SF好きでもない限り、エドガー・ライス・バローズと聞いてもピンとこない日本人が多いだろう。“ターザン”の原作者と言っても、原作を読んだ人もそれほど多いとは思えない。バローズはターザンの他にも数多くの小説を書いており、中でも火星を舞台にした火星シリーズは彼の代表作となっている。そのシリーズ一作目『火星のプリンセス』を映画化がこの作品。映画のチラシに紹介されているストーリーは、以下の通り。
-1881年のニューヨーク―大富豪のジョン・カーターという名の大富豪が謎の失踪を遂げる。愛する妻と娘を失って以来、他人との付き合いを絶ってきた彼は、甥のエドガー・ライス・バローズに一冊の日記を残す。そこに記されていたのは、想像を絶する彼の“体験談”―生きる意味を見失っていたカーターは、ある不思議な現象によって未知なる惑星“バルスーム”に迷い込む。地球を凌駕する高度な文明を持ったこの星は、全宇宙を支配しようとする“マタイ・シャン”によって滅亡の危機に瀕していた。
バルスームの民たちと心を通わせるカーターだったが、かつて妻と娘を救うことができなかった無力感が、彼らと共に闘うことを躊躇させていた。だが、マタイ・シャンの無慈悲な攻撃にさらされるバルスームの惨状が、彼の中に新たな感情を芽生えさせる。それは愛する者を二度と失いたくないという強い思い…果たしてジョン・カーターと惑星バルスームの運命は?そして、なぜ彼はエドガーに日記を残したのか?
『火星のプリンセス』なら、1980年前後だったか学生時代に面白く読んだ。当時でも火星で地球人のヒーローが縦横無尽に活躍するストーリーは荒唐無稽な古典SFと見られがちだったが、創元SF文庫の原作を私が買った理由は有名なバローズの著書だったからではない。武部本一郎の表紙や挿絵に釣られたからなのだ。上の画像は創元SF文庫の表紙である。便利なことに、武部本一郎による火星シリーズの表紙画像を紹介しているサイトもある。
火星リーズを読む前、ヒロイック・ファンタジーの先駆けとなった『英雄コナン』シリーズを見ており、こちらの早川SF文庫版の表紙や挿絵も武部本一郎だった。私的には火星シリーズよりもコナンの方が好みだが、武部の挿絵はどちらもよかった。
原作はよくとも映画は駄作、失敗作というケースは多いし、この作品もそのひとつだった。原作とはストーリは微妙に違っており、小説では火星に転移した時ジョン・カーターは独身だったし、ヒロインのデジャー・ソリスは剣を使わない。原作執筆当時は1911年だし、21世紀では自ら剣を持って戦うヒロインが受けるのだ。この映画でも火星のプリンセスは剣の巧みな使い手となっている。
しかし、ストーリーの違いは問題ではなく、肝心の主人公やヒロインに魅力がないのだ!特にデジャー・ソリスは酷すぎる。ならば、誰が絶世の美女のヒロインを演じればよいのか?と問われても、私には答えられない。頭に浮かぶのは武部本一郎の描いた美女なのだ。デジャー・ソリスも含め、火星の赤色人が身体に入れ墨をしていたのも興ざめだった。
ただし、ディズニーが大金を投じて制作しただけあり、火星を飛び交う飛行船が登場するシーンはよかった。まるで巨大な昆虫が飛んでいるようで、ビジュアル的にも面白い。
2012年03月23日(金)付けのNewsweek日本語版サイトによれば、「『ジョン・カーター』は歴史に残る失敗作」だそうだ。2億5000万ドルを投じたディズニー生誕110周年記念作が台無しになってしまった…と散々。ライバル映画会社の幹部に言わせれば、「オタク世代は振り向かないし、家族連れには気味が悪過ぎる。ディズニー・ブランドを冠しておいてランクはPG13(13歳未満は保護者の指導が必要)。一体誰に見てほしい映画なのか分からない」
もはや米国でも、地球人のヒーローが火星で大活躍する物語は受けない時代なのか?古典SF愛好者でもない限り、確かにこの映画は見たいと思わせる魅力に乏しいのかもしれない。
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暫くでしたが、お変わりありませんでしたか?
