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ナスリン 闘う女性弁護士

2021-03-17 21:35:07 | 音楽、TV、観劇

 録画していたNHK BS1世界のドキュメンタリー、「ナスリン 闘う女性弁護士」(3月9日放送)を興味深く見た。以下は番組HPでの紹介。

女性や子供の人権を守る活動を続けてきたイランの人権派女性弁護士で、現在は刑務所に収監されているナスリン・ソトゥデ。その波乱に満ちた半生を描くヒューマンドキュ。
 ナスリンは、父親から性的虐待を受けた少女や無実の罪で死刑を宣告された10代の子どもなど、一貫して社会的弱者のために法廷に立ち、イランの法律の壁を破ろうと活動を続けてきた。現在は、髪を覆うスカーフの着用を義務付ける法律に抗議した女性の弁護を行ったことで治安を乱したとして、刑務所に収監されているナスリン。家族や支援者の支えの下で闘い続ける彼女の半生を描く。
原題:Nasrin(アメリカ 2020年)

 2003年にイラン人初のノーベル平和賞を受賞、番組にも登場する人権活動家の女性弁護士シリン・エバティは知っていたが、ナスリンの名は初めて知った。シリンも勇敢な活動家だが、ナスリンの行動力には圧倒される。ひょっとすると日本では、中東に女性人権活動家がいること自体、案外知られていないかもしれない。

 尤も番組の冒頭に、「224年、ペルシア帝国で女性の地位は子供や奴隷と同じだった……」というテロップには苦笑した。同時代のローマ帝国も似たようなはずだし、女性の元老員議員などいたのか?
 1906年のイラン立憲革命も挙げられ、政治変革運動に参加した女性も少なくなかったのに参政権は与えられなかった……等のテロップまであった。
 いかにイランでは古代から女性は虐げられていたと言わんばかりの解説だが、「世界各国の国政選挙における女性参政権の獲得年次」に目を通しただけで、1906年時点で女性参政権のあった国は欧米でも稀である。ちなみに中東で最も早く女性参政権を獲得したのはトルコ(1934年)、イランは1963年だった。

 実はナスリンは元は銀行員、恵まれた環境にあったそうだが、他の女性活動家から弁護士になってみたら?と言われ転職、2003年から弁護士を始めたという。私生活では1995年にグラフィックデザイナーのレザ・カンダンと結婚、一男一女がいる。
 実の娘を性的虐待する鬼畜同然の父親は日本にもいるが、ナスリンの話ではこの種の男は、父親には子供を殺す権利があり、まして性的虐待など大したことがないと居直ったそうだ。しつけを持ち出す日本に対し、イランは宗教を盾にするのか。
 
 未成年でも死刑にする国があるが、イランもその一つ。2018年の国連人権高等弁務官事務所によれば、少年犯罪者の80人が死刑待機しているという。2019年の国の人口順リストでは8,291万人強の国でありながら、飛び抜けて高い。ナスリンの担当した少年犯罪者には死刑囚もいて、死刑回避に尽力したものの、処刑された少年もいた。尤もこの少年は、拷問による自白と冤罪の可能性もあるようだ。
 いかに気丈なナスリンでもストレスを感じた時は、美術館に行って芸術鑑賞をしているそうだ。画像に映ったイランの展示絵画は質が高く、イスラム体制でも絵画は認められているのは救われる思いだった。

 番組では映画監督のジャファール・パナヒが登場していた。彼もまた当局に睨まれている人物だが、パナヒの作品『人生タクシー』には政府から停職処分を受けた女性弁護士が出ている。この女性弁護士こそナスリンだった。
 イラン当局がナスリンに圧力をかける際、本人だけでなく夫や子供を拘束することもしばしば。10歳そこそこの子供まで尋問するのだが、これに言及した日本の中東研究者や人権主義者たちはいるだろうか?

 髪を覆うスカーフの着用を義務付ける法律に抗議した女性の弁護を行ったことでナスリンも罪を問われ、禁固38年6個月、むち打ち148回の判決が下された。殆ど死ぬまでムショに入っていろ!という判決だが、これにデモ抗議する各国の様子が紹介されている。アイルランドやイタリア、オランダ、トルコ等々……もちろんアメリカも。

 在日イラン人にはNHKにもよく出ている女性タレント・サヘル某がいるが、母国の体を張っている人権派女性弁護士にも言及してほしいものだ。
 イランに限らないが、中東の女性人権活動家の勇気には感服させられる。このような女性はイスラム原理主義者からしばしば脅迫を受けているが、それでもひるまない。これぞ真の人権派であり、常に安全圏で活動を利権手段としている日本の女人権屋は似非そのものだ。

◆関連記事:「人生タクシー
我慢しすぎる日本社会
私のような少女たちへ/アフガンの性虐待

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
鳳山さんへ (mugi)
2021-03-21 21:27:51
 お気遣いありがとうございます。幸い津波もなく、我が家ではこけしが倒れたくらいで無事でした。埼玉には叔父がいますが、叔父の話では関東でも強い揺れがあったとか。

 2月末にも大地震があったばかりだし、津波がなくても大地震はやはり怖い。日本で暮らす以上、どうしようもありませんね。
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Unknown (鳳山)
2021-03-20 18:16:04
記事とは関係ないですが地震大丈夫でしたか?のんびりしていたら急にNHKで緊急地震速報が流れてきたので心配しました。
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鳳山さんへ (mugi)
2021-03-19 22:51:52
 男性が中東に女性の人権活動家が居ることを知らないのは無理もないと思います。何もしても絶対死刑にならないどころか、メディアが全面擁護してくれる日本では、似非活動家ばかり目につきます。これは女性にとってマイナスになるでしょう。
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Unknown (鳳山)
2021-03-19 09:00:55
恥ずかしながら私も中東に女性の人権活動家が居ることを知りませんでした。何もしても絶対死刑にならないぬるま湯の日本と違ってあちらでは命がけでしょうね。覚悟が違うと思います。
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