トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

神秘の遺宝〜ロンギヌスの槍・聖杯・死海文書〜

2021-05-29 21:40:18 | 音楽、TV、観劇

 録画していた「ダークサイドミステリー」(NHKBSプレミアムBSプレミアム)の「神秘の遺宝の謎に迫る〜ロンギヌスの槍(やり)聖杯死海文書〜」(5月13日放送)を見た。以下はNHKオンデマンドでの紹介。

聖なるもの。それは人に驚くべき力を与える。アニメやゲーム、映画に登場する聖なる遺物たち。現実には“本物”が伝承される一方で、フィクションでは“世界を変える”“すべての願いをかなえる”など、すさまじいパワーで物語を彩る。
 なぜ、魅力的なイメージは飛躍したのか?そもそもの遺宝の真実とは?聖なるものと人類、2000年に及ぶ知られざる伝説とは?ロンギヌスの槍(やり)・聖杯・死海文書、驚きと秘密の真相に迫る。

 私は最近のアニメや漫画はまず見ていない上、ゲームをしたことのないほどのアナクロ人間。“聖槍”や“聖杯”などの聖遺物がアニメやゲーム、漫画のテーマに広く使われていたことを番組で初めて知った。
 聖遺物のことは知っていたが、私の場合は全て書物からの知識だったし、クリスチャン人口が国民の1%代という体たらくにも関らず、キリスト教文化がこれほど日本のサブカルに影響を与えていたことに驚いた。

 確かに日本のメディアでは殆どキリスト教礼賛一色であり、キリスト教文化に大層好意的である。番組に登場していた女性キリスト教研究者の発言、「聖書やキリスト教のモチーフは物語の宝庫」「サブカルの源流」は意味深だった。遺物が“本物”であるかは問題ではない、と。
 同じ一神教でもコーランは聖書に比べ、日本では物語になり難いばかりか、聖典への冒涜として、非難ごうごうとなるのは目に見えている。下手すると、作者や制作企業に害が及ぶだろう。

 一方、インドの叙事詩マハーバーラタはヒンドゥー教の聖典でもあり、こちらのモチーフもサブカルの宝庫なのだが、異教徒がアニメやゲームに使うことには寛容ではない。
 現代のインド亜大陸のヒンドゥー教徒は、異邦人が彼らの神聖な呪文を勝手に暗唱するのを極度に嫌うことが『ゾロアスター教』(青木健著、講談社選書メチエ)に載っている。その任にあらぬ者が、彼らの神々の霊力を乱用していると映るらしい(62頁)。これでは到底サブカルに使えない。

 番組のゲストには数多くのゲームブックを手掛けた塩田信之氏が登場、興味深いことを語っていた。聖書にまつわる外伝は多数あるが、これは聖書を題材とした同人誌と云うのだ。聖書は創作の触媒とも断言しており、著作家ならではの見方は鋭い。聖書正典に飽き足らぬ聖職者たちが様々な外伝を書き、それを信者たちが熱狂的に支持したのだ。

 これほどキリスト教関連文化が広まっているにも関らず、なぜ日本では依然としてクリスチャン人口が国民の1%代に留まっているのだろう?ネット上でもその理由は様々論争されており、「日本人とキリスト教:なぜ「信仰」に無関心なのか?」という記事の結びの一文はこうある。
日本人が落ち着いてキリスト教について考え始めるのは、むしろこれからなのかもしれない
 書き手は宗教学者・石川明人准教授だが、それは貴方の大いなる的外れの願望解釈でしょ、としか言いようがない。

 石川准教授はまだソフトな物言いだが、岡本亮輔なる北海道大学大学院准教授は日本の伝統宗教を徹底してこき下ろしている。例えば「大半の日本人は(仏教の)教えに共鳴したわけではない」、「神道も仏教も、大半の日本人はその教えに共鳴して選択したわけではない」と述べる。
 では、キリスト・イスラム教徒はその教えに共鳴して選択したのか?そもそも近代以前には信仰の自由や選択はほぼ不可能だったし、武力による強制改宗で教えを広めている。その程度の史実は高校世界史レベルの知識があれば知っている。そして教えに共鳴していなければ、戦国時代に一向一揆が頻発するはずがない。

