トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

トイレット 10/日/荻上直子 監督

2010-10-14 21:35:54 | 映画
 舞台は米北東部、1人を除き出演者はすべて外国人、全編英語で字幕付きという異色の邦画。それでも監督は日本人で脚本も兼ねているため、外国人役者による日本式ホームドラマに仕上がっていた。また、タイトル通り日本のトイレがストーリーで重要な鍵となる。

 企業実験室に勤務するレイはロボットプラモデルオタク。毎日同じ服装(ただし、同じ型の服は7枚ある)で出勤し、実験を繰り返す。彼は人生とは退屈の繰り返しに耐えることであり、誰にも迷惑をかけず、誰にも迷惑をかけられないものだと信じて疑わなかった。そんな彼の心の慰めはロボットのプラモデル。沢山のプラモデルを部屋に飾り、それを手に取って満悦する。
 レイの単調な生活も、母の死をきっかけに大きく変わる。住んでいるアパートが火事となり、ママの遺した家で家族と暮らすことになる。心の病で4年前から引きこもっているピアニストの兄モーリー、強情な大学生の妹リサ、ママが生前に日本から呼び寄せたばーちゃんに、センセーと名付けられた1匹の猫との同居生活が始まった。

 家族と暮らし始めたレイは、ばーちゃん(grandmotherではなく、この日本語を使っている)がトイレの後に必ずため息をつくのが気になった。ばーちゃんは英語が話せず、その理由をレイは聞くこともできない。そこでインド人の同僚アグニ(インド神話の火の神アグニから?ちなみにインドはアグニというミサイルも生産している)に相談すると、彼はインド式用便の仕方の他に、日本式トイレを絵まで書いて説明し、日本のハイテクトイレを称賛する。ネット検索したレイは、ほしかったロボットプラモデルと、日本のウォシュレット型トイレが同じく 3千ドルであることを知る。

 母の遺品を整理していた兄モーリーは、古いミシンを発見する。ばーちゃんはその動かなかったミシンを直し、とり憑かれたようにミシンで布を縫うモーリー。縫い上げたのはスカートで、彼はスカートを巻きつけ再びピアノを弾くようになった。ピアノを奏して元気を取り戻したモーリーは演奏会に出ることを決める。

 大学生のリサはゼミで詩を専攻していた。同じクラスで詩心のある男子生徒と親しくなるが、その生徒は教授も評したように小才があっても高ぶった性格であり、詩は“フェイク”に過ぎなかった。ゼミで見事な詩を発表し、フェイクでないことを実証したリサは、元から自己表現の手段として情熱を傾けていたエア・ギターの世界選手権に出る決意をする。それには資金がいり、ダメもとで英語の話せないばーちゃんに借金を申し込むが、微笑んでちゃんと金を渡すばーちゃん。

 家族と同居始めた頃、レイはばーちゃんの素性を疑り、研究者らしくヘアブラシから髪を抜き取り、密かにDNA鑑定をする。しかし、ばーちゃんのブラシと妹のものを間違え、妹の鑑定をしてしまう。その結果、予想もしなかった事実が分かる。赤の他人だったのこそレイであり、兄や妹とは血の繋がりがなかったことを兄から聞かされる。ショックを受けたレイだが、同僚アグニの言葉で悩みを吹っ切る。
 ばーちゃんと暮らす日々により、それまでバラバラだった家族は絆を深め、新たな人生を歩み始める三兄弟だった…

みんな、ホントウの自分でおやんなさい」がこの作品のコピーだが、劇中にそんな台詞はなかった。真の主役はばーちゃんであり、ばーちゃん役のもたいまさこの存在感が際立っていた。この映画でのもたいの台詞は「モーリー、クール」のみだったが、その一言だけでよかったと思う。もたいは荻上監督作品の常連となっており、前作『めがね』での「メルシー体操」は笑えた。
 レイがオタクが一番嫌がることとして、「同情されること」と言っていた。確かにネットでもオタクをコケにする意見は結構見られるし、彼女も出来ない哀れな奴…というネガティブな印象が流布している。しかし、オタクを嘲っている当人こそ、盛んにネットに書込みしている依存症 (おそらく無職)だったりする場合も。社会人のオタクと社会に寄生する非オタクでは、前者の方が遥かに真人間である。

 映画ではテイクアウトのスシが130ドルとなっており、4人分でイクラが多く入った種類にせよ、結構高い。また、ロボットプラモデルとウォシュレット型トイレが同じく3千ドルなのも不思議だった。私のようにフィギュアに興味のない者からすれば、この値段だけで驚くが、日本でウォシュレット型トイレは最新型や高級品ならともかく、工事費込でももっと安いのではないか。
『トイレット』に登場する日本のトイレはTOTO製で、もちろん特別協賛となっている。我が家のトイレもこのメーカーで、9月末、15年間使用したウォシュレットがお釈迦になったので、新品に交換したばかりである。新しいトイレの快適さにはため息が出た。

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 「めがね

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