その一の続き
続けて中野京子氏は現代と比較、こう述べている。
「とりわけこの「ロバを売りに行く親子」には、現代を強く感じさせる。多くの人がいて、いろんな情報が飛び交う橋は、インターネット空間そのものだからだ。我々は毎日毎日知らずのうちに、その空間で発信されている膨大な情報や主張を読まされる。
どれももっともらしいが、真実か虚偽かを見分けるのは並大抵のことではない。意図的に流される偽情報に対抗するにはどうしたらよいのだろう。とてもこの親子のことを笑えない」(52-3頁)
ネットユーザーには何とも耳が痛いはず。既存のメディア同様、ネットも意図的に流される偽情報に満ちている。メディアリテラシーを身につけるのは難しい。
本書で私が最も面白かったのが、味噌買い橋の物語。これは現代の岐阜県高山市宮川に実在した筏橋の通称だが、本書で初めてこの話を知った。以下は本書からの引用。
「橋は「運命の逆転」に遭遇する場でもある。日本昔話の『味噌買い橋』がそのことを語ってくれる。
―乗鞍岳(のりくらだけ)の沢上に、長吉という貧しい炭焼きが住んでいた。ある夜、夢枕に老人が立ち、「飛騨高山の味噌買い橋に行けば、耳寄りな話が聞ける」と告げられる。さっそく高山まで出かけ、味噌買い橋の上で行きかう人々に話しかけたが、何日たってもこれという良い話などなく、すっかり落胆してしまう。
こうした長吉の様子を、橋のたもとの味噌屋の主人が不審に思い、何をしているのかと訊ねた。そこで長吉が正直に話すと、味噌屋は笑って「つまらない夢など信じてないで、早く家に帰るがいい。わたしも夢で老人に、『沢上の長吉という男の家の庭に杉の木があるから根元を掘ってみよ、宝が埋まっている』と言われたが、わざわざ行くほど愚かではない。
びっくりした長吉は我が家へ飛んで帰り、杉の根元を掘ってみる。するとお告げどおり、宝がざくざく出てきたではないか。以来、彼は福徳長者と呼ばれ、豊かに暮らしたという」(88-9頁)
この昔話を評して著者はこう述べる。思いがけず転がり込んだチャンスを、しかと見極められる者と、そうでない者。さまざまな人間が通行し、必然的に大量の情報が交換される橋、まさに現代のインターネットの役割にも似た橋。
貴重な情報を正しくキャッチできない者は、運命を切り拓くことはできない。そしてまた、目に見える世界と見えない世界を結ぶ橋。見ようとしない者は、ついに最後まで何も見えない。運命の逆転を果たせないのだ……
正論ではあるものの、夢で見たお告げを鵜呑みにして行動する人間は、いかに迷信深かった昔でも少なかったとも解釈できる。
実はこの昔話、日本古来のものではないそうだ。グリムの『ドイツ伝説集』に殆ど同じ言い伝えが収録されており、欧州各地にもそれぞれの橋と結びついた類似譚が数多く伝わっている。最新の研究では、英国経由で日本に入ったのではないかと推測されているとか。
尤も橋と結びついた欧州の物語も、元々のルーツは『千夜一夜物語』らしい。ただ、こちらでは橋は出てこない。カイロに住む男が夢のお告げでイスファハーン(現イラン)にあるイスラム寺院に行き、宝を獲得する情報を得て金持ちになるストーリーになっている。
著者は元々のルーツ『千夜一夜物語』に橋が出ないのは、欧州に伝播した際、橋に変えられたのではないか、と推測する。イランに比べ欧州は橋の数が遥かに多いだろうし、橋というものが―教会や寺院と同じく―ある種の神聖さを帯びているからに違いない、と。
味噌買い橋の物語で、「ここ掘れワンワン」を連想した方も少なくないだろう。身近なところからお宝がザクザク出てきて、長者になる話は世界中で好まれていたようだ。危険な冒険を伴わず、安全なやり方で富を得るのこそ夢物語だが、橋が舞台なのは現実と夢が結びつく場でもあったためか。
ただ、何とか埋蔵金の発掘に熱中する人は今でもいるので、夢のお告げで長者になった昔話を現代人は笑えない。
欧州でも十字路は恐ろしい場所とされていて、異端者や魔女をその場に埋葬したそうです。決して蘇って悪さをしないよう、この場に埋めたと言われますが、日本にも辻に魔神「辻神」がいます。そのため丁字路には魔除けの石を路傍に供える風習もありました。