私も『火星シリーズ』よりも『ペルシダー』の方が、今の時代に受けそうな気がしました。制作者がなぜ前者を選んだのかは不明です。
『ジョン・カーター』の原作が『火星のプリンセス』だったとは知りませんでした。mugiさんも書いておられる通り、ディズニーの記念作品なのに大失敗という記事は読んでおり、それ位の情報しか持ち合わせていなかったのです。
『火星のプリンセス』、子どもの頃図書館から借りて読んだことがあり、内容はおぼろげですが、とても面白かった印象を持っています。但し、子ども向けのシリーズの中の一冊でしたので、挿絵はmugiさんの持っていらっしゃる本よりマンガちっくな絵でした。
「火星の赤色人」ということですが、私の記憶の中では(挿絵の影響でしょうが)オレンジ色の肌と思っていて、それも印象に残っている理由になっています。
確かに主人公は独身でしたよね。子ども心に「この二人どうなるの?」とドキドキしながら読んだように思います。
懐かしくて書かせて頂きました。mugiさんの趣味の幅の広さ、読ませて頂いて有難いです。
私の学生時代はSFがブームとなっていて、元からSFに関心があったので、このシリーズを読みました。映画化に当たり、21世紀にはあまり受けそうなストーリーではないと思いましたが、案の定こけましたね。
子供向けの火星シリーズがあったとは知りませんでした。このシリーズに限らず、子供向けの海外SFは割と出版されていたと思います。有名なH・G・ウェルズの『透明人間』も、私が初めて見たのは子供向けに書き直されたものでした。
大人向けの原作だと、赤色人の外見は地球の白人と同じですが、肌は「淡い赤みがかった銅色」と形容されていました。今回の映画でも確かにアメリカ先住民を思わせる赤い肌になっていましたね。翻訳者はこの設定を、赤い星・火星にちなんでいるのではないか…と書いていました。
>>mugiさんの趣味の幅の広さ
趣味の幅が広いなど、気恥ずかしい限りです(笑)。何故か歴史好きはSFも好きという人が多いとか。SF作家も歴史にかなり関心を持ち、ヒントにしているようです。
「火星シリーズ」ではなく、いろんな作品を集めた名作選のような中の一冊だったと思います。(すみません、シリーズという言い方が間違っていましたね)
子どもの頃、本を選ぶ基準の一つが、挿絵が好みかどうかでした。挿絵が気に入れば、大体本も面白いという感想を持っていて、今でも表紙の絵は気になる方です。
私の読んだ本のプリンセスも(マンガちっくでしたが)とても綺麗でしたし、主人公も素敵でした。実写版の登場人物が、原作で抱いていたイメージと違うのは致し方ないことなのでしょうが、やはりがっくりくることも多いですね。
やはり子供向けの『火星シリーズ』は出版されていなかったのですね。SFだけではなく、子供向けに書き直された江戸川乱歩やホームズ、ルパンシリーズも学校の図書館に置かれており、子供たちに人気のある本でした。
子供時代はもちろん成人してからも、挿絵は未だに気にかかります(笑)。表紙の挿絵がよくて買ったら、内容は全くよくなかったり。これはCDのジャケットも同じですよね。ジャケットに釣られ買ってみたら、ガッカリさせられたこともありました。
記事にも書いたように、武部本一郎の描いた火星の美女だけではなく、主人公も格好良かったですね。美しいだけでなく気品があり、SFファンには人気のある挿絵家です。だから実写版には失望させられたのだと思います。
ただ、名作の実写化というのは難しいですよね。主人公のイメージにピッタリな役者もなかなかいないし、本を読んで感じた主人公のイメージもそれぞれ異なります。
ティベリウス帝の治世から書きおこされていますが、キリスト教との絡みをばっさりカットしていてわりと読みやすい小説です。
>火星のプリンセス
表紙のデジャー・ソリス、美しいですね。
えも言われぬ風情とはこういうたたずまいの美女にこそふさわしいのかと思ってしまいます。
このてのファンタジーアドベンチャーのヒロインとくれば金髪との思い込みがるのですが、ブルネットであるのも異国的で綺麗ですね。
どっかで聞いた覚えがあり、頭をひねって思い出しました。
http://www.iwasakishoten.co.jp/products/4-265-95122-8.html
↑なにかの拍子で、このページを見たことがありました。
児童向けの表紙絵ですが、むっちりした肉感と躍動感がマッチしていて印象に残っておりました。
バローズが古代ローマを扱った歴史小説を書いていたとは知りませんでした。試にア○ゾンのレビューを見たら、カリグラの奴隷のブリトン人のブリタニクスの視点から描いた作品だとか。原題は‘I am a barbarian’、面白そうですね。
上記のデジャー・ソリスだけでなく、武部本一郎の描く女性は全て美しいですよ。心なしか金髪よりもブルネットの女性が多かったような…気品があり、きりっとした印象もあります。コナンシリーズに登場した金髪の女海賊も、武部の挿絵では同性が見ても格好良かったですね。
http://ameblo.jp/conan-the-barbarian/image-10695512662-10836612117.html
児童向けの火星シリーズのサイトの紹介を有難うございました!確かにむっちりした肉感ですね。このヒロインだけを見ると、SFよりもアラビアンナイトの踊り子に見えてきます。