ゴルゴ13の作者さいとう・たかを氏が、9月24日膵臓がんのため死去した。享年84歳。これで長編シリーズゴルゴ13も終了か、と思ったらそうでもないようだ。10月12日放送のNHKクローズアップ現代は『ゴルゴ13は終わらない』という特集を放送、番組HPでは詳しく紹介されており、以下はトップの文章。
―先月、劇画家さいとう・たかをさんが84歳で亡くなった。国籍不明の寡黙なスナイパーが活躍する『ゴルゴ13』は、これまで202巻を刊行。ギネス世界記録にも認定されているが、出版社は今後も連載の継続を発表。
それが可能なのは、さいとうさんが確立した脚本、コマ割り、作画などを分業する仕組み。新たな才能や最新の世界情勢を取り入れ質の高い作品を生み出してきた。漫画の世界に果たした役割、遺されたメッセージを読み解く。
2005-09-23付の記事でも書いたが、私がゴルゴ13を見るきっかけになったのは、職場の上司がファンだったので。以前から名前だけは知っていたが、実際に読んでみたらその面白さにハマった。仕事は完璧、抜群の体力と精神力、女に強い・・・まさに男の理想像ではないか。殺し屋という職業柄と性格から口数は極めて少ないが、上司に言わせると、昔に比べしゃべるようになってきたとか。
ちなみに上司は大変な本好きで、劇画ばかり見ていたのではない。暫くはゴルゴ13を見ていなかったが、2016年に「ドローン革命」という話があったことを番組で初めて知った。実は2019年10月24日放送のNHKクローズアップ現代『ドローン兵器の衝撃~新たなテロの時代~』で、さいとう・たかを氏は「ドローン革命」について、こう語っている。
「人間のばかばかしさは描いているつもり。こんなことしていたら、どうしようもないぞという。戦争ばかりにもし、いってしまったら、突き詰めて、人間が全滅するまでになる。もうそろそろ、気が付いてもいい。」
全滅するまでにはいかずとも、全滅寸前までに戦争を行うバカバカしさこそが人類の性と私は考えている。こんなことしていたら、どうしようもないと気付く人もいるが、彼らは決して支配者にはなれず、権力を握れない。その気質をせいぜい敵側に利用されるのが関の山だろう。
この先ドローン兵器が戦争やテロに使われるのは明らかで、核兵器より恐るべき武器になりつつある。軍事産業としても巨大な利権を生み、その富を得た者が世界を支配するのだ。
ゴルゴ13の面白さはその徹底したリアリズム。現役のキャリア官僚や銀行マン、広告マン、分子生物学者など50人以上がストーリーを提供していたという。どうりで社会人の鑑賞に堪えるストーリーを描き続けられたワケだ。
さいとう氏はスタッフに取材を尽くすことを説いていたそうで、作品は緻密な取材に支えられていたと言える。実は私お気に入りの作家フレデリック・フォーサイスも同じことを言っていた。'80年代前半にロレックスの広告に出ていた時、「綿密に取材する。発酵する時を待ち、一気に書き上げる」というコピーがあった。
そういえば、フォーサイスの処女作かつ出世作「ジャッカルの日」の主人公も一流のスナイパーだった。但し2014年に邦訳された「キル・リスト」は、アメリカ軍などが運用している無人航空機「プレデター・ドローン」が、名前のみが記された極秘名簿<キル・リスト>に載った“超危険人物”を標的にして抹殺するストーリー。
もちろんフォーサイスは人間のばかばかしさを描いているのではなく、それを当然視している。この辺りは人間の愚かさと情緒的に陥りがちな日本人とは好対照。作品名は忘れたが、フォーサイスは人間が争うのはイデオロギーのためと書いている。
番組ではゴルゴ13の名セリフも紹介していた。成功の秘訣を聞かれた答えがふるっている。
「10%の才能と20%の努力…そして、30%の臆病さ…残る40%は…「運」だろう…な」
また正義を振りかざすアメリカ人に対し、「その「正義」とやらは、お前たちだけの正義じゃないか」と言っている。この言葉に共感する日本人が殆どだが、自分たちだけの正義を絶対視するのが世界では一般的なのだ。一神教や儒教圏は書くまでもないが、ヒンドゥー社会や日本以外の仏教国も変わりない。それを支えるのが強烈なイデオロギー。人類の正義病は終わらない。
初版は2000年だが、「The ゴルゴ学」というオフィシャル・ブックがあり、内容を紹介した小学館の紹介サイトもある。ファンには堪らない内容だろうし、ゴルゴと寝た女たち107人の完全リストまで載っている。
久しぶりにこの本を本棚から出してみたが、百発百中のスナイパー、ゴルゴ13でも、結構心理戦を駆使していたことに改めて驚いた。例えば111話「氷結海峡」では、標的とする無敵のイヌイットの男には心理作戦で勝負に出ている。イヌイットの恋人を暴行、泣き叫ぶ声を録音し大音量で流すから、結構汚い。
それでも読ませられてしまうのがこの作品。現代ならこの種の内容には早々とクレームが出そうな……
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番組のゲストには外務省でかつて在外邦人のテロ対策を担当し、イラクでの勤務経験もある江端康行氏(在オランダ日本大使館参事官)が出ていました。
「描かれたリアルな安全対策の世界を見て、こういうものをマニュアルとしてつくりたいと思って、それで実際に試作品みたいなものをつくって、さいとう先生に見ていただいた。」、と江端参事官は話しています。
海外安全対策マニュアルが劇画というのはいかにも日本らしいですね。登場した外務大臣、名は違っていますが、どう見ても河野太郎です。
『I・餓夫』という作品は初耳ですが、小池氏は初期の『ゴルゴ13』に関わっていたことがwikiに載っていました。
『子連れ狼』は小池氏の代表作ですが、大五郎を助けようとやってきたひとを殺す話があったのですか??殺したのはもちろん拝一刀ですよね?拝一刀がこんな手口を使っていたのは意外です。
家族惨殺、のこった家族で相手方一族殲滅というのは『子連れ狼』と『鬼滅の刃』共通ですが後者は友情と支えるおとながいる点ですこし明るくなっています。
劇画版『子連れ狼』を見たのは小学校高学年の頃でしたが、内容は殆ど憶えておりません。父が読んだ後に私も見ましたが、少し難しかったですね。智謀よりも剣劇の印象しかなかったし、副主人公が子どもなので何とか読めたと思います。
『鬼滅の刃』は少年誌掲載作品で主人公や仲間も少年です。そのため同じ家族の仇討物語でもすこし明るくなったのでしょう。それでも大変な犠牲を払いましたが。