その一、その二、その三の続き
『オデュッセイア』全文を読み返した塩野七生氏は、英雄の朝帰り弁明について次のような感想を述べている。
-特にオデュッセウスがイタケの近くまで戻ってきて、つまり放浪の最後のほうになって身を明かし、放浪記を涙ながらに語るところなど、朝帰りの理由をまず友人家族に信じさせ、その上で最難関の妻に向う亭主を思わせないこともなく、オデュッセウスという男の並々でない頭の出来には、ペネロペならずとも戦線放棄を宣言したくなるのは当たり前だ。ホメロスも次のように書いている。呉茂一先生の高雅な訳文で紹介したい。
…輝く眼の女神アテナは、微笑んでオデュッセウスを手で撫で…言った。
「ありとあらゆる策でお前を負かすには、お前の相手が神であっても、余程悪賢くなくてはなるまい。呆れたお人、知恵の塊、尽きせぬ策略のお人、自分の国にあってさえも、心の底から好きな偽りとイカサマな言葉を止めようとはしないのか。
だが、さあ、もうこのことを語るのは止めよう。私たちは二人とも、ごまかしの達人です。お前はありとあらゆる人の子の中で一番の計略と弁舌の達人、私はありとあらゆる神々の中で知恵と策略とで名が高い。…」
塩野氏に『オデュッセイア』の珍解釈をしたイタリア人医師とは、氏の元夫なのは明らかだろう。イタリア人医師と結婚、一児を儲けるも何故かその後離婚している。エッセイ『オデュッセイア異聞』末尾は意味深な一文でしめられている。
「朝帰りしても弁明など一切したことのない我が亭主は、同じ地中海世界の男として、先達に及ばないことは初めからしない方がまし、とでも思っているのかもしれない」
『ブルガリア研究室』さんがこの記事に寄せたコメントも興味深い。地中海世界の習慣に疎い私にはハッとさせられた。
-小生は、ギリシャ神話などには全く疎いのですが、この神話を「朝帰りの男の弁明」だろうと見抜いた!、しかも、帰宅までに「20年」を要した…という、空恐ろしいからくりを…!。
恐らく、帰宅の遅れは、せいぜい1週間とか2週間、それを20年という壮大な規模の「神話」に作り直したギリシャ人もスケールが大きいとして、その嘘のからくりを見抜くイタリア人男性の「浮気本能」も空恐ろしい。
それから、昔イソップ寓話の恐ろしさを、「ともかく頭のいい男なら、何をしても勝ち」、負けた側が「頭が悪いから、ペケ」というのが、ギリシャなど地中海世界の常識、と喝破した本があったように思うけど(誰の著書か良く覚えていない)、小生の記憶でも、バルカンの思想は、 「頭が良くて、上手に騙せたら勝ち」という哲学です。バルカン半島も地中海世界の一部ですから、「朝帰りの弁明術」で、妻を煙に巻いて、勝ったー!と勝利の勝ち鬨を上げている、夫の姿が想像できます。
いくら男勝りの塩野女史でも、「絶対に謝らない、ばれても嘘をつき続けて、神話まで持ち出して、優れた男は、壮大な嘘をつける男だと 言い張る」そういう夫に愛想が尽きた???
赤の他人には女性歴史作家の離婚の原因など知る由もないが、塩野氏の作品には夫に愛想を尽かして別れる妻や、物足りなくなって恋人を捨てる女が登場する。対照的に恋人や夫に捨てられる女は何故か出番が少なく、作者本人の性格や人生と重ね合わせるのは一ファンの下司の勘繰りというもの。
エッセイ『オデュッセイア異聞』と対になったかたちで、塩野氏は短編小説『貞女の言い分』を書いている。題名通りこちらは夫の帰りを20年間待ち続けた妻ペネロペが主人公。ただし、塩野氏にかかれば貞女の鑑と謳われるペネロペの描き方も風変わりとなっている。
その五に続く
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地中海で思い出しましたが、イソップ童話のアリとキリギリスは元々、ギリシアではセミだったそうです。それがアルプスを越えると、代わりにキリギリスになったのです。
そういえば、食生活も北ヨーロッパと南ヨーロッパでは異なり、北ではビールとソーセージ、
ステーキ、ハンバーグなどの肉料理。対して、
南ではワインと魚介類が結構多いですね。
所で、イタリアのスケッティーノ船長はマザコン、女好き、美食家、いい加減でお調子者、臆病、無責任、目立ちたがりという、ラテン系の欠点を全て凝縮した超色物キャラで、ベルルスコーニ前首相が霞んで見えるほどでした。
イタリア人の名誉のために擁護すると、モンティ首相やデ・ファルコ司令官、ザッケローニ
監督のようなイタリア人らしくない生真面目な人々もいます。
それと、南ヨーロッパと北ヨーロッパの違いを説明した動画を見つけました!