> どれももっともらしいが、真実か虚偽かを見分けるのは並大抵のことではない。
某芸人の歴史講座ですが、なかなか大変な内容のようです。他にも、ムスタファ・ケマル・アタテュルクをムスタファ・タマルと言ったとか。ご当人は悪意なく語っているのですが、知名度があるのでもう少しちゃんとした学者について欲しいところです。そして、内容を批判すると「売名のために批判している」と言う抗議がネットから出てきたそうです。ファンが抗議しているのだと思いますが、内容の間違いを指摘しているだけなのに、反発する感覚が理解できません。
https://togetter.com/li/1455157
ついでに、私はかの作品に疑問を持ったからフェルセンの手紙・日記本を見つけて該当箇所を読むことができたので、氏の発言は非常に心に沁みます(苦笑)。
中田敦彦のyoutube大学という歴史講座があることは初めて知りました。中東オタクからすればムスタファ・タマルは酷すぎる。wikiには一応中田は慶応経済学部卒とありますが、所詮は畑違いのお笑いタレントに過ぎません。お笑いタレント如きにマトモな歴史解説を求めるのは安易すぎます。「責任持った発信が大事」と話す中田敦彦こそYouTubeでフェイクを流しているようですね。
https://news.yahoo.co.jp/byline/dragoner/20200115-00158914/
中田を擁護するのは必ずしもファンとは限らないと思います。デタラメ講座のシナリオを書いたのは誰なのか?この手合いに内容の間違いを指摘しても、的外れな抗議や論点ずらしが返ってくるだけと思います。
正直分かりませんが、参考資料の一つが池上彰氏との事です。池上氏に関しては正直どうかと。それなりの方の本を使用して欲しいところです。歴史小説は創作ですが、司馬遼太郎は大量の史料を読んだと言います。尤も、司馬遼太郎に関しては創作を歴史と勘違いして、歴史学者に抗議する例があるとネットで見たことがあります。これは読者の問題ですけど。独ソ戦に関しては、ナチス関係者が作り上げた歴史観が紛れ込んでいるとの指摘がありました。
他にもマハティールがリー・クアンユーを追放してシンガポールが独立した、と解説しているとか。ササン朝ペルシアをイスラム教国と言ったとか、歴史解釈以前の問題でしょう。大麻情報も間違っていたので訂正を依頼しているが、回答がない、ともありました。訂正依頼をしたのは医者です。大麻の是非は議論されていますが、身体に関わる問題について間違いは困ります。当人はお笑い界で池上氏や又吉直樹の地位が欲しいので行動している気がしますが。解釈と関係ない、時系列と固有名詞は正しいものでお願いしたいですね。
https://togetter.com/li/1443093
中田の参考資料の一つは池上彰でしたか。これだけで安易ですね。池上はТV解説でさりげなく嘘を混ぜることがあるという指摘を見たことがあります。参考資料ひとつにその者の姿勢が表れています。
マハティールがリー・クアンユーを追放してシンガポールが独立したとは酷すぎる。ネット検索すればすぐ分かるのに、名の知れた芸人のデタラメ解説の方を鵜呑みにする連中がいるのは呆れます。
ササン朝ペルシアがイスラム教国に至っては高校の世界史レベルにも達しておらず、これでよく歴史講座をしていますね。飯山陽氏がツイートしてきたのは当然でしょう。まさに「不十分」なのではなくデマ。氏の著書は未読ですが、ちかく読むつもりです。
>どれももっともらしいが、真実か虚偽かを見分けるのは並大抵のことではない。意図的に流される偽情報に対抗するにはどうしたらよいのだろう。とてもこの親子のことを笑えない
玉石混交の中から玉を探すのもまたネット楽しさだと思うんですがね。騙されるのも含めてネットのだいご味じゃないかなあ。
とは言ってもお金や犯罪に巻き込まれる嘘は勘弁ですが。
しかし犯罪に繋がる嘘は怖い。公共機関や大企業を騙るフィッシングは当たり前になりました。