忠臣蔵の聖地がニセモノも堂々と飾るワケ」も非難としては実に不遜。キリスト教の聖遺物などニセモノばかりだし、それが聖地に堂々と飾られている。番組でもロンギヌスの槍は2003年のウィーン工科大学の調査で、8世紀に作られた代物と判明したことを放送していた。
 聖杯や聖杯伝説についてはアーサー王物語で知っていたが、聖杯のルーツはケルト神話にある大釜にあったことを番組で初めて知った。聖杯は材質も様々な品が世界各地に5個もある始末。岡本准教授殿の専門は聖地観光論だから、キリスト教には怪しげな聖遺物により“聖地”になった所が、多々あることを知らないとは言わせない。

 M.ガンディーは自伝で、子供時代はキリスト教が嫌いだったと述べていた。理由はキリスト教の宣教師はヒンドゥー教の悪口ばかり言い、改宗した人々に洋服を着せ、牛肉を食べさせていたからという。日本でキリスト教が信仰されないのとよく似てはいいないか?日本人クリスチャン及びキリスト教研究者は反日や侮日が鼻につき、論難する意図で日本の伝統宗教をこき下ろすのが常だけから。
 本来ならキリスト教研究者こそ落ち着いて、キリスト教が日本でウケない理由を考え始めるべきなのだが、先の2人の宗教学者のコラムから100年後も無理だと痛感させられた。キリスト教が広まらない一切の責任は宗教組織や信者にある。

◆関連記事:「日本で受けないキリスト教
カトリックによる日本侵略
キリスト教会、その信者の歴史観

よろしかったら、クリックお願いします
   にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (牛蒡剣)
2021-05-29 23:25:01
ロンギヌスの槍と死海文書は大ヒットしたアニメ
「エヴァンゲエリオン」の影響で知名度が爆発したと思います。TV放送が25年ぐらい前で、当時
中学生で見ていました。最近リメイクが映画公開され今年4部作の最終章が公開されヒットしています。が見ることはお勧めしませんw

私もロンギヌスの槍は「エヴァンゲエリオン」で知りましたw聖書やキリスト教への関心の入り口でしたねえ。
「聖杯」ネタだとFATEシリーズのゲームが若年層では一番知らしめた存在でしょう。私も1作のみ手を出しましたw(2004年)現在でも続いており
ソシャゲになって長らく年商世界一のゲームとして君臨していました。アニメ化やスピンオフ作品も多いですね。この作品のせいでアーサー王が
女性だと思う人を多く生み出してしまうのですがww。私もアニメ ゲームが切っ掛けで新書や文庫に手を出した歴史ネタは結構ありますw

>興味深いことを語っていた。聖書にまつわる外伝は多数あるが、これは聖書を題材とした同人誌と云うのだ。聖書は創作の触媒とも断言しており、著作家ならではの見方は鋭い。聖書正典に飽き足らぬ聖職者たちが様々な外伝を書き、それを信者たちが熱狂的に支持したのだ。

これはオタク界隈では結構前から語られてましたね。私も2000年初頭にはこういう論説をネットで見ています。学者さんの方が遅れているw
返信する
ロンギヌスの槍 (スポンジ頭)
2021-05-30 10:47:06
 おはようございます。 
 
 ロンギヌスの槍とか死海文書だとアニメの新世紀エヴァンゲリオン、聖杯ならFate/Grand Orderと言うゲームとアニメですかね。ちなみに、エヴァンゲリオンやFate/Grand Orderに関する知識は殆どありません。中国語だと、「新世纪福音战士」です。

 こちらは実際にエヴァンゲリオン関連で制作されたロンギヌスの槍。ダマスカス鋼仕立てになっていて手間が掛かっています。
ttps://tidaisu1106.ti-da.net/e7156397.html 
ttps://news.livedoor.com/article/detail/8279428/

 Fate/Grand Orderはマリー・アントワネットやシャルル・アンリ=サンソンを検索した際に知りました。キャラクターとしてこの両名はゲーム内に登場するのです。某ファストフードでもコラボをしていました。

