トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

神は妄想である その二

2015-03-04 21:39:09 | 読書/ノンフィクション

その一の続き
 ドーキンスは作家デイヴィッド・ミルズの著作『無神論者の宇宙』を挙げており、ここに描かれている米国事情は唖然とさせられる。ミルズの住む町に毎年1人のキリスト教の信仰治療師がやってきて、「奇跡の十字軍」なるものを行っていた。この信仰治療師は特に糖尿病患者にインシュリンを捨て去り、ガン患者に化学療法を止め、その代わりに奇跡を祈るよう勧める。そこでミルズは人々に警告を与えるため、平和的なデモを組織することに決めた。
 彼は警察に行き、この信仰治療師の支持者から受けそうな攻撃から保護するように要請するも、警察署では誰一人助ける者はおらず、それどころか脅しと暴言を浴びせられる。

 ミルズに初めに応対した警官は、彼が信仰治療師に反対していることを知るや、「自分は集会に参加するつもりだが、もしあんたのデモの横を通ったら、顔に唾を吐きかけてやる」という。懲りずにミルズは2人目の警官に話をしたが、この警官は、もし信仰治療師の支持者の誰かが暴力的に詰め寄ったとしても、ミルズが「神の仕事に干渉している」のだから、あんたを逮捕すると言う有様。
 帰宅したミルズは、上官レベルならもっと親身になって対応してくれるだろうという望みをかけ、警察署に電話を試みる。最終的に1人の巡査部長に繋がり、部長はこう言う。
「勝手にどうぞ。旦那。大馬鹿者の無神論者を保護したい警官なんて1人もいやしないよ。俺としちゃ、誰かがあんたをたっぷり(well ではなく good が使われている)血塗れにしてほしいところだ」 

 私はミルズの件の書は未読だし、小説のような誇張が含まれている可能性はある。ただ、米国において無神論者に対する同様の偏見の逸話は他に沢山あるようだ。ドーキンスは「グレーター・フィラデルフィア自由思想協会」のマーガレット・ダウニーの名も挙げており、彼女はそうした事例の記録をきっちり体系化し保存しているという。そうした出来事のデータベースは地域社会、学校、職場、メディア、家庭及び政府という項目ごとに区分されているが、その内容は嫌がらせ、失職、家族による忌避、さらには殺人まで含むという。
 
 一方でТV伝道師は大人気、特に米国では伝道師の懐は非課税金の総額が度を越したほどに達しているらしい。かつてオーラル・ロバーツなる伝道師はTVの視聴者に向かい、皆さんが八百万ドルを差し出してくれない限り、自分は神に殺されるだろうと語ったことがあるとか。ロバーツは非難されるどころか、それが功を奏したという。もちろん税金はなし。まさに口舌(オーラル)の伝道師である。

 海外生活が長く、アイルランドやハワイに在住したこともあるブロガー『ブルガリア研究室』さんから頂いたコメント(2009-05-21付)に、こんな話があった。
おっしゃるとおり、欧米でも村社会はあるし、コネ人事も横行している…キリスト教の宗派も重要で、どの教会・会派に所属していて、教会の福祉活動にもどの程度参加しているか、などまでが上司によってチェックされている場合もある…

 以上のことからも、米国では無神論者の人権など無きに等しいことが知れよう。日本では未だに米国人はリベラルで合理主義と思い込んでいる人が多く、キリスト教原理主義が蔓延る実態を日本のメディアはまず報じない。そもそも登場するのは何かあけば欧米諸国の人権を讃え、日本のそれを貶す輩ばかりだし、米国のお寒い人権状況を黙殺するのだ。

 イスラム圏で無神論者を自称すれば確実に身体生命の保障はないし、不信仰者と見なされても同じだが、米国もその辺ではイスラム圏とさして変わりなかったとは苦笑する。意外だったが、実は米国がキリスト教国家として建設された訳ではなかった事実が載っている。
 著者はトリポリ条約の条項を引用しており、この条約は1796年にジョージ・ワシントンのもとで起草され、翌年ジョン・アダムスが署名したものなのだ。以下はそこからの引用文だが、現代の米国の中東政策やイスラム諸国との関係をみれば、何という皮肉だろう。

