トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

追憶 73/米/シドニー・ポラック監督

2012-07-15 20:40:16 | 映画

 学生時代に見てよかった…と思う映画を中年になって再び見直すと別な感動と発見がある。この映画を私が初めて見たのは確か高校時代の春休みだったと思う。その時もリバイバルだったが、主演バーブラ・ストライサンドの歌う“The Way We Were”(映画の原題)は名曲だし、このメロディーと共に「追憶」を思い出す人が多いだろう。この作品の詳しいあらすじを紹介したサイトもある。

 初めてこの作品を見た時もストライサンド扮するヒロイン、ケイティーは好きになれなかったし、今見ても思いは同じ。1937年の学生時代から政治活動に熱中、50年代始めになっているラストてもその姿勢に全く変わりはない。よく言えばひたむきだが、自分の理想と主張を一方的にがなり立てるという、よくあるアメリカの“良心的知識人”なのだ。学生時代から同窓生に「女子大生のソ連かぶれ」と揶揄され、会話はユーモアはなく演説調で捲し立てる…この手のタイプの女は私も敬遠したい。

 そんなケイティーが自分とは正反対のハベル(ロバート・レッドフォード)と恋に落ち、結婚するのはいかにもハリウッド的ラブストーリー。おそらくこの作品を好きという人の多くは女性と思うが、私と同じく天下の二枚目スターロバート・レッドフォードにうっとりとして見ていたのではないか?トップの画像は学生時代に見た時、映画館のポスターに使われていた物だが、シンプルな白いセーターがよく似合っていて、個人的には軍服姿よりもこちらの方が好みである。

 ハベルは容姿端麗だけでなくスポーツ万能の優等生。当然大学の人気者であり、美人の金持ち娘の恋人もいた。政治に関心がなくジョークのネタにするハベルに、「政治さえ笑い物にするのね」と不満を言うケイティーに「政治屋を笑っただけさ」と返す。結局ハベルは学生時代の恋人とよりを戻しケイティーと離婚するのも、元から価値観と住む世界が違っていたからだ。
 ケイティーも学生時代の同志フランキーと結婚した方がよかったと思うが、あの性格では彼とも遠からず上手くいかなくなるように思える。世俗的で妥協もいとわない男と妥協しない女。ラブストーリーとしては傑作だろうが。

 大学の創作クラスで共に学んでいたケイティーとハベルだが、優秀作として選ばれたのは後者だった。後に「アイスクリームの国」の題名で出版するが、「並のアメリカ人の微笑」というハベルの作の一文は何やら耳が痛かった。「彼は自分の育った国と似ていた。万事が安易。彼自身それをよく知っていた。自分をいい加減な人間だと思うことがある…
 ケイティーが彼の作品に、「書き方は申し分ない、文体も華麗。でも、突き放している。人間を遠くから見ているだけ」と感想を述べるシーンもあった。同時に彼の才能を高く評価、次作を書くように勧めたのもケイティーであり、それがハベルが脚本家として成功することになる。

 この作品はマッカーシズム時代のハリウッドが描かれており、この業界にもエリア・カザン(『エデンの東』の監督)、ウォルト・ディズニー、往年の二枚目ゲイリー・クーパーロナルド・レーガン等の大物が積極的に協力していた。当時上院議員だったジョン・F・ケネディさえマッカーシズムを支持しており、民主党議員にも賛同者が少なくなかったのだ。万事に商業主義のハリウッドではマッカーシズムでトクをした業界人も多かったはず。ハベルの言うように制作者はカネになるならアカの脚本家さえ使うのだ。マッカーシズムの過ぎ去ったあとはその時代を映画化する。ショービズ界に限らず己の信念を貫くことはいつの時代も難しい。



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2 コメント

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愛が芽生える瞬間 (Alex)
2012-07-15 22:19:18
mugi様、Alexです。お世話になります!

ラブ・ストーリーで思い出しましたが”マイ・ビッグ・ファット・ウェディング”という映画をご存知ですか?

”ギリシャ系アメリカ人のトゥーラは、内気な性格と地味な容姿のせいか、恋愛に縁のない冴えない毎日を過ごす独身。ある日、父のレストランで働いていた彼女は、店にやって来たハンサムな男性に一目惚れしてしまう。これをきっかけに、トゥーラは一念発起、これまでの自分を変えようと決意するのだった…。”

タイトルに”愛が芽生える瞬間”と書く青臭い文学青年な僕ですが、この映画は女性の方には
大変おススメします。自分では上手く表現出来ないのですが、真実の愛とは何か?愛の意味とは何か?を考えさせられる良作な映画でした。
mugi様は”愛の意味”についてお考えになられた事はありますか?

なお、この映画で馴染みのない現代ギリシア人の生活を伺うことが出来ます。非常に残念ですが、古代ギリシア人の優秀さは全く失われ、寧ろ他のヨーロッパ人にヘレニズム精神が引き継がれたようですね。現在のギリシア人はオリエント文化の住民であり、残念ながらDQNです。そんな低落だから他の欧米人に古代ギリシア人の優秀さと比較されて落胆され、呆れ果てて軽蔑されるのでしょう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%93%E3%83%83%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0
http://www.youtube.com/watch?v=J2zyZC1Iqls
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RE:愛が芽生える瞬間 (mugi)
2012-07-16 21:04:10
>Alex様、こんばんは。

”マイ・ビッグ・ファット・ウェディング”は名前は聞いたことがありますが、未見です。wikiのリンクを見たら、30歳になっても恋愛経験は一度もなかった??ギリシャ系にせよ恋愛に奥手な米国女性がいたのも面白いですね。そういえば「ロッキー」の妻になるイタリア系女性エイドリアンも恋愛に縁のない冴えないタイプでした。

>>”愛の意味”についてお考えになられた事はありますか?

 記事に引用したハベルの言葉どおり、私は万事がイージーな人間だし、恥ずかしながら、”愛の意味”について真剣に考えたことはあまりないと思います(汗)。若い頃はともかく、年を取るとだんだん妥協を覚えるようになりがちです。

 紹介された映画を未見だし、ギリシアについては浅学ですが、世界史の教科書で描かれる偉大な古代文明の担い手の子孫とは信じられないという感想を聞いたことがあります。イタリアも同じようだし、古代ギリシア・ローマに憧れる欧米人が現地に来てガッカリ、その反動でギリシア人を嫌いになる人もいるとか。

 これって古代中国に憧憬を抱く日本人が実際に現地に行き、失望して帰国するのと似ていますね。ヘレニズム時代は全くの蛮族だった現代西欧人の先祖が、今ではギリシアと完全に逆転しています。
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