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持参金制度のある国、そうでない国 その三

2012-07-10 21:11:24 | 世相(外国)

その一その二の続き
 ダウリーが新婦に深刻な虐待を与えているのは紛れもない事実だか、ならば持参金制度のない第三世界でも花嫁の人権が保障されているとは決して言えない状況にある。かつての日本と同じく中東世界や中国では新郎側は高額な結納金を負担する必要があり、特に前者ではそれが工面できる中年になってようやく花嫁を迎えられる…というケースが未だに珍しくない。中東では娘3人いれば、蔵が建つと言っても過言ではない。
 しかし、これを花嫁売買と見る人も少なくない上、多額の金を出したのだから嫁は家畜同然であり、元を取ると言わんばかりに虐待や酷使する酷い夫もいるのだ。

 イスラム圏も儒教圏も共に男児を望み、殊に一人っ子政策をとる中国で生まれたのが女児ならば、遺棄したり殺害される事件も後を絶たない。建前上は中絶禁止のはずのイスラム世界でも、“名誉の殺人”を身をもって体験した女性の著書『生きながら火に焼かれて』によれば密かに女児間引きが行われていたらしい。中国の他に韓国も男児の出生率は異様に高く、未だに「男重女軽」、つまり男尊女卑がまかり通っている。昔の記事で私はこの現象を皮肉を込めて書いたことがあり、再び挙げたい。

なお、『花嫁を焼かないで-インドの花嫁持参金殺人が問いかけるもの』(明石書店)という本で、ダウリー殺人事件を紹介しているが、著者は謝秀麗。名前からして中国若しくは朝鮮女だろう。『路傍に捨てられた女児-中国の一人っ子政策が問いかけるもの』というルポでも、日本人向けに書いてくれるインド女性はいないだろうか。

 日本のマスコミが中韓を礼賛するのに対し、インドにはそうでない傾向が強く、私はそれを「賛中侮印」と呼んでいる。宮城の地元紙・河北新報もその例に漏れず、河北の記事をネタに以前『賛中、侮印報道』という記事を書いたこともある。インドのネガティブな面を強調、視聴者にインドの悪印象を与える洗脳?と疑いたくなる。
 かなり前なので記憶も曖昧だが、ピーター・バラカンが出ていた民放番組でダウリー殺人事件が紹介されており、「男から見ても酷い」と彼も感想を漏らしていた。いかに禁止法を制定したところで効果は無きに等しく、「いつか女性がいなくなり、その時初めて女性の大切さを知ることになるでしょう」と半ばさじを投げたインドの有識者の言葉が印象的だった。女児の減少は結婚難に繋がり、既に地方では児童誘拐や叙事詩マハーバーラタよろしく兄弟で花嫁を共有するということも起きているという。

 一方で都市部では明るい兆しも出てきているようだ。今年初め録画していたNHK BS特集の「インドお見合い騒動記」を見たが、中々興味深かった。この特集を紹介したブログ記事もある。登場する3人の女性は大都会ムンバイに住んでおり、高等教育を受けているから恵まれているにせよ、祖母の時代には新郎の顔を見たのは結婚式当日だった程で、確実に時代の変化を感じた。ただ、中産階級の結婚観が伝統を重視し最も保守的だったのは意外だった。

 ダウリー問題だけを見ると、インドは途轍もなく後進的に感じる日本人もいるだろうが、同時に女性の政治、社会進出は完全に日本を上回っている国でもある。皮肉なことにこれもカースト制のおかげなのだ。上位カーストの女性は下層出身のメイドが使えるし、家事育児を後者に 任せて仕事に専念できる。「女性君主」という記事でも書いたが、インド史には面白いことに女王や女領主が何人も登場している。これまたイスラム圏や儒教圏には見られない特徴だし、女性間の格差も凄まじい国なのだ。

 女児間引きによりインドで人口に占める女性の割合が激減していると言われるが、私はさほど深刻には考えていない。他人事ということもあるが、2008年時点で人口は12億人ちかくもある。人口が半減してもまだ6億人もいるのだ!それよりも日本の少子高齢化の方が問題ではないか。ダウリーを騒ぎ立てる人々にどうも胡散臭い意図を感じるのは、うがち過ぎた見方だろうか?人権問題を掲げながら、補助金獲得の怪しげな組織もあり、実際に困っている人々に渡らないといった例もある。

 日本でもヒットしたインド映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』の冒頭、馬車を駆る主人公が歌うシーンで「人は幸福であらねばならぬ…」という歌詞がある。伝統も因習と背中合わせのこともあり、ネルーの言葉を借りれば「身体よりも精神を縛る鎖はまことに恐ろしい」。



◆関連記事:「インドの混沌?
  「インドの女性活動家たち

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
外堀を埋める (トオニ)
2012-07-11 21:54:57
奇妙というか恐ろしい習慣です。
これほど根強いとダヘーズ禁止法の一つだけではどうにもなりませんね。
妻に対する虐待の禁止、離婚可など、外堀を埋めないと改善しそうにない、かな。
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RE:外堀を埋める (mugi)
2012-07-12 21:34:56
>トオニさん、

 ダウリーはもちろんサティーもまた奇怪かつ恐ろしい習慣です。サティーも一応禁止されていますが、20世紀後半にも行われており、以前記事にしました。どうも殉死を装った殺人のようです。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/4e593fd59667487c4a239c38d8f9f716