アメリカ合衆国の政府はいかなる意味でもキリスト教の上に築かれたものではなく、それ自体として、イスラム教徒の法律、宗教あるいは平穏に敵対するいかなる性質も持っておらず、我が合衆国はこれまで、いかなるイスラム国家に対しても戦争ないし敵対的行動に突入したこともないがゆえに、宗教的意見の違いから生じるいかなる口実によっても、両国の間に現存する調和の途絶を生むことはないと、両当事者によって宣言される。(64頁)
その三に続く
 
◆関連記事:「キリスト教会、その信者の歴史観

よろしかったら、クリックお願いします
   にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る

21 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
アメリカのキリスト教原理主義者 (巨大虎猫)
2015-03-05 16:13:32
注意深くマスコミ報道を見ていれば、アメリカのキリスト教現地主義者のことは、日本でも報道されています。大変申し上げにくい事ですが、「自分が知らないから、みんなも知らない」とお思いではありませんか?この本に書いてあるアメリカの宗教事情は、アメリカで一般庶民に混ざって生活したことがある人なら、誰もが肌で感じたことであると思います。(日本に来ている東海岸あたりの知的エリートとしか接した経験のない人にはわからないことでしょう。)

さて、この本に出ている原理主義者(「アメリカのタリバン」)の日本版が、私とトラブルになったKGKであり福音派です。M牧師は、アメリカの原理主義の神学校に留学経験があり、筋金入りの原理主義者です。そのM牧師の前で無警戒にも、京都の博物館や美術館の仏教美術展に行った、とか、古墳の出土品の展覧会に行った、とか言ってしまった私がバカでした。彼らの宗派では、仏教美術は悪魔の創作物であり、古墳は聖書の文化圏ではない(恐竜と同様に、実は存在しなかった、とすら考える原理主義者も存在する!)から、そんなところに足を運ぶ暇があったら、教会の奉仕活動でもしろ!と言いたいのでしょう。とにかく、こんな輩が学生をしていること自体許せない事だったのでしょう。「学校やめるのが、神の御心。」という彼の暴言に繋がったのだと思います。
他にも、KGKは、私の身内の難病患者が普通の病院に行っていることを咎めました。治療をやめて神の奇蹟を祈ったらどうだ!と喚いていました。「それで治ったら、学会報告ものだ。」と言い返すと、「聖書には、祈って治った例がいくらでも出ている。聖書を否定するのか?」と絶叫。
M牧師は高級なスーツを愛用しており、追従者たちはそれを「神の恵み」と言っていました。彼らの教団は、大阪と兵庫の県境に、広大な洗脳キャンプ場を持っています。信者数の少ない教団でありながら、キャンプ場を持ち、職員たちは贅沢な生活をしているのですから、一般信者に求められる献金額は半端じゃないでしょう。
この本を通読なされば、私が言っているKGKや福音派のことは、決して誇張でも何でもないと思われるでしょう。(私は、曲がりなりにも友人付き合いしていた人たちなので、むしろ割り引いて書いたつもりです。現実は、言語を絶する強烈な基地外でなないかと思います。)
返信する
Re:アメリカのキリスト教原理主義者 (mugi)
2015-03-05 22:20:46
>巨大虎猫さん、

>>注意深くマスコミ報道を見ていれば、アメリカのキリスト教現地主義者のことは、日本でも報道されています。 

 少なくとも地元紙・河北新報やローカルニュースでは、アメリカのキリスト教原理主義者のことはあまり報じません。フランクリン・グラハムが震災を利用、伝道活動のため仙台に来た際、「国際的な支援団体」とNHK仙台では報じていたし、この件で3年前に記事にしています。これではノンクリ一般人は、宗教と無関係な「国際的な支援団体」と思うはず。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/c546df8cba22d5db42c6e27be118b4eb