 しかし、これがイスラム教関係だと確かに使えないでしょうね。アニメのジョジョの奇妙な冒険で、エジプトにいる吸血鬼のキャラクターが本を読んでいるシーンがあります。この本がコーランだったのでイスラム教徒が抗議、製作者が謝罪しました。それはともかく、イスラム教徒側はアニメを海賊版で視聴しており理不尽な抗議にしか見えませんが、相手が相手なので製作者も反論できなかったのでしょう。漫画版は文字の部分に線が引いてあるだけなので、何を読んでいるかは不明です。

 キリスト教の文物は欧米の文化の基層ですから、ある程度日本人に馴染みがあり、かつ外国風味と言う点で使いやすいのでしょう。イスラム教関係は文化的に遠すぎます。
返信する
牛蒡剣さんへ (mugi)
2021-05-30 21:26:33
 記事にも書いたように。私はアニメやゲームに疎いため、ロンギヌスの槍や聖杯、死海文書がこれらの作品に使われていたことを番組で初めて知りました。使われた作品として「バイオハザード」「エヴァンゲエリオン」「美少女戦士セーラームーン」などが紹介されていました。
「エヴァンゲエリオン」は話題になっていたので、何年か前のТV放送時に録画して見ましたが、好みに合わなかったためか、20分ほどで止めました。威勢のいい少女と内向的な少年が登場し、今時のアニメはこのパターンなのか……という印象でしたね。

「美少女戦士セーラームーン」も聖杯が出てくるとは知りませんでした。本当にサブカルに聖書は尽きないネタを提供していたのですね。
 アーサー王が女性だと思う人を多く生み出してしまったのは笑えますが、アニメ、ゲームがきっかけで新書や文庫を読むことになったのだから、サブカルはバカにできません。

 塩田信之氏の名も今回初めて知りましたが、氏の様な論説は既に2000初頭に出ていたとは……返って著作家の見解の方が斬新です。
 サブカル、殊に美少女が出てくるアニメやゲームを目の敵にしている女学者もいますが、この類の論説は実に低レベルで、知見の欠片もない
難癖にしか見えません。決まり文句は「欧米では~~」の一点張り。
返信する
Re:ロンギヌスの槍 (mugi)
2021-05-30 21:29:38
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 先のコメントにも書いたとおり、新世紀エヴァンゲリオンはТVで放送した映画版を20分程度見ただけなので、ロンギヌスの槍や死海文書が出てくることは知りませんでした。劇中に登場するロンギヌスの槍は二又の槍となっていたのですね。「ダマスカス鋼」という用語も初めて知りました。検索したら、ダマスカス刀剣の製法は失われた技術となっているとか。

 Fate/Grand Orderというゲームとアニメも初耳です。マリー・アントワネットやシャルル・アンリ=サンソンがキャラとして登場するゲームもあったとは!

 アニメ・ジョジョの奇妙な冒険のエジプト編で、イスラム教徒からの抗議があったエピソードも初耳です。イスラムの教義を厳格に解釈すればアニメは違法だし、ТVもご法度のはず。しかし現実にはサウジさえ放送しており、ご都合主義の極みです。だからイスラム教関係は文化的に魅力に乏しく敬遠されます。

 興味深いのは聖遺物が使われている日本のアニメやゲームに対し、欧米は「聖書への冒涜!」とは言わない点。「聖☆おにいさん」だって、イエスを侮辱した!と激高した欧米人の話は聞きません。むしろ日本人宗教学者が不快感を示しているアナクロさ。この意味では欧米人もイエスを信じていないとなります。
返信する
孔雀王 (motton)
2021-06-01 12:09:23
私がロンギヌスの槍や聖杯を認識したのは『孔雀王」(1985-1989)かなあ。基本は密教世界で世界各地の神話・宗教を取り入れたヒット作。
インド神話をモチーフにしたのは「3x3 EYES」や「聖伝-RG VEDA-」が有名でしょうか。
返信する
Re:孔雀王 (mugi)
2021-06-01 21:55:15
>motton さん、

『孔雀王』の実写版は友人に誘われ映画館で見ています。何の予備知識もなく見たし、アシュラという美少女がヒロインだったため、SF『百億の昼と千億の夜』のパクリ?と疑いました。

「3x3 EYES」や「聖伝-RG VEDA-」は知りませんでしたが、やはりインド神話をモチーフにした作品がありましたか。
返信する