http://www.youtube.com/watch?v=HHWBL9_alKs
http://www.youtube.com/watch?v=IpNguFRzMcA&feature=related
日本では一般にアリとキリギリスで知られていますが、これはアルプスを越えた西欧版イソップ童話だったのですね。この童話にはパロディもあり、冬にアリを訪ねたキリギリスは、アリが死んでいるのを発見。過労死であり、一冬キリギリスはアリの貯めた食料で食いつなぐという不条理物語です。
欧州大陸といえ、北と南では気候がまるで違いますよね。日本でも北と南の気候が違っているように。古代から南欧では魚介類やワインを摂取しており、ローマ兵も肉食よりは魚や小麦粉を好んでいたとか。
イタリア人も北と南では気質が異なるそうです。やはり北は真面目な傾向があり、南はお調子者が多くなるようです。塩野七生氏もナポリの人は頭はいいけど、イタリアの中でも特に公衆道徳精神に欠ける特徴があることを書いていました。
ベルルスコーニ前首相について、面白いブログ記事がありますよ。親しいブルガリア女性に口利きで、豪華アパートの取得を世話したとか。さすがイタリアの権力者は違います。
http://79909040.at.webry.info/201109/article_7.html
面白い動画の紹介を有難うございました!この動画の監督はイタリア人ですよね?イタリア人と他の欧州人ではここまで違う?特にドイツ人との比較は笑えました。ゴミ出しでも、迂闊にポイ捨てすると逮捕されるドイツに、市民はもちろんパトカーまでが道端にゴミを捨てているイタリア。この差はスゴイ。
イギリス人女性は、スペイン人やイタリア人など、陽気で情熱的な地中海系が好みのようですね。反面、ドイツ人やイギリス人は好きでないよう。我らが日本人男性は見事にスルーされてます。(爆笑)日本人は英語が話せないし、レディーファーストも出来ないから恋人ではなく変人ですかね。(爆笑)
イギリス人女性が選んだ最悪な恋人
1. ドイツ人(嫌な匂いがする)
2. イギリス人(怠惰すぎ)
3. スウェーデン人(あまりにも早すぎる)
4. オランダ人(支配的すぎ)
5. アメリカ人(荒過ぎ)
6. ギリシア人(感傷的すぎ)
7. ウェールズ人(利己的過ぎ)
8. スコットランド人(うるさい)
9. トルコ人(汗まみれ)
10. ロシア人(毛深すぎ)
最高な恋人ランキング
1. スペイン
2. ブラジル
3. イタリア
4. フランス
5. アイルランド
6. 南アフリカ
7. オーストラリア
8. ニュージーランド
9. デンマーク
10. カナダ
http://japan.techinsight.jp/2009/10/worstlovers0909301730.html
スペイン語やイタリア語は情熱的でロマンチックな感じがして、プロパガンダ歌ですらラブソングに早代わりするほど。例えばスペイン内戦時代の、こうなると一種の才能と思えます。
http://www.youtube.com/watch?v=Fko5fYIBJFU
http://www.youtube.com/watch?v=APneIkgr22A
http://www.youtube.com/watch?v=Cq8LFWUzOK4
http://www.youtube.com/watch?v=mOGqmHP2nIM
インド、トルコ贔屓のためか私はイギリス嫌いです。ただ、イギリス女性が選んだ最悪な恋人のトップがドイツ人とは意外でした。まさか世界大戦の怨念はないでしょうが、嫌な匂いがする??ドイツ人はイギリス人よりも遥かに清潔というイメージがあるのですが…
そして2位が同国人というのは笑えました。スウェーデン人も「あまりにも早すぎ」??北欧人は精力があると思うのですが。最悪のトップテンをみると6位と9位を除き、全般的に北国ですよね。やはり北国の女は陽気な南国人に惹かれる傾向があるのかもしれません。蛇足ですが、東北の女性は九州の男性といえば豪快で男らしいというイメージがあります。東北人男性?ネクラ(汗)。
イギリス女性の選んだ最悪な恋人、最高な恋人の国を見ると、トルコを除きすべて白人の国ですよね。やはり日本人も含めモンゴロイドは眼中にないのでしょう。
母国語オンリーの私ですが、イタリア語やスペイン語は響きが良いですよね。紹介された動画を見ましたが、仰る通りプロパガンダ歌と思えないほどです。ポスターのデザインも洗練されているし、これは先天的な才能でしょうか。
『夜よ、こんにちは』というイタリア映画を見たことがあります。モロ首相暗殺を企てた「赤い旅団」メンバーを描いた作品ですが、妻子や恋人がいるメンバーもいて、恋人に会いに行ったりする。内ゲバで仲間を虐殺した日本赤軍とは好対照です。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/2b342852845d65f932246a500f697e1a