 私からもハッキリ言わせて頂きますが、貴方は「自分が知っているから、皆も知っているはず」と思っている傾向がありますよ。貴方の特異な体験は元プロテスタントのクッキングホイルさんも驚いていたし、まして一般ノンクリにはキリスト教組織の事情は分らないのです。このことは何度も繰り返したはずですが、未だに大半のノンクリがキリスト教原理主義に無知・無関心なのが理解できないようですね。

 私自身、貴方やクッキングホイルさんからのコメントで、初めてキリスト教組織や信者の実態を知ったし、キリスト教に無関心の大半のノンクリならば、米国のキリスト教原理主義者の存在も知らない。貴方は注意深くキリスト教関連のマスコミ報道をチェックしているにせよ、一般ノンクリは違う。
 貴方は米国で一般庶民に混ざって生活したことがありますが、私はそれもない。マスコミで米国で一般庶民に混ざって生活した日本人を取り上げても、ローカルメディアでは宗教色はまず出しません。

 自分がキリスト教事情を熟知していても、他人も同じとは限らないことがお分かりにならないのなら、貴方の見識や人格を疑いますよ。そして申し上げにくい事ですが、貴方の論調は時に尊大で不躾。以前から貴方は私や他のコメンターさんの誤解に苛立ち、叱責することがあった。説教臭が出るのは、いかにもキリスト教徒的。
 貴方は何度もKGKとのトラブルを書いていますが、同じ内容の繰り返しはゲンナリです。KGKと揉めたのは、今では貴方自身の性格もあるとしか思えません。
返信する
仙台には河北新報以外のメディアもあるのでは? (巨大虎猫)
2015-03-05 22:45:46
mugiって河北新報しか読まないのですか?
キリスト教ファンダメンタリストの件はTimesやNewsweekの日本語版にも繰り返し繰り返し出ていますよ。お暇があったらお読み下さい。
返信する
私がブログやらない訳 (巨大虎猫)
2015-03-05 23:10:28
そう言えば、いつだかmugiさんは、私にブログやったらどうか?とおっしゃいました。(確かこの前の年末年始のこと。)私はあの時無返答だったので、秀和さんみたいにアクセス制限される前(笑)に、その答えを書いておきましょう。
研究者は、人にもよるのでしょうが、普通はブログで自分の研究中のことは書きません。作家も、構想中の作品のことは書きません。アイディアが盗まれる危険があるからです。先に発表した者が勝ちだからです。そういったトラブルに巻き込まれるのは、mugiさんがおっしゃるように、私が下劣な人間だからなのかもしれませんがね(笑)。
返信する
訂正 (巨大虎猫)
2015-03-06 07:12:43
昨晩の投稿で、雑誌の名称がTimes
となっていました。Timeの誤りです。訂正します。
他にも、アメリカ政治関連のムック本とかにも、フランクリン・グラハムの政治思想のことがよく出ています。キリスト教原理主義のこともね。
少なくとも私は、大学受験対策の課題(英字雑誌や英字新聞のコラムなど)で、アメリカのキリスト教原理主義のことはさらっと読んだし、大学に入ってからも、英語の授業のときに、先生から何度もアメリカの宗教事情のことは聞きました。キリスト教系大学ではない大学でですよ。
社会人になってからは、私は、大手商社とかに勤めた人からも色々聞いている。そして、それらのことを言ったのは、全員がノンクリなのですよ。
NHKや河北新報以外にもソースを広げれば、色々見えてくるのではないでしょうか。
返信する
Re: 私がブログやらない訳 (motton)
2015-03-06 18:55:04
ここのコメント欄で書いている長文を御自分のブログなりなんなりに書けばいいのに。

そもそも、mugiさんはキリスト教やアメリカにかなり批判的なので、基本的に巨大虎猫さんの味方なんです。偏差値80くらい。それを、100ではないからと攻撃的になるのは原理主義者です。

まずは、このブログの題名を読み返してみるとよろしいかと。
返信する
Re:仙台には河北新報以外のメディアもあるのでは? (mugi)
2015-03-06 22:19:44
>巨大虎猫氏、