 妻に対する虐待の禁止、離婚可も制定されていますが、現状は外堀を埋められない有様。何年か前、国連で欧米諸国が中心となり女児というだけで間引きするのを禁止する勧告を行おうとしましたが、この時インドは中国と組み、動きを封じ込めました。口先ではダウリーを批判する有識者も、本音ではそれを当然視している。結婚して男児を産んでやっと存在を認められる社会ゆえ、かなり難しいでしょう。
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そういえば (トオニ)
2012-07-13 00:55:45
インドの人口は約12.2億人で、中国の約13.5億人に次ぐ規模となってて、3位のアメリカの約3.1億人を軽く引き離してる。
そのニのコメントにある人口抑制の手段というのも理解できるか。
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RE:そういえば (mugi)
2012-07-13 21:30:56
>トオニさん、

 そのニでmadiさんがコメントされたように、「女子の産児制限や間引きは人口抑制にも効果がみこめることになります」。悲しいことですが、土地や資源は限られているのに人口が膨張するのは隣国のみならず地球規模でも問題です。
 記事にも書きましたが、私はダウリー問題はさほど深刻に考えていません。結婚難に直面し、男余りの社会がどうなるのか予測は出来ませんが、男女ともにあまりいい社会ではなさそうですね。

 昨年「中国の人口に関しては、「老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)」のアマゾンレビューが興味深い」というコメントを頂き、その書評サイトの紹介がありました。
http://www.amazon.co.jp/product-reviews/4121019148/ref
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日本だと男女関係なしの人工妊娠中絶 (madi)
2012-07-14 00:04:03
日本だと戦後は人工妊娠中絶が間引きにかわっています。出生人口よりおおくくらいが中絶されているのではないでしょうか。
 のぞまれない妊娠が中絶されるのは犯罪予備軍をへらし安全で豊かな社会に貢献しているのではないか、というのが「ヤバい経済学」の仮説です。
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RE:日本だと男女関係なしの人工妊娠中絶 (mugi)
2012-07-14 21:02:37
>madiさん、

 日本での人工妊娠中絶は概ね“男女平等”です。江戸時代の間引きはむしろ男児の方が多かったという研究者もいます。女児と違い身売りができないから。
 一般に中絶といえば、未婚の若い女性がするというイメージがありますが、実際は30~40代の既婚女性が多いそうです。私の母の友人(既婚)も経済的な理由のため中絶したことがあるとか。
http://www.e-medinavi.com/cyuzetsu/cyuzetsu.htm

「ヤバい経済学」の仮説はシビアでも頷けます。昔は貧乏人の子沢山でしたが、今は金持ちが子沢山。インドも上層階級は少子傾向だと聞いたことがあります。こちらも経済的理由での中絶の可能性もありますが。
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ご無沙汰しております (ハハサウルス)
2012-08-06 23:20:28
ご無沙汰しておりました。毎日暑いですね、水分をこまめに取りつつ、何とかしのいでおります。

私の拙い記事を取り上げて頂いて恐縮しております。この記事を書きながら、インド通のmugiさんは、「ダウリー」のことをどう思っていらっしゃるのかしらと思っていました。やはり見方が私のように一方側からではないところが勉強になります。

古の日本も通い婚の頃は、財産は女性が引き継いで、夫を経済的に支えていましたよね。後ろ盾のなくなった女性は大変だったとか…。(源氏物語でも描かれていますね)

持参金の多い嫁が姑を虐める場合もあるのですね。どちらもお金で左右される人生で、何とも言えません…。

拝金主義の中国では、女性が結婚相手を決める基準は「どれだけお金を持っているか」に尽きるそうで、容姿、年齢は関係ないのだと言われています。

結婚の価値観は国によって本当に様々です。人口の問題もあるのでしょうが、それでも、虐められ殺されるという行為は悲惨で、切ないです。
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RE:ご無沙汰しております (mugi)
2012-08-07 21:50:20
>ハハサウルスさん、

 西日本ほどではありませんが、新潟や仙台も猛暑が続いておりますね。連日真夏日なので、つい冷たい飲み物までこまめにとる有様です(笑)。

 私もはじめてダウリーのことを知った時にはショックを受けました。しかし、その二でmadiさんも指摘されていましたが、「ながくつづいている制度にはそれなりの合理的理由がある」のも事実だし、ダウリーのおかげで嫁ぎ先で立場が強くなったのも確かです。

 私自身が現金な人間なので、あまり拝金主義を批判できませんが、それで中国人の右に出る者はいないと見ています。香港に行った時、現地人のガイドが相手の財産状況を確認しない限り、結婚など考えられないと言ったのを聞いて、やはり…と感じましたね。あの国が拝金主義でなかった時代が果たしてあったのでしょうか?そうでもなければ生き残れない社会でした。

 中国や中東のように持参金制度のない国でも、虐待の果てに殺される妻の事件を聞くのは決して気分の良いものではありません。日本にも妻を虐待する夫もいますが、一応法治国家なのでDV夫への抑止力があります。インドや中国、中東では法が機能していないことが問題なのです。
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Unknown (Unknown)
2014-04-25 05:30:15
インドは男性が多いから犯罪者も多い
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名無しへ (mugi)
2014-04-25 21:25:31
 記事にも書いたが、女児間引き横行のため男が多いのは中韓も同じだろ?だから犯罪者が多い(藁)。日本語も満足に読めないのか。アジアのレイプ大国は韓国だし、男余りになっているのは印中韓共通の現象。

 わざわざ2年前の記事へ金曜日05:30に書込みとはねぇ。この記事に反応せずにいられないとは、やはりアンチインド(中韓ネトウヨ)?名無しで書きこむショボさ。
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