校を往復するだけの鬱屈した毎日を送っている。 だが、美しいサ . . . 本文を読む
その一の続き ジェムにとってギュルジハンは初体験の女性で、この時彼は17歳、女は33歳だった。しかもギュルジハンは既婚者である。こう書れば、いかにも奔放な年増女によって“筆おろし”した印象を受けるが、ギュルジハンはかつてジェムの父の恋人だった。そしてジェムの父も左翼活動家だったのだ。毛沢東主義者が南アジアばかりか、トルコにもいたとすれば驚く。 1度の交渉でギュルジハンはジェ . . . 本文を読む
オルハン・パムクの最新作『赤い髪の女』(早川書房)を先日読了した。ただ、本の薄さには驚いたし、近年邦訳されているパムク作品の中では短編と言ってよい枚数だった。それでもパムク小説らしく、舞台はいつも通りイスタンブル。表紙裏では本作をこう紹介している。
―ある晩、父が失踪した。少年ジェムは金を稼ぐために井戸掘りの親方に弟子入りする。厳しくも温かい親方に父の姿を重ねていたころ1人の女に出会う。移動劇 . . . 本文を読む