 ついに「mugi」と呼び捨てですか。これだけで貴方の気質が分りましたよ。結局は他人のサイトで長々と恨み言を書き殴る、トラウマに苛まれた人だったのは残念です。

>>キリスト教ファンダメンタリストの件はTimesやNewsweekの日本語版にも繰り返し繰り返し出ていますよ。

 キリスト教ファンダメンタリストについて、私は貴方ほど関心はありません。それを知るためだけにTimeやNewsweekを購読する気はないし、購読費も無駄。大体、複数の新聞を取る一般家庭はあまりないですよ。最近では新聞を取らない家庭まである。私も家族がいなければ、河北新報など止めていたかもしれない。
返信する
Re:私がブログやらない訳 (mugi)
2015-03-06 22:22:38
>巨大虎猫氏、

 研究者や教官のブロガーもいるし、実名や顔写真を公開していることも少なくないのはご存知のはず。貴方の場合、過去のトラブルから匿名のほうがよいにせよ、身元を確認できない話題なら問題ないのでは?キリスト教ファンダメンタリストに疎いノンクリのブログに書き綴るより、遥かにいいと思います。
 研究者や作家でない私でも、彼らが構想中の作品について書かないことくらい分ります。しかし、それとは無関係なテーマなら、いくらでも書くことはあるはず。ブログやらない訳としては奇妙。

>>mugiさんがおっしゃるように、私が下劣な人間だからなのかもしれませんがね(笑)。

 貴方の口真似をしますが、「私の書いたことをよく読んで下さい。貴方が下劣な人間だからとは、どこにも書いていません」。論調は時に尊大で不躾、説教臭が出る、とは言いましたが、「下劣な人間」は完全に貴方の被害妄想。
 秀和こと醜矮については下司と言ったし、今でもそう思っています。偉そうに方々でエコや道徳を説きながら、キリスト教系ブログのアラシに興じるアル中、差別主義者のネットジャンキーだから。あと、今ではアクセス制限していません。アクセス制限しても、アラシは幾つもgoo ID を取って書込むため。

 KGKと同じく貴方も、米国のキリスト教ファンダメンタリストをよく知らない一般日本人や私を、白痴同然の無知と感じているのでしょうね。だから上から目線の論調になるのやら。
返信する
Re:訂正 (mugi)
2015-03-06 22:26:03
>巨大虎猫氏、

 繰り返しになりますが、自分が関心があっても他人が同じとは限らないことが分らないのですか?ブログのプロフィールにも書いてますが、「読書(主に歴史もの、インド・中東史に関心あり)、映画…が趣味のマイナー嗜好の歴女です」。ブログにも何度か書きましたが、私の関心は専らインド・中東だし、欧米は特に関心がない。私がTimeやNewsweekの日本語版を見たとしても、インド・中東情勢を真っ先に読むでしょう。そんな私だから、ブログタイトルをトーキング・マイノリティにしました。

 米国で一般庶民に混ざって生活したことがある貴方が米国に関心を持ち、類は友をよぶから周囲もアメリカの宗教情報に関心を示すのは当然です。ノンクリの大手商社マンも事情は同じ。貴方は自分の周囲を一般化して論じている。
 もちろん私も周囲を例にして述べました。私の知人や友人に米国のキリスト教ファンダメンタリストに関心を持つ人はいないし、この話を持ち出せば、ドン引きされます。貴方の周囲と私の周囲、どちらが平均的ノンクリ日本人に近いと思います?

 確かに貴方の言うように、NHKや河北新報以外にもソースを広げれば色々見えてくる。だからネットをしています。ただ、ネットばかりしている時間はありません。読書もしたいし、他にすることがある。
返信する
Re:Re:私がブログやらない訳 (mugi)
2015-03-06 22:28:45
>motton さん、

 コメントを有難うございました!過去にKGKから様々迫害された巨大虎猫氏が恨みつらみになるのは分らなくもないですが、「とばっちり」には閉口させられました。過去は変えられないにせよ、それにどう向かい合うのかは彼自身の問題です。
返信する