先日、録画していた『発掘アジアドキュメンタリー』を見た。この特集でインド関連番組が2本あり、インドに関心を持つ人にはどちらも考えさせられる内容となったはず。ひとつめは「代理母ビジネスを追う」で、以下の青字は番組紹介サイトからの引用。
―インドの首都ニューデリーで暮らす25歳のウィムレシュ・デビは、夫と4人の子どもを持つ母親。苦しい家計を助けるために、専門の病院で代理母出産をすることにした。無事に子どもが生まれ、依頼者に引き渡されれば、約50万が支払われる約束だ。授かったのは双子。しかし妊娠6ヶ月を過ぎても、病院から契約書を取り交わす話が出ない。しかも妊娠中のため仕事も出来ない。当初は大金が入ることに興奮を隠せなかったが、たびたび起きる体の変調に不安を覚えるようになる。子どもに問題があると受け取りを拒否されることもあるからだ。 そうなると報酬は受け取れない。
インドで初めて代理母による出産があったのは1994年。以来、ビジネスとして拡大を続けている。ひとりの女性の代理母出産を通して、その危うさと倫理的な課題を浮き彫りにする。
ウィムレシュさんはニューデリー出身ではなく、良い暮らしを求め夫と共に地方から首都に移り住んだそうだ。ちなみに現代の夫とは再婚同士であり、ウィムレシュさんの初婚は9歳の時だったという。はじめの夫に死なれ未亡人となった彼女はやもめだった今の夫と再婚したそうだ。インドの地方では未だに幼児婚が行われていたことに改めて驚く。
インドの代理母ビジネスは急成長を遂げており、2013年度には80億$もの規模にまで拡大したという。ウィムレシュさんの話でもかつての相場は250$くらいだったのが、今では570$まで上ったそうだ。彼女も近所に住む男から話を持ちかけられ、代理母出産をすることに決めたという。報酬は5千$(約50万円)。
病院の担当者(女)によるウィムレシュさん以下代理母希望者への説明会は、実に興味深いものだった。「貴女方には子宮の中の子供に対する権利は一切ない、部屋を貸すのと同じく子宮を賃貸するのです」と言う担当者。このドキュメンタリーの原題:Womb on Rent もここから来ている。
インドにおける代理母出産は関係者がインド人ばかりとは限らず、番組ではそれを望むナイジェリア人夫妻も登場していた。ただ、外国人が希望だと障害をもつ子供が生まれた場合、子供の国籍で深刻な問題が発生するらしい。外国人が子供の受け取りを拒否すれば、子供は無国籍という事態も発生、このような子供たちは孤児院に引き取られるという。
またインドらしく、宗派やカーストを問う希望者も多く、インド人同士でもトラブルは少なくない。ウィムレシュさんが正式に病院と契約を取り交わしたのは、妊娠8ヶ月目だったという。それまでの手当ても遅れ気味だったそうだ。何とか無事に出産しても、金が支払われたのは3週間後だった。しかも再三催促しても手渡しを拒否され、銀行振込を求める。ウィムレシュさんは夫と共同名義で銀行口座を開設、ようやく4,900$が支払われたそうだ。
代理母問題を扱っている弁護士の話では、代理母をした女性の多くが離婚しているという。夫の中には代理母を勧める者もいて、酷いケースでは20数回も受精卵を宿し、椅子にも座れない状態になった妻もいたそうだ。その妻の側で尚も代理母を頼む夫。既に妻は金を産む機械なのだ。 ウィムレシュさんの夫も手に入った金を妻にはほとんど渡さず、バイク購入を考えていた。
代理母は懲り懲りと語ったウィムレシュさんも、この話を近所や義妹には勧めている。紹介手数料が貰えるからだ。その話には彼女の母も乗り気になっており、親族を物色する。そしてウィムレシュさんの13歳の姪をその役割にするつもりらしい。
数年前、代理母で話題になったタレント向井亜紀は、「米国では代理出産はキリスト教的な奉仕の精神に基づいて行われている」とインタビューで言っていた。ヒンドゥー教でも現世で善行を施せば、来世で報われるとの教えがあり、これがインドの代理母ビジネスに拍車をかけている。
だが、“奉仕”の実態は所詮カネなのだ。生活に困らずに代理母を請け負う女が果たしているのか?向井の代理母となった米国女性は、別の夫婦のための代理出産をした際、子宮破裂してしまったことを取り上げたブログ記事もある。たぶんインドでも子宮破裂した代理母は少なくないはず。それでも貧困層の多いこの国では、この先も子宮の賃貸は後を絶たない。
◆関連記事:「代理母-奉仕の精神?」
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菊田昇医師、懐かしいですね~ 彼は宮城県石巻市の人です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%8A%E7%94%B0%E6%98%87
赤ちゃんあっせん事件が起きた時、私の両親が話題にしていたのを憶えています。父は菊田医師の善意は認めつつ、違法な赤ちゃん斡旋を批判していました。wikiで見たら、当時は娠8ヶ月未満までの中絶が可能だったとあります。人工妊娠中絶を行う産婦人科医の精神的苦悩は余人の想像を越えますが、それもあって晩年はキリスト教に改宗したとか。
キリスト教的観念からすれば、人工妊娠中絶よりも代理母の方がマシと考えるでしょうね。子供を切に望む夫婦には生まれず、虐待する親には簡単に産まれる不条理はやり切れません。